――― 月と野良猫(ネム) 著者:イチタツ様 ―――
どくん、と死神の一人が口内に精を放出する。
私はそれをこぼさぬ様丁寧に舐めとってコクン、と飲み下す。
とても濃く咽喉に絡みつく精液。飲み下すのに多少手惑う。
すると手で慰めていたもう一人の死神が苦しそうに唸るので私はそちらに顔を向け、口を開いて舌の上に彼の陰茎を乗せた。
びゅる、びゅっ、びゅく。今度はとても勢いが良く、舌で受け止めきる事が出来なかった。
頬から鼻の頭に掛けて精液を飛ばされ、顎まで滴り落ちてしまう。少し匂いが鼻に衝いた。
「ばっか、何やってんだよお前。ネム副長の綺麗なお顔が汚れちまっただろぉ」
「へへっ、姉さんの指使いが良すぎてよぉ。ついなぁ、すみませんねぇ姉さん。」
男は下卑た言葉をかけてくる。
「いえ、問題ありません。」
それだけを答え、掌で顔についた白濁を拭い、舐り取った。
先に放出した方の男が後ろから抱き付いてきた。名前は何と言ったか…思い出せない。
だが名など無くとも部下だということが分かればそれで事足りる。困ったことも無い。
その男は死覇装の上から私の胸を揉みしだき、襦袢ごと胸をはだけさせようとする。
もう一人の男――この男の名も忘れてしまったらしい――も私の股座に指を這わせて来た。
「やめなさい。ここは11番隊舎です。この場では口のみで終わらせる約束です。」
私は静かに二人を諫める。聞き入れられることは無いだろうと知りながら。
……先日、靜霊廷の北門(黒稜門)の内側の警備が12番隊から11番隊に担当が移行することになり、
その引継ぎのため、私たちは11番隊舎にやって来ていた。
引継ぎも滞りなく終わり、帰るだけとなった時に連れの二人から求められたのだ。
隊舎に戻るまで自らを抑えることもできない部下に失望を感じたが、もう慣れたものだ。
仕方なく口淫のみと言う条件で承知し、無断で11番隊舎の開いている客間を借りている。
後ろの男は乳房の先端の突起を執拗に指で転がしている。
前の男は私の秘所に早々に指を挿しいれ、抽送を繰り返していた。
「やめなさい。11番隊の誰かに見つかれば私たちの、牽いてはマユリ様の立場が危うくなるのですよ」
「へっへっへっ、そうは言っても身体のほうは反応してますぜ、ネム副長」
「姉さんのココも、もう濡れ濡れになっちまってますよぉ」
もう彼らに思考能力を感じることが出来ない。それに私の身体が反応するのは当然だ。
私の骸はマユリ様の作品。筋肉、骨格、臓器から神経結合に到るまで生身の死神と大差無い。
寧ろ平均的な能力の死神よりも何の訓練も施されていない私のほうが性能は高いほどだ。
また、私は生殖能力はなくとも生殖機能は存在する。恐らくは……彼らのために。
そしてこの場合はその為の生理反応。濡れないほうがおかしいのだ。
だが、それを彼らに伝えても無駄だということは経験から承知している。
彼らは私を貶めることで歪んだ優越感を感じていたいだけなのだから。
最早彼らにこの場の危険性を訴えても聞き入れるつもりは無いだろう。
ことこの行為に関しては副隊長という立場にある筈の私に決定権は存在しない。
ならば彼らを説得するよりも、早々に終わらせてここを立ち去ったほうが事態の解決は早い。
諦めて私は二人のされるがままになっていった……。
前の男が固く勃起させた陰茎を私の乳房の谷間に押し付けてくる。
「へへっ、へ。姉さん、そのでかい胸でしごいちゃって下さいよ。前から一度やってみたかったんだぁ…」
「あっ!ずっりぃぞ、てめぇ!くそ、ならオレは後ろだ。さぞかし具合も良いんでしょう、ねぇ副長。」
そういって後ろの男も私の下帯を解き、菊座に指を挿しいれてきた。
―――私は答えない。
ただ言われたとおり、胡坐をかいた後ろの男のモノの上に腰をゆっくりと下ろしていく。
すでに弱冠の腸液と秘部から流れ落ちた愛液、男の涎がまぶされた指によって私の菊門は潤っている。
ずぶりといった音を立てて怒張が私の中に侵入してきた。
「うほう!こりゃ締まる……くぅ〜ぁあ!こりゃやみつきになるな…くぉ!」
「そんなに良いのかよ、こりゃ後で替わってもらわねぇとなぁ。さ、姉さん。こっちもお願いしますよ」
―――私は答えない。
ただ言われたとおり、押し付けられたモノを両の乳房で包み、ゆっくりと上下させる。
胸の谷間には僅かな汗と湿り気しかない為、始めはただ揺らしているだけだったが
男の怒張から零れてくる腺液によって滑り、次第に抽送のかたちになっていく。
「ふう、ふっ…くふぅ〜、こっちも良い具合だぜぇ。まるで姉さんの蜜壺に入れちまってるみてぇだ。くぅ」
