おかしなもんだね。
この場合、おかしいのは君の格好さ。

言われてももこは己の姿を見下ろす。

素肌に羽織ったティーシャツは恋人のものだ。グレーの無地。上背のある和彦の服は、ももこの太股を軽く隠せるほどに丈が長かった。
「変?」
「僕は何も着なくていいと言ったのに」
そう言う和彦は、先程の情事の後から何も着ていない。均等の取れた肉体は惚れ惚れするほど相変わらず美しかった。
彼の部屋は暖かいし誰もいない、ぴっちりとカーテンも引かれているから覗かれる心配もないわけなので、確かに何も着なくてもいいのだけれど。
「落ち着かないじゃん」
いくら見慣れた身体だとしても、そこは礼儀というかなんというか。

散々啼かされたおかげで喉はカラカラ。大きな冷蔵庫からアイスティーを取り出してグラスになみなみ注ぐと、それを一気に煽った。ようやく潤いを取り戻してひと息ついたももこの後ろから、逞しい腕がその華奢な身体を甘く囲う。
薄布一枚しか隔てていないおかげで、彼の胸筋や腹筋がありありと感じられてどきりとした。行為に溺れた身体の芯がまだ冷めていないのか、じわりと熱を挟む。
「どうせまた脱ぐのに」
言いながら両脇から抱えるように掌が脇を這う。ブラジャーのラインを辿るように行ったり来たり、やがて乳房を持ち上げるようにして下から胸を持ちあげてきた。
「ちょッ、止めとくれよ」
「いいじゃないか。キミの後ろ姿が扇情的で止められないんだよ」
確かに硬くて熱い棒が腰のあたりに押し付けられている。見なくても彼のどこの部分かがわかる自分自身にももこの頬が燃えた。
「さっき、シたじゃんか」
「まだ足りない……」
「あ、?────……」
少し腰を落としたのか、ももこの尻に擦り付けられていた熱棒が臀部を滑って着ているシャツの布越しに股の間を擦ってきた。思わず息を詰める。だって─────。
「ももこも、またシたくない?」
毒のような和彦の言葉が耳朶を汚し、ももこは呻く。
胸を揉んでいた右手が腹を這い降りてシャツの裾から足の付け根を撫で回す。指先の熱をまざまざと感じて無意識に股を閉じようとして、逆に後ろから差し込まれていた和彦自身を圧迫してしまった。ももこの後頭部から、何かを耐えるようなくぐもった声が漏れる。
「あ、ごめ─────」
思わず足の力を抜いた瞬間、今度はするりと和彦の長い指先がももこの秘?に潜り込んできた。さっきまでの行為の余韻はももこも同じで、いくら綺麗に拭ったとしても少しの刺激で簡単に泉が湧き出し抵抗もなく彼の愛撫を受け入れてしまう。
「ふぁッ」
恥じらいもないぐちゅりという粘ついた音に、耳まで真っ赤になった。同時に嬉しそうな笑いが頭上から降ってくる。
「ももだって、まだしたいのだろう?」
彼に似つかわしくない卑下た声音。感じているのだろう? 同じじゃないかとでも言うように。
「あ、あ、ン……」
指の動きが気持ちよくて、意志とは反してどんどん足を開いていく。ピカピカの冷蔵庫にもたれながら尻を和彦に突き出し、まるで後ろから貫いて欲しいかのような自分の姿を自覚すると羞恥とそれを上回る期待に更に溢れてくるような気がしてならなかった。
シャツの裾に隠された奥で何をされているのか、和彦の指がももこの花園をどのようにかき混ぜているのか見えていないだけで、想像が感覚をより鋭くしていく。響く水音が一層大きくなり、伝った愛液が太股をもしめらせた。
そのぬめりが後ろからももこの割れ目を擦っていく和彦の熱棒を濡らし、指で広げられた会陰の媚肉をもっと押し広げようとしている。このまま挿入してしまうのだろうか?
「だめ、だめッ、和彦ク……!」
「イきそう? いいよ、イッて」
きゅうっと乳首をつねられた刹那、目の前が一瞬スパークして真っ白になる。
「あ、くッ……はぁ、あ……」
太股がガクガクと震え、まるで足に力が入らなかった。そのまま冷蔵庫にすがり付くと、後ろからウエストを抱えられて掬われた。
「可愛い」
噛み締めるような慈しむような呟きは、ぼうっとした頭の隅でなんとか受け止めた。彼の口癖。どこが、なんて言わないけれど、和彦にとってはどうやらももこの存在自体が「可愛い」らしい。ちょっと理解出来ないけれど。

