恋はいつも吊って吊られて
逃れられない症候群
逃れられないUFOキャッチャー。


UFOキャッチャーしんどろーむ〜序章〜景品並の恋



「ああぁぁぁ…」
たるい。つーかだるい。生気がどっかに飛んでいく。

「サスケ、お前さっきから黙って聞いてりゃ煩いってばよ。少し黙っとけ」
…お前に言われたくねぇ。
しかしそれも言う気力がなく、俺は机につっぷしていた腕を組み替えた。

顔を左へと動かす。
目線2メートル先の窓からは、健康的な太陽が照り付ける。無遠慮に机の横を射すそ
の陽
光に、自然と目を細める。しかし、それとは裏腹にクーラーがガンガンに効いた室内
の中
で、俺は数枚の紙切れを前にして席についていた。隣では、ナルトが馬鹿みたいにガ
リガ
リと凄い音を立てながら数学の問題を解いている。

「はあぁ…っ」
盛大に溜息を吐いて体勢を変え、机に向き直った。

「…サスケ、早く終わらせろってばよ」
顔を上げずに、ナルトは相変わらずシャーペンを走らせ続ける。

「煩い、ウスラトンカチ。お前と違ってそんなに時間かかんねぇんだよ」
馬鹿、と付け加えてプリントを表に反した。数字やら記号やら、図形が並ぶ紙面。見
るだ
けでうんざりする。思わず変な声が出てしまった。
「…かああぁ…っ」
「サスケ、気色悪ぃ」
「うっせ、馬鹿」
「さっさと終わらせて、早く行くってばよ」
「…」
無言で返した。何度も同じこと言うなって…。




俺が何故こんな馬鹿に付き合っているのか。
否、何故放課後まで残されているのか。
学生の本分、要はお勉強だ。
ただ俺とナルトで違うのは、今回の補習まがいの再試験をやらされている原因だ。
俺は自分で言うのも変だが、馬鹿じゃない。多少、素行上問題はあるけどな、そんな
の大
したことじゃない。

「…お前、ムカつくよな。わざわざ再受けるなんて」
「…いいから、早くやれよ」
別に好きで受けてるわけじゃない。試験当日、面倒臭いからフケただけだ。確認テス
トな
んてやってられるか。その代わり、今面倒臭いことになってるのは否めないが。


「…あぁ〜……解んねぇ」
対して横の馬鹿は、クラスで一人だけ再試まで残った。
…こいつ、どこまで馬鹿なんだ。
「あぁ?お前、この試験受けるの何回目だよ」
「聞いて驚け、三回目だ」
あぁ、目茶苦茶驚いた。俺にとっては再試でも、ナルトにとっては再々試だ。
二回も落ちてんのか。
「…いいから、早くやっちまえ」
あまりにも憐れで、馬鹿だな、とは言えなかった。

「だから…解んねぇんだってば…」
それから決まり悪そうに呟いたナルトに、似合わずに何だか同情して、思わず言って

まった。
「…何処だよ。教えてやっから、プリント貸せ」
「マジで!?」
一瞬で表情が変わる。都合良いように出来てんな、お前の顔は。

「柄にもないことさせんな」
ナルトが差し出したプリントを受け取って、ぼやく。
…早く行きたいだけだっつーの。
あんまり恥ずかしいことさせんなよな。







「…っああぁぁぁ…っ!!疲れたぁ!!」

夕方にも関わらず、背中から照り付ける太陽が暑くて、痛い。
隣では、馬鹿面が思い切り伸びをしている。

「結局、問題解いたのほとんど俺だろ」
あの後、俺は二人分のプリントを仕上げて早々に教室を後にした。教師に確認とって
帰る
のも何だか癪だったから、教卓の上に置いて来てしまった。どうせ再試験の奴らなん
て、
眼中にないんだろ。俺にとっても、どうでも良いしな。

「んなの気にするなってば。その分、奢るって言ってんだろ」
気にしてはいないが、ちゃんと奢れ。
「…何回だよ」
「ガンゲー二回」
「少ねぇな…三回だ」


目的地は、商店街の外れに位置するゲームセンター。
ゲーセンには、学校帰りの学生だとか、社会の落ちこぼれみたいな奴らが蔓延ってい
た。
ここに来るのは、一ヶ月ぶりくらいだ。

「最近、テストばっかだったからな。ぃよっし、やるぞ!!」
そう言って無駄に気合いを入れたナルトは、店内へと疾走して行った。
ガキじゃあるまいし、あの馬鹿…。
「ったく」
奴の奢りだからな、文句は言わないが。
「ウスラトンカチ…」
この際、やり始めると誰よりもハイになる自分のことは棚上げだ。
溜息をつきながら、自分も店へと足を早める。しかし、それはひとつの声によって停

