噛み付くような激しい口づけに追いつけなくなったももこが、苦しそうに息を吸った。
息継ぎの合間が少なくて溺れたように喘ぐ彼女を組み敷きながら、和彦は確かめるようにまる子の身体に唇を這わせていく。
陽に当たらない肌は白く滑らかで手触りがいい。筋肉のほとんどない身体は柔らかく、酷く抱き心地が良かった。
「花輪、く……」
途切れる声に隠れる色香は、ただただ和彦の欲情を増すばかり。
「さくらクン……、ももこ」
「名前……」
「ずっと呼びたかった。──ももこ、好きだ」
好きだと何度も呟きながら少しずつももこの身体を暴いていく。まとう布を一枚、また一枚と脱がせていく度に興奮していく自分を和彦は自覚していた。

ずっと胸の奥で想っていた初恋の女の子が、今まさに自分のものになろうとしている現実に眩暈がしそうだ。

ブラジャーの上から膨らみの先を咥えると、鼻にかかった高い声で彼女が鳴いた。恥ずかしそうに顔を背けるその仕草が、和彦の嗜虐心を唆すとは露知らず。
ホックを外して色づいた蕾を外気に晒すと、まる子は可愛らしく震えだした。
この先になにがあるのかわからないわけがあるまいのに、まるで初心な処女のような反応が却って和彦を燃え上がらせた。
胸を伝いへそを撫で腹を這い、下肢を守る薄布の中へと指を忍ばせる。掌で肌の震えを感じながらも、下生えの茂みの奥を目指して長い指が秘裂の淵をぐるりと撫でた。
「ぁ……!」
悲鳴のような嬌声をよそに会陰から溢れた愛液をまとうと、最大限の優しさを用いてゆっくりと楽園への入り口をほぐしていった。狭い。十分に潤わないと、きっと痛いだろう。
クチュクチュと卑猥な水音と、ももこのか細い声が次第に甘い響きをまとって、いいだけ煽られた和彦の我慢にもとうとう限界が来た。
「いいかな……」
返事はない。すでに脱力したももこは浅い呼吸を繰り返して、ただ視線だけを和彦に向けて小さく瞬いた。
逸る気持ちを抑えながら、張り詰めた怒張に彼女の潤いを纏わせてゆっくりとナカへと挿入する。

ナカは想像以上にキツかった。
ももこの道が細いのか和彦のそれが太いのかはわからないが、まるで初めて道筋をつけるような狭さに思わず息を呑む。手淫をし、時には口淫で時間をかけて解したつもりだったが、まだ足りなかったか。あとは彼女が痛がらないようにゆっくりゆっくりと繋がっていくしかない。
「ごめん、ね……」
ハアハアと荒い呼吸の中で謝ると、生理的なものなのか涙を溜めたももこが顔を歪めた。
「なんで、謝るの……?」
「だって────」
小さな身体に和彦の欲情を押し込められて、苦しくない筈ないのに。


そして恐らく、彼女はこれが初めての経験なのだろうに。


「あは、は……バレちゃった?」
無理矢理にでも笑おうとする彼女の姿に、胸が軋む。
「どうしてッ」
「だって────」
力が抜けた隙をついて一気に押し入ると、やがて奥まで届いた。
全てを収めきると、深いため息を吐いてももこに負担がかからない程度に覆いかぶさる。自分も余程力が入っていたようだ。
ああ愛おしい。身体を繋げたからではなく、心が、全てが。
ももこの息が整うのを待って、ゆるゆると抽送を始める。大きくなど動けない。彼女の様子を見ながら、無理のないようにゆっくりと。
「ふ、ぁッ……ん」
動きに合わせてももこが濡れた声を漏らす。それをさせているのが自分かと思うと、果てのない征服感に酔いしれそうになった。
今までこんなに愛しくて、欲しいと思った女性などいなかった。初めての恋を教えてくれた彼女は、初めての欲望も教えてくれた。
ぐっと深く抉ると、細い身体が悦楽の為か仰け反った。突き出された乳房を口に含みながら、腰の動きを速めていく。その度にももこの顔が歪むのだが、痛さを堪えていた先ほどとは違う悩ましい官能を匂わせる表情に、ズクズクと胸の奥が疼いて堪らなくなった。ああ、本当に────。
「い、イク……ッ」
我慢に我慢を重ねていた限界が近い。腰に溜まった情欲が捌け口を求めて暴れだす。
もう手加減などと言っていられなかった。和彦は和彦の本能のままに腰を打ち付け、理性の箍を外された雄の自分が、なにもかもに目隠しをして動物のようにももこの身体を荒々しく食んでいく。
「ィ、……よ。キテ、はなわく────ッ」
「ももこ、あぁ、ももこォ!」



全てを吐き出した和彦は乱れる息もそのままに、汗にまみれた彼女の頬をうっとりと撫でた。
キツく眼を閉じていたももこだったが、和彦の掌が触れるとびくりと肩を揺らしてゆっくりと目を開ける。初めての行為で受けた疲労は深い爪痕を残し、疲れきった身体は指の先まで力が入らないようだった。
そろりと和彦自身をももこのナカから引き抜くと、糸をひいた白濁が朱色を混じらせてとろりと垂れる。卑猥な光景に気分は高揚したが、もう彼女に無理強いをするつもりはなかった。
愛情が溢れるまま口づけを落とし、想いを込めて髪の毛を梳く。
今更ながら嫌がられていないことを確認しながら、全身をふき清めると、ごめんねとありがとうの言葉をももこが呟いた。
何も謝る必要などないのに。むしろワガママに彼女を抱いた和彦こそが謝罪をするべきなのだ。

あとは朝、起きてからふたりで風呂を使えばいい。脱ぎ散らかした衣服を整え、ベッドを変えるとももこを抱きしめながら横になった。
「……こういう時、気の利いたことでも言えればいいんだけど」
すっぽりと和彦に包まれてウトウトとしながら寝惚け半分で彼女が呟く。それを受けてふふふ、と和彦がふわりと笑った。
「何もいらないよ。キミが僕の隣りに居てくれさえすればね」
「……そっかぁ」
「さあ、疲れただろう? もう寝たまえ」
「ん……」
すでに夢現の狭間をさ迷うももこの寝顔を見ながら、和彦も幸せな眠りにつくのだった。



そして現実は、翌朝やってくる。

和彦が目を覚ました時にはもうまる子の姿は腕の中から消えていて、荷物もなにもかも消えていた。
思い当たることなどない。昨夜は確かに気持ちを確かめて結ばれたはずなのに。
携帯電話の連絡も受け付けてはかくれない。
それともあれは和彦の一方的なものだったのだろうか?
鬱々とした思いを抱えながらひとり自宅に戻ってもやはりまる子が帰宅した様子もなく、唯一置き去りにされた画材道具一切が消えていないことだけが心の拠り所だった。

しかし和彦のリフレッシュ休暇が終わるまで残された日数の間、まる子が和彦の部屋に戻ることはなかった────。



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