「ちょいと、そこのぼっちゃん」 「なにかな、マドモアゼル?」 「なにかなまどれーぬでもないよ、アンタ! なんでパンストの穴を広げてんのさッ」 「それはそこに穴があるからじゃないのかな?」 パンストの穴は山ではない。至極もっともなことをのたまいながら、ももこの足の間で和彦は楽しそうに伝線したパンストの穴を広げていた。 そもそも今日は受験勉強をしていたはずだ。 高校は別のふたりだけれど付き合いは長く、もっというなら男女という意味でのお付き合いも長い。 そして少しだけ前に清い関係が崩れてからは、容易に欲望に負けてしまう若さが、目下悩みの種である。 今日のきっかけはどこかに引っ掛けた拍子にぴっと走ったパンストの伝線。 和彦の部屋に入ってコートを脱いだ時に気がついたももこは、不用意に彼にパンストはないかと聞いた。彼女いわくなんでも置いてある花輪家だから、女物のパンストのひとつやふたつあってもおかしくはないと思ったから。 しかし彼は怪訝な顔をすると、どうしてと問うてきた。どうしてって、伝線したから。そう答えると、見せてくれとおっしゃる。だからどうぞとふくらはぎを裂く線を見せると、無言でその線を広げ始めたのだ。 「────もういいでしょ?」 ふくらはぎから始まった伝線は、最早太腿まで伸びている。その線に沿って和彦の長い指が跡を辿るものだから、皮膚の裏側がむずむずしてきた。 これはヤバいやつである。 足の間に和彦が座り込んでいるから閉じるに閉じられない。それは真実であり言い訳に過ぎない。それどころか和彦の指先がパンスト越しに肌の上を撫でる感触に、身体の芯の方がじんわりと熱を持ちはじめる。覚えたばかりの快感は、すでに身体に染みつくほどに慣らされていた。 そんな様子を知ってか知らずか、和彦は薄く笑いながら足の間からももこを見上げた。鳶色の瞳が一層深くなった気がする。薄い生地の上から吹き付けられる吐息も、熱い。 「色のついたパンティーストッキングの上からでもわかるよ、キミの大切なところの変化が」 ももこの頬に朱が走る。わざわざパンティーストッキングなどという言い方もわざとらしく、いやらしい。 「興奮したのかな、ハニーは」 「なにを────」 図星をはぐらかそうとするも、和彦がもっと身体を入れてきたせいで股が更に開く。スカートがめくれ上がれ、薄い黒のストッキングでは隠しきれない純白のショーツがあらわになった。その中心。 「滲んでいるよ?」 「……ッ」 クロッチ部分の色が変わっていることをご丁寧に指摘されて、羞恥にももこが瞳を閉じた。 濡れている。和彦がいつものように意志を持って肌を触るから、期待がももこを潤わせた。すでに知っている感覚に抗う方が無理だ。 「素直で可愛い……」 心底嬉しそうに呟きながら、和彦は更にパンストの穴を広げて増やしていく。ただし股間の部分は残して。 一番触れてほしい部分が手つかずだと、逆に興奮と切なさが増して息が荒くなってしまう。 嫌だ止めてと言いながら、本当は大事なところも乱暴に暴いて欲しい。たぶんもう泥濘んでいる秘所を広げて、いつものように指でぐちゃぐちゃとかき混ぜて欲しいのだ。 しかし今日の和彦は、常のようにすぐ行為に及ぼうとしない。じっとももこを見つめるだけで、ゆっくりと焦れるて溢れるのを待っているかのように辛抱強かった。 「か、かずひこ……お願いだから見ないでよ……」 涙を滲ませながら懇願する彼女を見上げながら、視線を外さないで指の代わりに息だけを吹きかけ、笑う。 「もっとキミのいやらしい所が見たい」 「そんなの……」 触られただけて期待に濡らしている下着を見られる以上に恥ずかしくてはしたない所など──── 「制服の前を外して胸を見せてごらん?」 半分蕩けた頭では、提案は命令に等しく響く。 言われるままにスカーフのタイを外して制服の真ん中を割るファスナーを下ろすと、震える手で彼の目の前にブラジャーに包まれた乳房を晒す。 「ブラジャーをたくしあげて」 背中のホックを外すのももどかしく言われた通りにブラジャーを上にずらすと、いつも和彦が可愛がってくれる柔らかな膨らみがふるりと現れた。てっぺんの色づく膨らみは、弄られてもいないのにピンと天を向いている。 恥ずかしい。恥ずかしいけれど、同じくらい早く愛してほしい。 ももこの気持ちなどとっくに知れているはずなのに、それでも和彦はやはり指示を飛ばすだけだった。 