 
小柄な身体を難なく抱き上げ寝室に運ばれ、ベッドにそっと降ろされる。すると座ったももこのすぐ目の前に、普段涼し気な紳士然とした和彦からは想像出来ないほど赤黒く猛ったペニスが晒され、あまりの生々しさに直視出来ずに目を逸らした。
何度も何度も身体を重ねた。まざまざとももこの中に埋められるのも見たことがあるし、口に含んだことすらあるのに。
「ちょっと傷つくな、それは」
苦笑しながらももこの頭を撫でる彼。
「だって」
「本当は好きな癖に。いつも気持ちいいだろ?」
ももこは和彦しか知らない。和彦に拓かれて、和彦の形を覚え込まされた。
奥まで挿入ってくる熱さも、ももこのナカをみっちりと埋める質量も、かき混ぜる荒々しさも。全部彼と繋がることで覚えたから。
直視するのが恥ずかしいけど同じくらい愛しい彼自身に、そっと口づけた。
「もも────ッ」
透明な雫を滲ませる先っぽを舌で舐め上げ、ゆっくりと口に含む。和彦のペニスは大きすぎて全てを口に含めないから、根元は掌でシゴいた。
「ぅ……、はッ」
出来る範囲で舌を動かす。ぺろぺろと飴のように舐めてみたい、先をすぼませて吸ってみたり。
ももこの後頭部を押さえた和彦の腰が動いて、喉の奥まで差し込まれる。堪らずえずきそうになるが、唾液の糸を引き連れながらすぐに口の中から引かれた。
「……よくなかった?」
上手くないのは自覚している。
しかし上目遣いに見上げた和彦は、呼気を荒くしながら片手で顔を覆うと短く呻いた。
「ちが、────悦すぎて……」
はぁ、と溜息をつきながらももこの隣に座った和彦は、ももこを己の上に跨がせる。
ももこが少し腰を落とせばたちまち和彦を飲み込めるだろうが、シャツに隠されているためにどれほど腰を下ろせばそうなるのかがわからない。わからないのが、余計興奮を誘った。
「勃ってるよ、もものココ」
膝立ちになったももこの胸の先が、ティーシャツの上からでもぷくりと勃ち上がっているのがわかる。

 

恥ずかしい。

 

しかしももこの羞恥を知りながらも、和彦は布ごと乳首を口に含んで容赦なく吸い上げたのだ。
「ンああァ!」
電撃のような刺激が身体中を駆け巡り、ガクガクと震える。一度イッた身体には、僅かな刺激でさえ大きな波を湧き起こした。
甘噛みし、転がし、吸い上げる。和彦の唾液で湿った生地が濃い色になった。

 

なんていやらしいのだろう……。

 

「なあ、もも?」
焦れたように和彦がももこの柳腰を揺すった。そろそろ彼の我慢も限界なのだ。
「いいよ……」
呟きながら息を飲んだ。ティーシャツで見えないなりに手探りで自ら会陰を広げると、興奮でビクビクと跳ねるペニスの先をゆっくりと招き入れた。
「────ッ!」
ずぶりと一気に飲み込んだ勢いが、快楽となって背骨を駆け上る。脳天まで突き抜けた官能をきつく目をつぶって享受すると、落ち着くまで視界を開けなかった。
あまりの気持ちよさに震えが走る。膣に収めたペニスの熱さに、まるでそこから熟れて腐っていきそうなほどの官能。息をするのも惜しいぐらい、自分のナカの和彦を感じていたい。

 

いつもそう。和彦と繋がるのは、手に余るほど気持ちよくて幸せなのだ。どうしようもなく涙がこみ上げてけるのは、生理現象だけではない。

 

相手が彼で、心底よかった────。

 

和彦はももこが整うのを待ってくれている。
快楽だけを追うのではなく、ふたりで気持ちよくなる意味を知っているから。
やがてゆっくりと動く。上に下にその度に溢れて垂れて、彼の腿を汚した。
「あ、ンッ、かず、ひぅッ、ッ」
「もも、もも、……すご、素晴らしッ」
確かに繋がっているのに、ももこの着ているティーシャツのせいで見えないのが逆に卑猥さを増している。ぴちゃぐちゃと激しく合わさる水音と肌の音が、布の奥から密やかに聞こえた。
「かず、クッ、ね!」
次第に動きを速めながら、腰を振りつつとうとうももこがティーシャツを脱ぎ捨てて和彦の目の前に柔らかそうな胸を突きつけた。柔肌が誘うように揺れている。
「舐めてッ。かずひこく、おっぱい、ちゃんと舐めて!」
布越しなんて物足りない。もっとちゃんと自分を味わって欲しい。
「────仰せのままに」
和彦がにやりと笑いながら、瑞々しく膨らんだ乳首を口に含んだ────……。

 

 

 

外は宵の口。
これから夜は、更に更けていく。

 

 

 
                                              了 




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