――― キスケ×ウルル 著者:855様 ―――
いつもいつもあの人が来るとき、喜助さんはご機嫌。
多分あの義骸の性能に満足しているんだろうし、色々手に入れる為にお金をちゃんと払ってくれる
あの人はお得意様だし。
お店の為にも喜助さんの満足の為にも、今は欠かせないあの人。
…でも、本当にそれだけなのかな。
喜助さんはあの人のことが、好きなんじゃないのかな。
朝、いつものように喜助さんに髪を結んで貰いながら、そんなことを考える。
結んでくれる骨張った手を嬉しいと思いながら、ただ、そんなことを考える。
「ウールル? どーしたの?」
少しだけ物思いにふけっていたウルルは、急にその顔を自分の背で髪を結んでいた筈の喜助に
覗き込まれて、驚きを隠せなかった。
「なーに、悩み事かい? ほーら、オニーサンに云ってごらん」
「誰がオニーサンだ。オッサンの間違いじゃねぇのか」
ほてほてと縁側を歩くジン太が喜助に視線を向ける事なく、けっと言い捨てて通り過ぎる。
「ジン太くん…ヒドイ…」
「アンタがウルルの真似しても可愛くねぇよっ」
よよよと喜助が泣き崩れる。それを見たジン太が怒鳴る。
「ほう、ジン太くん。ウルルが可愛いと認めましたね♪」
「どぅわれがそんなことを云ったぁぁぁぁっっ」
「店長、ジン太殿ウルル殿、朝食ですぞ」
そんな騒ぎを遮るようなテッサイの声で、いつもの浦原商店の朝は始まった。
「浦原はおるか」
ざっと音がしそうな程、踏み締められた地面。
入り口付近を掃き掃除していた筈の子供たちはその声の主の顔を見る。
踏み締めた華奢な足の持ち主は、お得意様である朽木ルキアだ。
「はい…」
「てーんちょー、お客ーっ」
竹ぼうきを振り回しながら、ジン太が店へと駆け込んで行く。きっと、掃除から逃れられると
喜び勇んでいるのだろう。
「おや、朽木サン。何がご入り用で?」
パチンと浦原の扇子を閉じる音が小さく聞こえる。
「至急取り寄せて欲しいものがあるのだが」
そんな子供には目もくれず、ルキアはずかずかと浦原商店へと乗り込んだ。浦原商店の見かけである
駄菓子屋とは全く関係のない、『この世のものではない商品』を手に入れるために。
…別に彼女は自分を子供だと侮っている訳ではないのだろうが、その口調と彼女独特の態度から、
どうしても見下ろされている気分になる自分を、ウルルは良く知っている。
…彼女と自分の差はどれだけあるのだろう。
ウルルは、ルキアを頭のてっぺんから爪先まで流し見た。
ウルルの対死神の戦闘力と、彼女の死神としての戦闘力。それが拮抗するものかどうかは
さすがに判らない。こればかりはタイになれば上等だろうと思っている。
身長は…こればかりはこれからの成長如何だ。どうにもならない。ルキアがまだ成長期だと
云うのでなければ、これから何とかなりそうな気がしないでもない。…希望的観測かもしれないが。
ただ、女性としてのセールスポイントではないかと思われる胸の辺りは、見たところ
どうにかタイに持ってゆけそうな気がする。喜助の好みがああいうのなら、自分にもどうにか
分があるだろう。あの、ミニスカートから伸びた細い脚と腰の辺りも然りだ。
しかし、顔の作りはまるで逆と云って良いのだ。ここが重要ポイントである。
顔が好みと云われてしまっては整形でもするしか手がないではないか。
ウルルはたれ目がちの目尻を更に下げて、溜め息をつく。
「……あの、人間なのに死神のあの人、こういうタイプが好みなのかな」
呟きながら、違うことをウルルは考える。
取り合えず、あのオレンジの頭の人と会うときは気を付けよう、と。
「…ウルル?」
そのとき浦原は、店の一角で最後の伝票整理をしていた。大して売上がある訳でもないこの店で
それはさして重要な行動でもないように見えたが、在庫管理と云うものは商売人として
大事なことなのだろう。
その背を見たウルルは何を思った訳でもなく、ただぼんやりとその背に身体を凭せかけた。