「自分で弄って」 「え? そんな、したことないから、どうやったらいいかわかんないよ……」 「いつも僕がやるみたいにしてごらん」 「かずひこがあたしにしてくれる、みたいに?」 いつも────いつも彼は、すぐに直接触らずに脇の下からゆっくりとマッサージをするように大きな手で揉んでくれる。 それを思い出しながらそっとその後を辿るけれど、自分で触ってもいまいちいつもの気持ちよさが湧いてこなかった。どうしてだろう? そうなるといつもの快楽を追うために、ももこの動きも大胆になってくる。乳輪からゆっくりゆっくりと刺激を与え、しかし肝心の所にはまだ触れてはいけない。 己のささやかな胸を揉みつつも、こっそり和彦を見下ろすと、真剣な顔つきでももこの指の動きを見ているようだった。────見られている。そう意識するだけで、急に感度が上がった気がしてつい声が漏れた。 「声、我慢しないで」 和彦の声も興奮しているせいか、掠れていた。そしておもむろにベルトのバックルを外し出すと、スラックスの中で窮屈そうにしていたペニスが勢いよく飛び出してきたのだ。 「かずひこの、おっきくなってる……」 「キミのいやらしい姿を見たら、こうなるに決まっているだろう?」 少しだけ頬を染めながらペニスを解放した彼は未だパンストに包まれているももこの左足首を引き寄せ、何も言わずに足の裏で己のペニスをしごき始めた。 「なにやってんの……!」 「本当は手でして欲しいけど、ももこはもっとおっぱい弄ってるとこ見せてよ。────凄い興奮するから」 「────ッ」 そんなこと。相手のそんな姿を見せられて興奮するのはお互い様だ。 ももこもついには自分の乳首をきゅっと摘んで指先で擦ると、今までにないくらいの気持ちよさに何かがスコンと飛んでいってしまうような感覚に陥った。 嗚呼、ダメだ。本当に気持ちよくなってきた。和彦の指ではないのに、その和彦に自慰を見られていると思うだけで興奮してどうにかなってしまいそう。 「ン、ァ、い……だめッ」 「だめなもんか」 もう胸だけでは足りない。 「アソコ、触ってよぉ」 「自分で触って見せてよ。パンストを破いてショーツをずらして、僕の目の前にいやらしい口を突きつけて、腰を振ってくれたまえ」 ももこの足裏で扱かれてイキそうな顔をしているくせに。それでも関係を対等にたもとうとする態度。 でもそんなことはこの際どうでもよかった。 一度快楽に溺れ始めた思考はまともに働かず、和彦の言葉を受けて躊躇いもなく股間のパンストを破き始める。薄い生地から現れた純白に目を細める和彦の目の前で、羞恥と興奮に震えるももこの指がクロッチの脇から潤いを掻き分けて中に入っていった。 ぐちゅりぐちゅり 「いつもより濡れてるみたいだよ、ももこ……」 「言わなぃ、でェッ」 恥ずかしいのは最初だけ。次第に忙しなく動く指にかき混ぜられ、泥濘が卑猥な音を立てながらダラダラと雫をこぼしていった。 「────ッ!」 ペニスをシゴいていた和彦の動きが唐突に止まった。と同時に、生暖かい体液が勢いよくももこの弁慶の泣き所にかかる。吐き出された精液だった。 「────、はッ……」 射精後の虚脱感に深い息を吐きながらももこの足にかかった白濁を拭うと、ひとつ息を吐き出した後に荒い仕草で秘裂を覆っているショーツを脇に寄せ────吐き出した直後にもかかわらず硬度を保つ肉棒で一気に膣内に押し入った。 「────ぁ……、はッ」 突然の衝撃に一瞬呼吸を忘れた。 脳天まで突き抜けた官能に意識をさらわれたままのももこの、その細い腰をしっかりと持つと、和彦は無我夢中でももこの肉壁の心地良さに酔いしれる。 穿って穿って、ギリギリまで引き抜いたと思ったら抉って。でこぼことした道は和彦が忍び込むと、嬉しそうに絡み付いてくるから動くのをやめられなかった。 「あ、ッん! んンぁ、そ……やンッ」 「ああ、最高だももこのナカッ。離れたくない……!」 しかしそうも言っていられない。 過ぎた快楽はふたりを高みに登りつめさせ、先に達したももこの締め付けにあうと和彦も欲を引き抜かないわけにはいかないのだ。 「……くッ……」 二度目の吐精はももこの胸元を汚す。 弾んだ息のまま、そういえばまだ口づけすらしていなかったことに気づいて唇を寄せると、馬鹿! と涙声で下唇を噛まれるのまでが実は想定済み。 パンストを履いてのセックスはいつも以上に興奮する。癖になりそうな和彦だったが、それはもちろん彼女の了承があってこそ出来る愛の営みだろう。 了 |