「そろそろ休憩したまえ、ハニー」
ギャルソンエプロンを外しながら別室の妻に声を掛けると、奥の部屋からは、ややくぐもったような声が聞こえて来た。
今朝も早いうちから原稿に取り掛かっていたももこだったが、ここにきてどうにもこうにも迷走し始めたらしい。プロットを立ててネームまで作っているのに、いざ紙に乗せる段階になってから進め方を迷い出すなど彼女にとってはよくある事なのだけれど。
そんな時はひと息つけばいいのに、強情なももこはなかなかそうしようとしないのだ。
明確な返事がないことに小さく苦笑すると、和彦はももこの仕事部屋に足を向けた。
別にせっかくの休みに彼女が自分よりも仕事を取ることは構わない。それは決して。しかし一日中籠って仕事をすることの能率の悪さは、分かっているつもりだ。
「ももこクン、フランスから取り寄せたマカロンでも食べて休憩しよう」
菓子ひとつで釣ろうなどと、昔と手法が変わり映えしないなと自嘲しながら部屋を覗くと、うううん、なんて唸り声が返ってきた。振り返りもせずに机に齧り付いている後ろ姿に、ため息を禁じ得ない。
「ん〜……。もうちょい、待っとくれよ」
「残念ながら、これ以上は許可出来ないな」
つ、と足を踏み出し彼女との距離を詰める。相変わらずこちらを振り向きもせず。
「許可って、アンタ何様のつもりだい?」
「そりゃあ、ハニーの旦那様のつもりなんだけどね」
言いつつも、彼女がペンも筆も持っていないことを確認すると、椅子ごと後ろから小さな身体を抱きしめた。
「ちょ……っと!」
「今の君には休憩が必要だ、ハニー。お願いだから、さあ僕の言うことを聞いてくれたまえ」
手を変え品を変え。お誘いと要求と、そして懇願のコンボにももこの手が緩んでいる。
もうひと押しとバックハグすると、顔を背けたままの彼女が大きく肩を震わせた。
驚きなのか、今更ハグされるのが恥ずかしいのか、耳朶が淡く染まっていた。