「へ、そうかよ。後で試させてもらわねぇとなぁそいつぁ。さぁ動かしますよネム副長」
―――私は答えない。
リズムをとるように交互に抽送を繰り返す二人。似たようなやりとりを繰り返す二人。
私が彼らのことを覚えていないのも当然かもしれない。関心がない以上に
彼らに今まで私を通り過ぎていった者たちとの差異が見受けられないのだ。
彼らもまた私を通り過ぎるだけのモノに過ぎない。
そんな彼らの居場所を作るほど私の記憶容量は広くはないらしい。
マユリ様の作り上げるものは完璧だ。
だが、認めねばならない…いや、その問いには…………
――――私は…答えてはならない――――――
駄目、思考を止めないと…私はまた、禁忌に触れる――――
ドッ。「へぶっ」
鈍い音と奇妙な音が同時になって私は覚醒した。
気が付くと私の胸を犯していた男が宙を舞っている。
「てんめぇらぁっ!!ここで何やってやがるっ!あーーっ?」
ドガァラァンッ!
宙を舞った男はそのままふすまに激突して動かなくなる。
「ひっ、あ、あっアンタは!」
後ろの男が私の中から一物を引き抜いて後じさった。
不覚。
深く思考していたせいか気配に気付かないとは。――何という、ことを―――
私は割って入ってきた禿頭の男を見る。…覚えていた。
この人は…十一番隊第三席の…。
「ちょ、ちょっとお待ちくだせぇ!こ、これにはっ事情があるんでさぁ!
た…頼んますっ、聞いてくだせぇ!」
肩を怒らせて迫る禿頭の男に下半身をはだけたままの死神は必死に抗弁しようとする。
「事情?は!事情ねぇ!?いいぜ、聞いてやる。この俺様を納得させる
スンバらしい事情って奴があるんならなぁ……さあ、心して答えろよ!」
そう言って彼は私と男とを遮るように間に立った。
……もしかして、庇ってくれようとしているのだろうか………
―――――トクン――――――
?
何故だろう。今、少し鼓動が奇妙な鳴り方をした気がする。
彼は初めて私の方を見る。そして、目を見開いてそのまま固まってしまった。
「あ、あんた…。どうして―――」
どうやら私に気付いていなかったようだ。
「へっへっ、その女はですねぇ…こりゃまたとんでもねぇ淫乱でして、隊舎に戻るまで我慢できないってンでぇ
我々がここでお慰めしていたと、そういう次第でして、ハイ。私としても副隊長の命令じゃぁ逆らうわけにもいかず…
仕方なく、へへ。それより旦那。旦那もどうです?」
その下卑た言葉に一角は男のほうに向き直る。
男は自分が言葉を紡げば紡ぐほど彼の眉を吊り上げる効果しか生んでない事を理解していないようだ。
しかし、成る程。彼らが何故この場で強気に私を求めてきたのか僅かながら理解できた。
例え事が露見したとしても私の身体で篭絡できると思っていたらしい。
「どうです?旦那も我らが副隊長の身体を楽しんでみやせんか?
このお方のアレの締め方なんて正に…へ?いや、旦那。何でそんな怖い顔で近づいべちゃらばっ」
何て―――――――――――――愚か。
彼らの計画は彼ら自身を基準として構築されている。
ここが「剣八」という生きた伝説の名の下に強固に統率されている
十一番隊ということがまるで考慮されていない。
しかも彼は特に剣八に心酔しているという十一番隊第三席、副官補佐。
斑目――――― 一角。
一角は男を叩き伏せると私の方を振り向き…何故か顔を赤らめて眼を逸らした。
そのまま押入れのほうへ歩いていき、中から予備の死覇装(膝下まである一般的な物だ)を取り出した。
私のほうに差し出す。
「こんなもんしかありませんがね…羽織ってください。
いつまでも副隊長さんにそんな格好をさせとく訳にも行きませんからね。」
見ると私は死覇装をはだけたままだった。少し顔が紅潮する。
いや、何故?この姿を見られるのはいつものことだ。
私はそれよりもこの場をどうするかを考えなければならない。…その筈だ。
しかしこの場で下帯を巻きなおすのも憚られるので有難く受け取ることにする。
「有難うございます。それと、お願いが…どうぞこの場での事は忘れては戴けませんか。」
予想されたとおり一角は眉を顰めた。
「何故です。副隊長ともあろう方がこんな下位席の者に黙って辱められて…弱みでも握られてるんですか?」
こめかみに青筋が浮いている。どうやらかなり怒りを抑えているようだ。
…どうしたらいいだろう。このまま言い逃れるのは難しい。何せ現場を見られている。
下手な言い訳は義侠心の熱いこの男に余計な行動を施す引き鉄となり兼ねない。
ならば、真実を話すか。私の立場を説明し、その上で口止めを願えば聞き入れられるだろうか?