止を与儀なくされた。


「…あの!そっちに百円転がって行きませんでしたか?」
「へ?」
地面へ向けていた視線を上げると、店の前のクレーンゲーム機の横に立つ、場違いな
人物
が目に入った。
「百円…」
そう呟いた彼は、真っ白なワイシャツと、それとは対称の真っ黒なスラックスを身に

い、夏の夕日を受けて立っていた。
・・・心臓が、跳びはねる感覚がした。

「え・・・あ、百円?」
揺れる彼の銀髪。
それを目で追いながら、こちらへ歩いて来るのを待つしかなかった。
足が動かなかった。

「そう、百円」
目の前に立つと、彼は笑ってそう言った。笑うとまるで子供みたいで、俺よりも年上
だな
んて思えなかった。
柔らかそうな銀の髪が風に揺れて、その下の蒼い眼が逆光で細められる。シャツの衿
口か
ら覗いた白い肌は、うっすらとオレンジに染まり、細い指先が動いたかと思うと、そ
れは
俺の目の前でゆっくりと振られた。
「おーい、どしたの」
「!?」
いつの間にか見とれていた自分に気がついて、慌てて顔を逸らす。
何を言われたのか、何を言わなければいけないのか考えあぐねていると、先手を打た
れる。

「あ・・・ごめんね、いきなり」
ありがとう、と言うなり歩き出した彼は、あれで最後だったのになー、とか何とかボ
ヤき
ながら俺の横を通り過ぎて、今まで俺が歩いて来た道を行った。
影が、数秒重なった後、離れていく。
それを目で追っている内に、何かが切れる感覚がした。
いや、何かを水面に投げ込んだ感覚だったかもしれない。




「・・・っと、待てよ!」
「え?」

思わず、叫んでしまっていた。
しっかりと両目に捕えた彼の姿は、逆光でよく見えなかった。
けれど、確かに残っていた。
横を通り過ぎたときに鼻を掠めた、甘い香りが。

「・・・何?」
怪訝な声で聞き返してくる。そりゃそうだ。見ず知らずのガキに「待て」なんて言わ
れれ
ば、誰でもそうなる。
「あ・・・いや、何でも・・・」
ないわけがないだろ。馬鹿か、俺は。

「あんたに・・・」
運命を感じたって?あんな一瞬で?
本気で馬鹿か、俺は。病院送りだな。

「・・・っ!なんて言えば良いか解んねぇけど」
「・・・う〜ん、と、じゃあ・・・はい」
彼は自分のポケットから小さな紙切れを取り出すと、俺の手を掴んで握らせた。
掴まれた手に、主に指先に血液が回る。熱い。
自分の心臓の音が、煩い。

「ここね、俺の店。良かったら来て」
「ここって・・・」
目茶苦茶近所だ。知らなかったけど。
「そこの喫茶店でね、ウエイターやってるの」
どうりで。その格好には納得がいく。・・・が。

「仕事抜けて来てんのか?」
「うん、あと5分で戻らないと。店長にまた言われちゃう」
実はUFOキャッチャーが趣味なんだ、と笑顔で言う彼を、俺は最後まで見ることが出
来なかった。
眩し過ぎたんだ。
夏の夕日のせいだけじゃない。

「じゃあ、そろそろ行くね」
歩き出した彼を止める言葉は、出て来なかった。
いや、出す必要もなかった。
手の中には、確かに証が残っている。

「あ、言い忘れ」
俯いて手のひらを眺めていた視線を上げると、実に面白そうに俺を見る視線と絡まっ
た。
「何・・・」
言いながら、心臓が押しつぶされそうな気がしていた。
もう、駄目だ・・・。
「あのね」
ハマっちまった・・・。


「来てね。待ってるから」





一瞬近付いて耳に触れた空気に余韻を感じながら、頭はずっとぼーっとしていた。
彼が歩いて行った道を見つめて、一体どれくらい経つだろう。
残ったのは、手の中の紙切れと、何かが吊り上げられたような感覚。
「サスケ?」
「・・・なんだ、ナルトか」
いつの間にか隣に来たナルトは、俺の目線の先と俺とを見比べて怪訝な顔をする。
まぁ何を言われても、今はどうでも良い。

「どうしたんだよ、気色悪ぃ」
「・・・俺、病気かもしれない」
「はぁ?何言ってんだってば・・・」




その後、何を話したのか全く覚えていない。
ナルトとは、いつ別れたか・・・。


ハマったんだ、奴に。
かかったんだ、症候群に。
吊り上げたかったのはあんたの心、
吊り上げられたのは俺の心。

かかったら最後、逃れられない症候群。
かかっちまったよ、『UFOキャッチャーしんどろーむ☆』

そしてこれは、景品並の恋。


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