甘く

甘く

酔うほどに甘く。

囁いて、耳元で。



 桃色吐息





「…な〜、カカシ〜」

「ん〜?なぁに〜?」

いつもと変わらない穏やかな日。窓から射し込む日光と風とが、カーテンと戯れる。

そんな光景の中。二人してソファーで寛いでいると、サスケが思い付いたように口を
開いた。
肩に回された手と、髪に埋められた鼻の感触がくすぐったい。自然と顔が緩む。

「好きだ」

「うん」

「愛してる」

「うん」

急に浴びせられた台詞、いつもと変わらない不毛な会話。放っておいたらエンドレス
で聞かされるサスケのクッサイ台詞も、最近では気にならなくなってきた。

「…カカシ、反応薄い…」

「それ昨日も言ってたよ」

[気にならない=相手にしない]のか、確かに最近反応してない気がする。相手にして
たら何されるか解ったもんじゃないし、第一…
自分の身が持たない…!!


「最近のカカシ…冷たい」

「そんな拗ねないでよ、別に変わんないでしょ」

平静を装って出した言葉のぎこちなさと言ったら。やたらと早口になる。
だって、サスケのクッサイ台詞に耐えられるようになるまで、一体何日かかったと
思ってんの!?それを今更…!!大体何を言おうとしてるのかくらい、手に取るよう
に解るんだけど・・・毎日顔を合わせる度に聞かされる台詞であったとしても、それ
が唯の言葉じゃないことなんて、解ってるんだよ。


「…もう良い」

「サ、サスケ?」

「寝る」
そう言うと、サスケは俺の膝を枕にして寝始めた。


…ちょっ…ちょっと待ってよ!!今、「最近ちょっとオトナなカカシ先生じゃない
か!?」とか考えてたばっかりなのに・・・神様は何が憎くてこんな状況にするんで
すか!?俺に怨みでもあるのか!?やっと…動揺しないオトナなカカシ先生になれた
と思ってたのに…。これじゃ台なし…。


「あぁ〜、やっぱりあんたの膝の上って気持ち良い〜」

「…」
俺が動揺してんの見て楽しんでんのか何なのか、サスケは薄目開けて面白そうに俺を
見てる。

憎らしい…けど好きだ。
口が裂けても言えない。言ってやらない。言ってやるもんか。








「……」

「…サスケ?」

2分程してから、声をかけてみる。さっきから何も喋らない。まさか、本当に寝たの
か?
まさかねぇ、いくら日々の任務で疲れたと言っても・・・こんな所で寝られると困る
んですけど〜・・・。
強制的に起こすも有り、このまま寝かせるも有り。もしくは、クッションを身代わり
にして逃げるのも有り。
いろいろ考えた挙句、ひらめいた幼稚な考え。

(しめた!!)
このまま立ち上がって、落としてやる。サスケめ…一度制裁を加えなくては。
ガキのサスケには、適当な手段だと思う。俺の膝貸し料の高さを思い知らせてやる。


サスケの間抜け面をよく拝んでから、立ち上がろうと勢いをつけた。
(せーのっ・・・)

がしっ。

「え?」
強い力で、手首を掴まれた。
今まで拝んでいたサスケの間抜け面の目は、閉じられたままだ。
何が起こったのか、一瞬理解が出来ない。

「今…落とそうとしただろ」
そう言って、ようやくサスケの目が開かれる。そして面白そうに、驚いた俺を眺め
る。
掴まれた腕が、どんどん熱くなるのが解った。体中の血液が、みんなそこに集まって
るみたいだ。

「な…何の話でしょう?」

「しらばっくれんなよ…」
わざとゆっくり起き上がりながら、やたらとニヤけて言うサスケに、本当にむかつい
た。解ってんでしょ、どーせ!!

「う…〜」

「そんなに俺のこと好きなのか?」
極上の冷笑を浮かべて言い放ったサスケに、本気でキレた。


「…け」

「は?」


「…そこをどけえええぇぇぇぇ!!!!」


「ぅ…おああぁ!!!カ、カカシ!!落ち着け!!」

「黙れえええぇぇぇぇ!!!!」



頭に血が上り過ぎて、その後のことはあんまり覚えてない。覚えているとしたら、自
分が凄く汚い言葉でサスケを罵って、それを聞いたサスケが逆ギレしたのを更に罵っ
たことくらい。
部屋がどうなったかは言うまでもなく・・・これだからサスケがいないと片付かない
ような家になってしまうのだ。


「カカシ…俺、もう疲れた」

「俺も疲れた」

たった5分くらいしか経っていないのに、1日分の疲れがどっと押し寄せた。
二人で溜息をつきながら、またソファーに座る。ソファーは辛うじて無事なものの、
クッションは半分が燃えていた。火遁使ったのどっちだっけ・・・。

「もう一回寝る」
そう言って頭を俺の膝に乗せたサスケに、もう怒る気力も無かった。

「懲りないね〜、お前も」

「だって、愛してるから」

「あっそ」

「…悪かった、からかったりして」

「良いよ、もう」

「あんたを確かめたかっただけなんだ」

「何を…」

「照れてくれたら、俺のこと意識してるって解るだろ?」

「あ〜、なるほど」
何故か妙に納得。

「だから…嬉しかった」

「変なの、キレられたのに」

風は何も変わることなく、クナイと水遁とでぐしゃぐしゃになったカーテンを揺らし
た。正確には、カーテンはその重さで微かにしか揺れていなかった。揺れているよう
に見えたのは、窓から射し込んだ光のせいだ。
サスケは気持ち良さそうに目を閉じて、俺はその髪を手で触れながら少し笑った。

幸せだ、無性に。


「な、カカシ…」

「ん?」

サスケはふいに起き上がると、俺の首に手を回して耳元で囁いた。
「愛してるのは本当だ。…本気で、愛してる。好きだ、誰よりも…誰よりも。カカシ
…」

それが、嬉しかった。本当に嬉しかった。

「バっカじゃないの…!!」
意地を張ってごめんね。素直になれなくてごめんね。
こんな俺を解ってくれるのは、サスケだけだと信じてるよ。
だからこそ、好きなんだ。大好きだよ、サスケ。


「ん。馬鹿だから」

そう言ったサスケの吐息が耳にかかって、凄くくすぐったかった。
耳だけじゃなくて、その台詞自体が凄くくすぐったかった。

大好きだよ。
言ってあげたいときに言ってあげられなくてごめんね。
だからその気にさせて、いつも言って。


周りは晴色

吐息は桃色

君は俺を何色にしてくれる?

甘く甘く甘く甘く…

エンドレスで囁いて、耳元で。

桃色吐息。

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