…………その方がいいだろう。私は結論を出す。
それがあらゆる可能性の中でもっとも有効な方法だ。
下位の死神に抵抗もせず嬲られていた私を見ても副隊長として立ててくれる彼の人柄を見てそう思う。
…かなり苛ついてはいるようだが。
事情を承知すれば分をわきまえ、進んで他の隊に干渉しようとはしない筈だ。
私は口を開く。
「これはマユリ様によって定められた私の義務なのです。他の副隊長ほど戦闘力に長けた訳でもなく、
統率力に優れている訳でもない私が副隊長たり得るのはこうして部下の鬱屈した欲望の処理を施し、
人心を集めるその役目の為です。」
そう、簡潔に説明した。
彼は表面上は平静を保っている。が、両の拳は小刻みに震え、瞳は鋭く私を見据えていた。
「涅隊長が………そう命じたのですか。」
―――――私は、答える。
「はい。これが私たち十二番隊の在り方なのです。貴隊の隊舎を汚したのは申し開きの仕様もありません。
この客間の破損に関しては私が責任をもって修復を手配させて頂きます。
しかし、私が部下と共に行なっていたことに関しては十二番隊の問題です。
どうか軽率に詮索をなされませぬようお願い致します。」
これは十二番隊の問題だということを強調する。…彼は、引いてくれるだろうか。
今更になって不安になる。
何故……………、私は震えているのだろうか。
事が露見すればマユリ様に咎められる、そのことを恐れているのだろうか。
ふと見ると彼は俯いて肩を震わせていた。
「…く、………くっく、くくっ………」
泣いているようにも見える。だがそんな筈はない。彼が泣く理由などない。
ならば、私を…………笑っているのか…
心に氷が落ちる。彼に――――軽蔑される?
当然だ。義に厚く清廉に生きる彼にすれば私など汚物に等しい。
―――嫌われてはならない…と、私は言われていた。
マユリ様から命じられているのだ。他の隊の者たちに嫌われてはならない、と。
私が嫌われれば他の隊との齟齬を生み、牽いてはマユリ様の立場に影響が出てしまう。
それは避けなければならない――――が、この場ではそれは無理だろう。
彼が顔を上げる。しかしそれを視るのが、怖い。
先程から私はおかしい。
何故私は……マユリ様に咎められる事を怖れるのではなく――――――彼に………
嫌われること自体を怖れているのか――――――――――
ガッ。
突然、胸倉を掴まれる。彼は…………怒っていた。もう、どうしようもないほどに。
「ふ…ざっけんな!ふざけんなよテメエ!!此れが役目!?テメエの副隊長としての意義!?
言ってることが片っ端から理解できねぇよ!!副官相手だからって抑えてきたがもう、我慢ならねぇ!
このまま心を殺したまま飼われ続けるってのか!?いや、そんな上等じゃねぇ!
自分の意思ももたねぇ、誇りももたねぇ、それに抗おうとすらしねぇ!テメエはこの場を汚したと言った。
つまり、それが間違ってるって理解してやがる癖に正そうともしねぇ!!
