自宅の玄関を閉めた途端、和彦は後ろからももこの身体を力一杯抱きしめた。
「花輪くん。……ごめんなさい」
ぎゅうっと力を込めた腕に自分の手を重ねたももこは、項垂れながら謝罪の言葉を口にした。
「あたし、怖くなっちゃったんだよね」
「僕が護るから」
和彦を受け入れるにはあらゆることを覚悟しなくてはならない。家柄、これからの役職、友人知人関係その他諸々。両天秤に掛けた時、結果も見ずに逃げ出したのはももこである。
愛があればなんでも乗り越えられるだなんて、お花畑の中だけだ。
「絶対ひとりにしない。どんな時も僕が側にいて、支えて護るから」

結婚して欲しい。

もう一度、ももこの実家で言ったことを繰り返した。護るから。一生大事にする。──結婚して欲しい。
「……」
ようやく和彦の腕の中で身体を反転させたももこは、向かい合った和彦の顔をじっと見つめながら手を伸ばして両手で頬を包んだ。
「……愛されるだけじゃ、つまんないなねぇ」
「ももこ」
「一方的に愛されるだけじゃ、嫌。──あたしにも同じくらい、……和彦くんのことを愛させてよ」
どちらかが多くてもダメ。同じくらいの重なりで、お互いを愛し合える関係がちょうどいいの。

和彦が屈んだのが先か、ももこがつま先立ちしたのが先かはわからない。
玄関口で交わした口づけは、深い口淫となって互いの唾液を飲み込みあうほど。ももこの両腕が和彦の首に回り、代わりに彼の腕が彼女の身体を引き寄せた。隙間なく合わさる身体と身体は、それだけでは足りなくて相手の服を脱がせ合うに至る。
「スーツ、皺になっちゃう」
呼吸の合間に心配したことなど聞く耳も持たず、小さな身体は軽々と抱き上げられて彼の自室へと運ばれてしまった。
ベッドの上に投げ出されると、スプリングで跳ねた身体を和彦が上から押さえ込みながら再びキスの雨を降らせる。
「覚悟して」
マウントをとった和彦が、まるで獰猛な獣のような目でももこを射る。背中をかけあがった震えは、恐怖ではなく貪られる歓喜であった。
この先に何が待っているかは、もう知っている。和彦が教えてくれた。だからもっと愛して頂戴。
「──もう出来てるよ」
そこからはもう、ジェットコースターのようにめくるめく快楽の始まりであった。





「ぁ、ダメ……こそッ、ン!」
「ダメじゃなくて、気持ちィんだろ?」
まだ慣れない指と口での愛撫を真っ赤になりながら受け入れるももこは、身体をよじらせながら和彦の欲情を誘う。
吹き出す汗に混じる体液は、最早どちらのものかわからなかった。
入口をしつこくこねられると、ももこは無意識に腰を振ってしまう自分が恥ずかしくて仕方ない。あの日のようにもっと奥まで和彦の全てで満たされたいのに、物足りなくて、そう思う己が酷く破廉恥な気がして泣きそうになってくる。
ももこの意思を汲んだのか、間もなく和彦の熱がももこのナカをみっちりと満たした。ますます吐息に熱がこもる。
「もっとよく顔を見せておくれ、ハニー」
覆いかぶさっていた身体を繋げたまま起こし、ももこを自分の腰の上に乗せると激しく下から突き上げる。
「あッ、すご、あンッ」
ただでさえ自重で奥まで咥えこんでいるというのに、その上激しく掻き回されてはたまったものじゃない。必死になって和彦の首筋に掴まると、もっと飲み込めとばかりに両手で臀部を広げられ、これ以上ないくらい深く穿たれた。
「あ、あッ、〜!」
声にならない嬌声に、和彦が薄く笑う。その彼だって、なにかを堪えるように眉間には深いシワが寄っていた。
「イィ、かい! ももこォッ」
「おかしく、なり、そッ」
「僕も、だ!」
深く激しく、まるで今までの時間を埋めるような濃厚なセックスだった。
願わくば溶け合うほどに。
けれどもやはり別々だからこそ、こんなに相手を感じられるのだ。

到達点が近い。もっと近くなるように密着して抱き合うと、悦楽を超えてえも言われぬ幸福感に包まれた。
「……ッ」
達した証がももこのナカに溢れるほどに注がれる。
しばしの脱力と多幸感に身をゆだね、お互い目が合うと恥ずかしそうに笑い合いながら、もう一度口づけから始まった。







こんな日が来るだなんて、あの頃の自分には想像がつかなかった。
今だから言えるよ。

────夢も恋も、諦めちゃ駄目なんだって。








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