触れた温もりと背からこぼれたツインテールの黒髪に、浦原は振り向く事なくその名を呼ぶ。
「……」
何かを告げようと小さく開いたウルルの唇が、何の音も紡ぐ事なくゆっくりと閉じる。
「どうしたんだい?」
浦原の背から肩に顔を埋めているのだろうウルルの頭に手を伸ばすと、浦原はそっとその髪を撫でた。
きゅ、と、ウルルの小さな手が浦原の服の肩の辺りを握り締める。
「ウルル、おいで」
ふるふる。ツインテールが小さく否定を示すように揺れた。
「そこにいたら抱っこ出来ないでショ。ほら、おいで」
そろりと顔を少しだけ上げたウルルの目に、見慣れた不精ひげが見える。ウルルを迎える為に
腕を広げた男のその不精ひげを蓄えた口元が、柔らかく微笑っていた。おずおずと、ウルルは
その身体のある位置を変えてみる。…浦原の、腕の中に。
「ハイ、いらっしゃい」
必然的に浦原の、あぐらをかいたその足に腰を下ろしたウルルは、すっぽりとその腕の中に
包み込まれた。
「どーしたの、何が不安?」
抱き締められながら問われた言葉に、ウルルはただ、服の肩の辺りをその小さな手で握り締め、
浦原の胸に顔を押し付ける。
「…何でも、ない、です…」
「なんでもないのに、ウルルは抱っこして欲しいの?」
ウルルの小さな耳が、かあっと赤く染まる。耳がそこまで赤いのなら、顔など相当なものだろう。
「……。…イジワル…」
くく。それを知ってか知らずか、ウルルの頭上にある浦原の口元から小さな笑い声が零れた。
「ウルルにとってアタシは、女の子が一人で不安がっているのを見過ごせる男に見えるんですかねぇ」
ふう。浦原の口元から零れた吐息が、ウルルの黒髪を小さく揺らした。
「……女の子?」
顔を上げないままで、浦原の胸に抱かれた少女は呟く。
「ウルルは女の子でショ?」
「ウルルじゃ、なくても? あの…、朽木さん、でも?」
それまでのただ軽いだけのようなただ柔らかいばかりの浦原の笑みが、一瞬消える。
「…もしかして、ウルル。朽木サンと自分を、比べてた?」
ぎゅ。ウルルの握り締めた手に、更に力がこもった。
「そんなに信用、ありませんかねぇ」
「そんなこと…っ」
はああ。大きな溜め息と共に浦原の口から紡がれた言葉。反射的にウルルは顔を上げた。
ちゅ。
「……んっ」
顔を上げた、そのままの角度で口づけられる。目を見開いたウルルは浦原の突然とも言える行動に、
首を逸らして。でも結局そんな不意打ちに、思わず目をきつく閉じる羽目になった。
「ん、んんんっ…」
始めの内は浦原の肩をぽすぽすと叩いていたウルルの小さな拳は、その深くなる口づけに
いつの間にかその抵抗を止め、浦原の肩に掛けられていた上着を強く強く握り締める。
「ん、ふぅ…あ…っ」
するり、と浦原商店のロゴ入りTシャツをたくし上げられた。接吻の間に、ウルルは
膝立ちにさせられていたらしい。それにウルルが気付いた時には、すっかりTシャツを脱がされた後。
ウルルのまだささやかに膨らみかけた胸の中心は固くそれを自己主張し始めていて、無骨と云うには
繊細な浦原の掌がゆるやかな双丘を包み込みながら、それを軽く指で挟み上げる。
「きゃんっ」
唐突な刺激に、ウルルは不意を付かれてぶるりと頭を振った。その拍子に離れた小さな口元からは、
細い細い銀の糸が、浦原のそれとウルルとを繋いでいる。
「んふふふ、ウルル可愛い」
「そ、んな、んっ」
手を滑り込ませていた方と逆の胸に、浦原は焦らすように肌へ舌を滑らせながら辿り着く。
「ん、ああっ、…や…っ」
「や、じゃないでショ? こんなに固くして…」
「や、あ…ん」
ゆるりゆるりと進められてゆく愛撫に、ウルルは全身をびくりびくりと震わせた。それを認めまいと
するのような、きつく閉じられた目と男の上着を握り締める手に、浦原はふと笑みをこぼす。
「ホントーに、ウルルは綺麗ですねぇ」
「…や、しゃべんないで…っ」