嗚呼、なんて可愛らしいのだろう。

そんな些細なことで、和彦の理性はいつも揺らいでしまうのだ。
回した腕に一層愛おしく力を込めると、僅かに身動ぎしたももこがようやくちらりと後ろの和彦を伺ってきた。
「あたし、今。手、汚いんだけど……」
「そのようだ」
製図用インクと墨汁が染み付いた指先は、今日は仕事の誇りとともに指先を黒々と染めている。
「だから、その────」
「ん?」
耳元に唇を寄せ、わざと声を落として囁いた。案の定、素直な身体はぴくんと震え、その様子に和彦はほくそ笑む。
なにせ夜、ベッドの中で囁くのと同じようにしたのだから。
「ちょっとぉ」
抵抗しようとしても無駄だ。声に甘さが滲んでいる。そんな声を出してしまえば拍車をかけるのだと、まだわからないのか。
「どうして欲しいのか、きちんと言いたまえ」
和彦の大きな手のひらが、いたずらに服の上から柔らかな肢体を這い回る。すると彼女は息を詰め、身体をこわばらせた。拒絶ではないことは十分知っている。むしろこれは期待に似ていた。
今日は一歩も外に出ないと決め込んでいた彼女は、Tシャツにジャージという部屋着中の部屋着である。そして当然のようにブラジャーさえつけていない胸元は、ダイレクトに柔らかさを楽しめた。
「ん、ンッ」
すっぽりと手のひらに収まる小ぶりな胸の天辺は、すでに硬くなりつつある。その蕾を指と指で挟んで揺らすと、動きに合わせて小さな嬌声が漏れた。
後ろから抱き込んでいるせいで彼女の表情はどうなっているのかわからないが、いつも行為におよんだ時のももこを思い浮かべた。────きっと恥じらいながら薄く目を閉じて、頬を紅潮させているに違いない。うっすらと開けられているであろう唇から零れる囁かな喘ぎ声が、和彦の脳裏にさらなる興奮をもたらした。
「……イイのかい?」
なにが、とは敢えて聞かない。それは自分で考えればいい事だ。
「きゅ、休憩じゃなぃ、の……?」
「休憩だとも」
曖昧な刺激を与えていた胸を中央に寄せると、怒ったように手を叩かれた。嬉しくて、楽しい。
和彦としては別に胸の大きさなどにこだわりはないのだが、彼女はそうではないらしい。
胸など所詮は脂肪の塊である。重要なのは────Tシャツの裾を素早くたくし上げると、ももこが止める間もなく形のいい乳房が空気に晒され、あらわになった。後ろからでも十分見下ろせるふるりと揺れるささやかな膨らみは、彼女のものだからこそ尊い。
「ちょぉッ、和ひ──ン」
慌てるももこの唇を後ろから強引に塞ぐ。
いつもなら瑞々しい唇が、この時ばかりはかさついていた。朝から仕事部屋に籠っていたせいで、水分が足りていないのだろう。可哀想に。
ペロリと舌先で唇をなぞるとももこの肩が大きく跳ね、あまりの反応の大きさに和彦も驚いた。
「い、いきなり何すんのよォ!」
「びっくりしたのかい?」
「当たり前じゃないッ。普通他人の唇なんて舐めないよ!」
怒ったというよりも困惑した様子に、なぜだか笑いが込み上げてくる。そんな自分にも驚くが、
「まあ、いいじゃないか」
再び唇を塞いで、それから唇を舐めて。ぺろぺろと犬か猫のような戯れ。その間も脇から尖端へ向けて敏感なスポットを愛撫していく。
やがてお互いの唾液を交換しながら舌を差し込むと、ねっとりとした彼女の口内は火を噴いたように熱を持っていた。
「……興奮しているのかな?」
応えの代わりに頭突きが返ってきた。それを寸でのところでかわすと、今まで緩い愛撫しか施していなかった乳房の尖端を、お返しとばかりにしたたかに摘んだ。
「……ッ、ッ!」
ビクビクと華奢な身体が激しく反応を見せた。
まさか胸だけで達した訳ではあるまい。
付き合ってから相当仕込んだが、和彦の腕ではそこまで感度を上げるには至っていないだろう。
「ぁ、──ン……」
くたりと椅子にもたれた彼女の正面に回り顔を覗き込むと、びしりと額に弱々しい手刀を食らってしまった。
「痛いな」
「そんなに、ちから、はいんな──モン」
確かにその蕩け顔では入る力も入らないだろう。潤んだ瞳で睨みつけてきたとて、全く逆効果だ。
むしろこちらの劣情に火がついた。
「気持ちよかったのかな?」
いまだむき出しの胸の先、淡く色づいた蕾を優しく吸うと、声もなくももこが身をよじった。「き、聞かな……でぇ」
そこから下へ下へと舌を滑らせ、へその淵をぐるりとなぞった。
そして足の間に強引に身体をねじ込ませると、慌てて身体を起こそうとももこが動いた隙をついて、和彦はショーツごと全てを一気に剥ぎ取ってしまったのだ。
「だ、めッ」
下半身を晒されたももこは恥ずかしそうにキツく足を閉じたが、その目の前に今剥ぎ取ったばかりのズボンとショーツをぶら下げた。
「本当は嬉しいんだろう?」