それじゃテメエただの操り人形じゃねぇか!それで生きてるって言えるってのか!!」
彼の怒号はただ、ただ真っ直ぐに私を貫いていく。
そんな彼の言葉に私は反論できない。できる筈がない。
私には全てを理解することはできないが、おそらく…彼はどうしようもなく正しいからだ。
―――自分の意思。
…私はそれを持つことを許されていない。
―――誇り。
…私はそれが何なのかすら解らない。
―――正しい心。
…私は…おそらくそれとは真逆のモノから産み出されたのだ。
そう、彼の言うとおり私は生きてはいないのだろう。自分の意思を持つことが生きるということならば………私は死しながら世を歩く事を定められた屍人形。
――――羨ましい………と、思ってしまった。
許されないことなのに私は、そう―――思ってしまっていた。
彼は…それが間違っていることならば彼が心酔する更木にさえ、異を唱えることが出来るのだろう。
嗚呼、当然だ。私が彼に嫌われるのは当然だ。そしてそれが―――――とても、悲しい。
ふと、気付くといつの間にか襟から彼の手は外されていた。
見ると彼は私に背を向けている。
「………申し訳ありません涅副隊長。ご無礼を致しました。…ここで起きた事は忘れます。
その二人を連れ、早々に立ち去ってください。部屋の修復の手配も無用です。」
冷めた口調で淡々と告げる。背を向けたままに。
「…………わかりました。」
頷くことしか、出来なかった。
月夜の散歩は嫌いではなかった。
全てを隠すほど黒くもなく、全てを晒けだすほど白くもない…中庸の世界。
他の隊はどうか知らないけれど、通常私はマユリ様の傍に付くことが義務付けられている。
しかし、マユリ様が研究に没頭する夜間などは、若干の自由を認められている。
部下たちの性欲を処理する役目は時間がきちんと決められていて、
それを不満に思う部下がこの時を狙って迫ってくることも多いのだが、
今日はそういった者もなく穏やかな時間が過ぎていく。
そんなときに私は――――散歩をするのだ。
靜霊廷に複雑に張り巡らされた城壁の屋根の上をゆっくりと歩いていく。
半月の静かな灯りと冷たい風がこの義骸の身にも心地良い。
そうして幾らかの時が過ぎたとき、不思議な調子の声が聴こえてくるのに気付いた。
「……っっっぃ、っっっぃ」
少し興味を覚える。私は声のするほうに歩き出した。
しばらくするとその不思議な調子の唄に合わせて奇妙な舞を舞っている男が視えて来る。
「…っぃ、つい♪つつつい♪つい、てる〜〜〜〜〜ん♪」
禿頭で眼の周りに隈取りを施した、そんな死神。特徴のあるその容貌は定例集会でも良く見かける顔だ。
確か…十一番隊第三席、斑目一角。珍しくすぐに思い出す。
ぼんやりと見つめるうちに向こうもこちらに気が付いたようだ。
「おや、これは涅副隊長。こんな夜分に奇遇ですねぇ…いや、こりゃ参った。」
「いえ、お邪魔なら失礼致します。」
私はそう答える。他人に嫌われる真似は避けなければならない。
すると何故だか彼は吃驚したような顔でこちらを見た。
「ああ、いえ。邪魔だなんてぇそんなことはないですよ。
ただ、月の出る夜はツキがあるなんて駄洒落めいた迷信がありましてね。
確かめてやろうと即興で踊りながらツくのを待ってたんですが…どうやら満更出鱈目でもないらしい。」
そう言って彼は照れたような笑みを浮かべる。
…興味が湧く。聞いてみようか…そう考える間に言葉が口をついて出ていた。
「何か、良いことがあったのですか?」
「健全な男にとって美しい人に出会うってぇのはこの上ない幸運です。
っと、こいつぁ似合わぬ気障な台詞を吐いちまったようです。ボソ…弓親あたりに毒されたか…」
「私が…?」
誤解だ。私は汚い。彼は知らないだけだ。でも……少し、暖かいものが心に残る。
これは…嬉しいということ?
「副隊長のほうはどうされたんです?こんな夜更けに。」
彼の言葉で我に返る。
「いえ、私も…月夜は好きなものですから。月光浴も兼ねて散歩を…」
「そうですか、そりゃ…本当に奇遇だ。そうだ、どうです?こちらで一杯やりませんか?」
彼はそう言って側においてあった酒瓶から柄杓で酒を汲んで私の方へ差し出した。
結構大きな酒瓶だがここまで一人で運んで来たのだろうか。
その様子を想像すると少し微笑ましい。
「おっと、副隊長さんの前でやることじゃありませんでしたかね?」
「ふふ、そうですね。他の方の前では控えたほうがいいでしょう。」
…内心、私はひどく驚いていた。私は…笑っていたのか?今。
マユリ様にお褒め戴いたとき以外に笑うことが…私は出来たのか――――
ふと気付く。時刻はもう夜半を過ぎている。――――何時の間に…
「…私はこれで失礼します。あなたも程々にしたほうが宜しいでしょう。」
「ご忠告傷み入ります。それじゃあ良い夜を。」
「はい、それでは」
少し……名残惜しかった。
月夜の散歩は嫌いではなかった。
全てを隠すほど黒くもなく、全てを晒けだすほど白くもない…中庸の世界。
他にすることも無いので始めた事だったが、今夜は少し…好きになれそうな気がした。
そんな記憶。ただ、それだけの些細な話。
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