──恋愛の終着点て、なんなんだろうね?


何気なく呟いたももこに、和彦が視線をさ迷わせながら応えた。
「人それぞれじゃないのかな」
たまえの結婚話から話題が逸れた。
「花輪くんは?」
「僕、かい? 僕なら……」
身体を繋げることだけがゴールではない。もっと違う何か。
「あたしはね、」
和彦が用意した口当たりのよい白ワインで喉を潤わせる仕草が、やけに艶かしい。こくりと震える喉元に食いつきたい衝動を、無理矢理にでも抑えつけた。
「恋の終わりが恋愛の終着点だと思うんだ」
「それは、失恋ということかい?」
「ううん、そうじゃなくて」
食後のコーヒーが今夜はワインだったせいか、ももこの大きな瞳が潤んで揺れていた。
酒は好きだが弱いと言っていたから、もしかしたらそろそろ限界なのかもしれない。
「恋の昇華が愛だったら、恋が終わって愛が始まる、とかだと、素敵じゃない?」
漫画家を目指す彼女は時折、哲学っぽい考え方をする。
しかしそれは和彦にとっても興味深い話だった。
「キミなら恋と愛、どっちが欲しいんだい?」
挑むような和彦の視線にももこはまっすぐと、しかし泣き出しそうな顔で、両方、と短く応えた。

昼間繋いだように手を重ねて、そのまま抱き寄せるとなんの抵抗もなく彼女は和彦の腕の中に収まってしまった。
ドキドキと高鳴る胸の鼓動は自分のものか相手のものかすらわからない。
虫の音がしていたはずなのに、耳奥でドクドクと心臓の音が聴こえてわからなくなってきた。

「────好きなんだ」

決定的な言葉を捧げると、彼女も小さく頷いて。




そこから記憶は曖昧な閨の中に沈んでいく。



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