その証拠に、ショーツにはべったりと愛液がまとわりつき、軽く糸を引いているではないか。
「……!」
「いやらしいね、ももこは」
「これは、……だってぇ!」
抗議の声などなんのその。
それよりも今は素敵な格好の彼女を心ゆくまで愛したいのだ。
「まだ明るいのに──」
「膝、立てて」
椅子に腰掛けたままのももこに両膝を立てさせると、自然と腰を突き出す形になったことに、和彦は満足気に口の端を上げる。
夕方の手前、まだ日は登っている時間だ。
強い太陽の明かりを借りて、普段は閨の中で愛する身体をじっくりと見つめた。
あまり日焼けをしていない肌は白くきめ細かく、その胸元に鮮やかに咲いたピンクとの対比が素晴らしい。そして恥丘を守る薄い茂みの奥は、和彦に開脚させられているせいで会陰までまっきりと見て取れた。外からの明るさのおかげで、割れ目から溢れる愛液で照らされた媚肉がひくついている。
更なる愛撫を欲している素直な性器を目の当たりにすると、和彦も興奮を抑えきれずに喉を鳴らした。
「ももこ……」
長い指が秘裂を広げた。すると隠れていた肉芽が現れ、今か今かと花開くのを待っているかのようではないか。
芽吹きを促すように息を吹きかけると、か細い声を上げてトロリとした悦びが零れた。堪らずむしゃぶりついたのは言うまでもない。
「ひゃ、ァ、だめ……ン!」
言葉では恥じらい抵抗を見せながらも身体は素直に享楽に溺れていく。迷ったように宙をさまよっていた手が、どうにもならなくて和彦の髪の毛を掴んだ。
施される口淫に内側がどんどん熱く蕩けていくと雌の匂いが格段に増し、和彦の下半身も欲が溜まり一層重くなっていく。手早くベルトを外しファスナーを下ろすと、ようやく開放された熱棒が勢いよく飛び出した。早く────早く彼女に包まれたい。
「もも……ももこぉ」
湧き上がる欲求を出来る限りの愛撫を与えることで、かりそめの満足を得ようとする。そうでなくては、持っている欲望の全てをぶつけてしまった後の報復が恐ろしい。
一度だけ闇雲に失神するまで抱き潰した事があるが、目が醒めてからの彼女の怒りや想像を絶した。あれはいい教訓になったはずだ。
「あ、ァ……」
甘い声が耳を撫で、ぐちゅぐちゅと淫らな音を立てて止めどもなく愛液が溢れる。その奥を指でかき混ぜれば、せがむように肉壁が絡まり締め付けてきた。動けば動くほど、激しくすればするほど。
愛撫を受けるももこの息遣いも、与える和彦の吐息も興奮とともに次第に忙しくなくなっていき────。
「かず……あ、アァ────ッ、ッ、…ッ!」
ナカでキツく和彦の指を咥えこみながら、ももこの身体が細かく痙攣しだした。そして脱力したように椅子に深く座り込む。
「イッたのかい?」
わかっているのにわざと確認すると、容赦なく腕を蹴られた。やれやれ、少し乱暴がすぎるじゃないか奥さん。
「わかってる、くせに」
「言ってもらわなくてはわからない事の方が、世の中には溢れているだろう?」
おもむろに立ち上がると、緩めていたスラックスが足元にたわんだ。すでに窮屈なスラックスや下着から開放された和彦の性器は、限界まで膨らみ、抑えきれない興奮にビクビクと小さく震えていた。
清潔な白いワイシャツの下から突然突き出す赤黒い肉棒は、強烈なインパクトでももこの目を捉えただろう。
彼女は呼吸を荒くしたまま一瞬息を飲むと、見慣れたはずの和彦の性器をしばし凝視して、上気した頬を更に赤らめてまぶたを伏せる。微かに唇を噛みながら太腿の間を緩めたのを、和彦は見逃さなかった。
「────欲しい?」
「だからッ」
細い両脚を抱え込み、己の先端をももこの秘裂にあてがうと、唾液を飲み込む音を聞いた。どちらのものか。
だが間違いなくももこも和彦もすでに止まれないことは明白だった。
亀頭で割れ目を擦ると、白濁混じりの愛液が和彦を濡らす。
早く快楽の波間に沈んでしまいたい。しかし焦らすこの時間も最高のスパイスになることを、和彦は知っていた。
「ね。ももこ……」
先に進みたくて腰の動きを止められない。このまま一気に貫きたい衝動を、読み掛けのフランス文学の中身を諳んじることでどうにか押しとどめる。
「キミはどうしたいんだい?」
黒く薄汚れた両手で顔を隠しながらも、素直は身体は今か今かと待ちわびたように入口をひくつかせているというのに。
先ほどだってそうだ。すでに大きくなった和彦の性器を目の当たりにした時、彼女の視線は間違いなく釘付けになっていたし、受け入れたくて股を開きかけたり、物欲しそうに開いてしまいそうな唇を噛み締めていたのに。
和彦にしてみれば、自分にしか見せないそんなオンナの彼女が見られるのは非常に嬉しい事だ。二人きりでしか見ることも見せること出来もない秘め事は、嬉しくて可愛くてかき抱かずにはいられなくなる。

