・・・何で俺は休みの日にこんなことしてるんだ?

事の始まりはカカシの一言。
可愛い顔してお願いなんてするから。

「ねぇサスケ。りんご食べたいな」



 Red thread





今日は久し振りに任務もなくて、俺はカカシの家に来ていた。久々の休日。「暇だか
ら」って理由つけたけど、実際は休日を一緒に過ごしたかったからだったりする。俺
は一緒に住みたいのに、カカシはどうしてもYESと言わない。俺がまだガキだと思っ
てるんだ。でも断り続けている手前、カカシも無下に来るなとは言えないらしい。休
日は、こうして自宅への立ち入りを許可されている。俺にとって幸か不幸か・・・微
妙なところだ。



で、話に戻る。
ちょっと待て。りんご・・・?今は、夏だ。りんご…って確か冬の筈・・・。
何をいきなり・・・。

カカシが変なこと言うもんだから、俺は間抜けな声を出してしまった。
「…はぁ…あ…?」

「りんご。食べたいんだけど♪」
笑顔で即答。俺は、この笑顔に弱い。
それに「食べたい」って・・・つまりは、俺に「買ってこい」ってことだろ?

「…分かった」

カカシの頼みだ。断わる理由なんてあるはずも無く、俺はカカシの家から出ると、八
百屋に向かってダッシュした。





「おっちゃん、りんごくれ!!」

近年の木の葉も発達してきて、季節の食材が一年中手に入る。俺の心配とは裏腹に、
店頭には夏の太陽を受けて赤く輝く、トマトならぬりんごが並べられていた。
購入を決意して、店主に声をかける。こういう時は愛想が大事だ。もっとも、俺はカ
カシと親密になるまでは買い物なんかで愛想は振りまかなかったらしい。自覚はない
けど、いつかカカシにそう言われたことがある。人間、不思議なこともあるもんだ。


そこで一度思考を中断すると、まじまじと俺を見る店主と目が合った。注文を待って
いるのだ。
「あぁ、悪い」
そういえば、何個買えば良いものか。カカシはきっとあんまり食べないだろう。俺が
食べる分も考えると…。
「・・・3つ」

代金を払うと、俺はカカシの家に向けて再びダッシュした。
気づけば、ビニール袋の中には3つのりんごと1つのトマトが入っていた。
(今度もあの店行こう・・・)
カカシと行けば、もう少しサービスしてくれるだろ。そんな主婦のようなことを考え
ながら、俺は坂道を駆け上がった。





帰ると、玄関を通って早速台所に入る。まな板、包丁、皿…と使うものを出して、周
到に準備する。
収納場所を熟知してる自分が恐ろしい。それだけ台所に立っている回数も多いという
ことだが、そこはあえて
突っ込まないことにする。





「サスケ、りんご剥くの上手いね〜」

「!?」

りんご剥くのに集中しすぎていて、カカシが後ろに立ったことに全く気付かなかっ
た。
自分の目の前には、細く長く剥かれたりんごの皮。カカシは俺の横に立つと、それを
摘んで、指に絡めて遊び始めた。
手付きがやらしいのは、気のせいじゃない。
「本…読んでたんじゃなかったのかよ」

「うん。でも、読み終わっちゃったから」

「…そうか」

俺は、またりんごを剥き始める。隣に立って皮を弄び続けるカカシには正直どぎまぎ
していたが、そんなことも
言ってられない。


…何で俺は休みの日にこんなことやってんだ?


突然湧き上がった理不尽な思考に、眉根を寄せた。
その瞬間だった。

「あっ!…切れた」

「え?」
剥いていた手を止めて隣を見やると、カカシの手には二本の絡まったりんごの皮。…
切れたのか。
対してカカシは、実に残念そうに、切なそうにそれを見つめていた。
あんな目で見つめられてぇ。とか思ってしまった俺の思考回路は、間違ってなどいな
い筈だ。


「…ほら」
そう言って、今剥き終わったばかりの皮を差し出した。

「…ありがと」
それを俯き気味に受け取るカカシを見て、その可愛さに俺は内心絶叫した。

かわいい…!!!
何なんだ、この可愛さはっ!?
くらくらする頭をどうにか抑えて、俺はまた作業を再会させようとまな板に向かっ
た。いや、向かおうとして声がかけられた。

「…ねぇ、サスケ。ちょっと左手出して」

「何だ?」
言われるがまま、左手をカカシの前に差し出す。何をするのかと思えば、カカシが俺
の小指にりんごの皮の端を巻き付け始めた。

「?」
わけが分からない。一体何がしたいんだ。
すると今度は、反対の端を自分の左手の小指に巻き付ける。

「え…?」
ますますわけが分からない。

「…カカシ。ちょっと待て。何がしたいんだ?」

「何って…サスケ、知らないの?」
きょとんとした顔で聞き返される。

「・・・何を?」
怪訝な顔で聞き返した。



「運命の赤い糸」



・・・俺の思考回路は、一時停止した。
その代わり、カカシを思いきり抱き締めた。正確には、軽いタックルのようになって
しまった。
勢い余って、カカシのバランスが崩れる。
「うっわ、ちょっ・・・サスケ!!切れる・・・」

時既に遅し。
俺の指先とカカシの指先には、お互い綺麗に切れたりんごの皮。


「…あ〜、切れちゃった。最後の一本だったのに…」
拗ねたカカシを見て可愛いと思ってしまう自分と、りんごの皮…赤い糸が切れて
ショックを受ける自分と。

「…悪い」

「うぅぅ……」

「また剥くから。な。そん時な。それとも、今また買って来るか?」

「ううん・・・良いよ。次の楽しみに取っておくから」

そう言って、カカシは優しく笑った。いつもの、俺の好きな笑顔で。
そうだ。今度もまた赤い糸を、何本だって。冬になったら、毎日だってりんごを剥こ
う。
そしたら今度は、俺があんたの左の小指に結んでやるから。


だから、それまで。隣にいても良いよな?
この夏から、この冬までは確実に。

暗黙の了解だと、そう受け取っても良いだろうか。
自己中な考えではない。
少なくとも、そう思うんだ。

運命なんて、信じていなかったのに。
あんたが言う赤い糸は信じられたんだ。







・・・後日談。


「サスケ、りんご剥くの下手になった〜」

「うるせぇ」

「だって、この間よりも太くて短い〜」

赤い糸は太くて短い方が良いだろ。そんなことも解んないのか?
自分から赤い糸だとか、運命だとか言っておいて。
まぁ、その糸もいらなくなる時が来るだろうけど…。
まだまだ俺の希望的観測。

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