こんな気持ち、彼女にはないのだろうか?
ももこにはもっと心のままに和彦を求めて欲しいだけなのに。

堪らず先端だけ泥濘の中に沈めてしまった。それだけで十分に熱く、瞬く間に息が上がってしまう。
「もも……、お願いだから」
ここまでくると哀願である。
情けなく眉尻を下げながら挿入の許可を乞う。どちらに主導権があるかなどより、ももこの嫌がることをしたくない一心で和彦の行動など簡単に制限されてしまうのだ。
先っぽだけで掻き回されている彼女は、悦楽に顔を歪めながら涙目で和彦を見あげてきた。色濃く浮いた欲の感情が扇情的で、理性の箍などものの見事に破壊されてしまう。
「ね。……シャツ、脱いで」
「シャツ?」
シャツと言えば和彦が唯一着ているものだろう。忙しなくボタンを外すと、アンダーシャツも全て脱ぎ捨て全裸になった。均整の身体が外からの夕陽に照らされて輝く。
その彼に、ももこが今日初めて両手を伸ばした。迎えに行くように和彦も屈むと、広い背中に回されたら小さな手が温もりを確かめるようにゆっくりと肌を巡った。
「ももこ?」
「……ずっとこうしたかったんだ」
だってね。呟いた彼女と視線が絡んだ。
そこにはオンナの欲が宿っていると思ったのに、覗き込んでみれば全く違うものが漲っている。
「だってさ、そのシャツ、イタリア製のやつでしょ?あたしの墨まみれの手じゃ、汚しそうで、ハグしたくても出来なかったんだよね」
えへへ、と浮かべる屈託のない笑顔に、
「────キミは、どれだけ」
「ん。……かずひこクンが、ほしい」
ただそれだけが、和彦を求める声だけが。
────欲しくて堪らなかったのは、どちらだったのだろう。

ぎゅう、と華奢な身体を抱きしめると、和彦は一気にももこを貫く。
「……ッ!」
その瞬間、急激な締め付けにあい、一瞬でもっていかれそうなのをなんとか堪えたが、彼女の方は小さな痙攣を起こして口をパクパクとさせていた。まなじりに溜まっていた涙がほろりと零れた。
「──イッちゃった?」
明らかな様子を見せているももこに思わず問うと、背中に爪を突き立てられた。
「聴かな──で、よぉ……」
態勢を入れ替えて和彦が椅子に腰掛けると、上になったももこが脱力したように身体を預けてきた。密着した肌と肌の気持ちよさに、なるほど致す時は裸の方がやはりいいなとこっそり思う。
「一気に、奥、きたから」
途切れ途切れに呟くももこの様子を見ながら、和彦はゆるゆると下から掻きまぜ始めた。細い身体ではあるが膣内は心地よすぎるくらいみっちりとしていて、何度穿いても最後には和彦の方が負けてしまうのだ。
臀部を両手で開くと、より一層咥えこみ繋がりが深まる。
「ふぁ……ァ」
「ッ……。相変わらず、素晴らしい──」
一度達した膣内はなおも欲しがっているのか、きゅうきゅうと和彦自身に絡みついてくる。少しの動作でも擦れ具合が絶妙で、油断すればたちまち搾り取られてしまいそうだ。
突き上げる抽挿にももこの腰がされるがまま躍る。それをしっかりと掴んで穿つと、悲鳴にも似た嬌声を上げながらしがみついてきた。
敏感すぎるももこは、一度イケばそのあともとめどもなく達する。そしてその都度、彼女に包まれている和彦にとっても非常に至福な責め苦を強いられることになるのだ。
「は、ぁ、アッ、は────」
背中に強く彼女の手のひらを感じる。
その手が和彦の動きに翻弄されながら、ゆっくりと逞しい筋肉の上を撫でていった。背中。脇を通って、胸。首筋。そして頬を。ももこの指先に残った墨が和彦を汚し、熱に浮かされたような表情のももこが嬉しそうに微笑む。
「どうした……?」
揺さぶる腰を一旦落ち着かせると、だってね、とももこが呟く。幸せそうな微笑みに、和彦も口の端を緩めた。
「かずひこクンがね、あたしの色に──、指についた墨とかインクなんだけどさ。そういうのに汚されてくのが、嬉しい」
「?」
汚れていた手で触れれば、それが移るのは当たり前なのではないか。
そう伝えると、そういう意味じゃなくて、と返された。
「かずひこクンはね、いっつも他人の色に染まらないの。絶対自分が一番真っ白なままなの」
「……」
「でもね。そんなアンタがあたしに自由に触らせて、汚されるのを受け入れてるって、実は凄い事じゃない?」
そんなこと、今まで誰にも言われたことがなかった。

いつだって自分は受け身で、誰かが用意してくれたレールに乗っかり、そこで全力を尽くしているに過ぎないと思っていたのに。
指示も評価も受け入れる。自分を成長させ、有する力を自在に操れる力と方法を持つことが出来たら──。

ああ、なんだ本当だ。
受け入れると言いながら、実はすべてを取り込んで自分のものにしたいだけじゃないか。
誰にも何も言わせない、誰にも邪魔されない為の手段としてしか見ていなかった。自分を勝手にされるなど、我慢ならない。

それがももこに対してだけは、唯一。

「──ね。あたしって、すっごくあいされてるとおもわない?」
覗き込んでくる彼女のいたずらっぽい瞳に、和彦は改めて自分の想いに血が上りそうだった。
「かお、あかいよ?」
「誰がそうさせてると──」
「あたし、だね」
きゅ、と和彦への締め付けが強くなった。そしてゆっくりとももこが腰を使い始める。
「ッ、く」
「あたしも、かずひこクンのこと、」
「もも──」

「すきだよ」
「……僕もだ」

恥丘が擦れて陰毛同士さえ絡み合う。ももこの動きに合わせて和彦も律動を開始すると、ナカでも外でもキツく抱きしめられた。
離れない。離さない。何があっても。
「ッ、は、──ふ、ぅッ」
飛び散る情熱の雫が西日を浴びて煌めいた。
あとは互いの呼吸音と淫らな体液の交わる水音が響くだけ。
ぎしぎしと椅子が、ふたりの動きに抗議しているのも気にならない。
動物のように原始的な愛し方であっても、今のふたりにはこれが真実でありすべてなのだ。
ぐっと押し入り、名残惜しく引く。まるで男女の駆け引きのよう。
「あ。──だめ、かずひこ、ク…ッ」
何度目かの小さな波は大きな津波の前兆だったのかもしれない。
身体の奥で今にも弾け飛んでしまいそうな火種に顔を歪ませながら、ももこが自ら和彦に肉豆を擦りつけてきた。それを合図に、和彦の動きも激しさを増す。
一際大きなうねりのなかで睦み合い、熱に絆され求めあう。
その果てにあるのは────……。







「ね。かずひこクン……」
微睡む寸前のももこはすでに布団の住人である。
「なんだい、ハニー?」
その傍らに座り手を握っている和彦は、穏やかな表情で寝入る寸前の彼女を見下ろしていた。
「アンタさ、確かにあたしに休憩しなって言ったけどさ」
「休息は必要だからね」
「だからって、物理的に、休憩さすこと、なくない?」
行為自体はすでに終えて綺麗さっぱりしたはずなのに、体力的には全く落ち着いていない。おかげで紡ぐ言葉も切れ切れになってしまうのだ。もちろん身体に力など入るはずもない。
すると、ふふふと幸せそうに微笑んだ和彦が、慈しむようにそっとももこの髪の毛を梳いた。しっとりと汗ばんだ黒髪が指の間を流れる。
「こんな休憩ならば、いくらでも付き合うとも。可愛い奥さん?」
ほら、ラブホテルで休むこともご休憩というだろう?なんてうそぶく夫に、ももこがけりの一発でも入れたのは仕方のないことである。









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