硬くなったそれに、浦原が何か呟く度に触れる舌と唇、歯列が不規則な刺激となってウルルに
ぞくりとした快楽を促してゆく。それは、今までさして経験のある感覚ではないと思う。
……冷静に、そんなことを考える余裕など、既にウルルにはなかったのだが。
「ここ、好き?」
「……っ、やあ…っ」
いつの間に滑り込ませていたのか、背を支えていた筈の手が、そろりとウルルの長いスカートの
中に潜り込んだ。敏感な場所を隠した今は見ることの出来ない、恐らくは白い布がぐっしょりと
濡れていることを、潜り込ませた浦原の指が探り当てる。
「ヤじゃないでしょ、ウルル。ほら、素直に気持ち良いって言ってごらん」
「ん、あああっ」
俯いていたウルルの顔が、びくりと天井を向く。垂れ目がちのきつく閉じられた瞼には
薄く涙が滲んでいた。
「ほら、どこが気持ちイイのかな」
湿り気を帯びている布の前面を、浦原の指が軽く弾く。
「ぅ、あ、あ、ああんっ」
反り返る細い首の仕草が、紅潮した頬の上に薄い涙の痕を滲ませる。つられてその細い首を滑る
自らの髪の動きにさえ、ひくひくと浦原の腕に納まっている小さな身体が反応を示した。
「……く、ひぃんっ」
くちゅり。ぐっしょりと濡れてほほ機能していないのであろう布を押しのけて、硬い指先が
敏感に反応を示す始まりの場所に潜り込む。充血し始めているその場所は、焦らすように
少し触れられただけで過剰な反応を返した。
「あ、…や、う、うぁんっ」
「はい、ウルル。イイコだね〜。……イッちゃっても、イイよ?」
「う、あ、あ、あぁぁぁぁあっ」
反り返る背と細い首。
突っ張った爪先。
上がる声の高さ。
その直後、全身の力が抜けたように、くたりと反った状態で浦原の腕に納まるウルル。
全てに浦原は息をほんの少し荒くして、満足そうにその唇の端をやんわりと上げた。
ぷつん。
「………え、…あ……?」
放心したまま再び浦原の腕に抱えられたウルルは、その聞き慣れた金属音に少しだけ我に返る。
目に入ったのは、するりと脱がされた大きな水玉模様のサーキュラースカート。さっきの音は
スカートのファスナーを外した音だったのかとぼんやりと思う。
「え? や…」
気付くと身につけているものが靴下だけになっていて、まざまざと見せつけられるの細い太股の間を
滴り彩る雫。ウルルはその状況に、かああああっと紅潮した頬を更に赤く染めた。
「どうして? キレイですよ?」
「…だって……」
自分から見ても、小さくて、細くて、まるでトリガラのような、カラダ。綺麗だなんて云われても、
ウルルにそれは信じられない。
否、浦原のコトバが信じられない訳ではなくて、恐らく彼女自身が理想とする女性のカラダとの
ギャップと、多分それへのコンプレックス。
「ウルルはウルルであるだけで綺麗。それでいいじゃありませんか。それとも、私の言葉は
信じられませんかね?」
「………やっぱり、喜助さん、イジワル……」
ちゅ。ウルルの両の二の腕を掴み引き寄せた浦原が、その小さな唇に軽い軽いキスをする。
「やっと名前を呼びましたねぇ」
ちゃんと呼んでくれなきゃイヤですよ。
浦原の、子供のわがままのような口ぶりに、ウルルは今にも泣き出しそうだったその目を緩ませて
くすりと微笑う。そのまま、その細い腕を浦原の首へと絡めた。
「………」
浦原の耳元に、小さく小さく囁かれた言葉。今にも消え入りそうな声で告げられたその言葉に、
浦原は満足そうに口元を笑みに形作った。
「本当はね」
紅姫には内緒ですよ、と呟きながら。
「ウルルが傍にいてくれれば、それでいいんです。大好きですよ、ウルル」
「う…く、あ、あああああっ」
浦原に促されて恐る恐る腰を降ろしたウルルは、自分の中心を貫くものの衝撃に目を見開いて、
思わず叫ばないではいられなかった。吸い込んでも取りこめない空気を少しでも多く得るように、
ささやかに艶めいた小さなあえぎが、その場所を空気を彩っている。
「ん、んあ、い…痛…っ」
「う…く、大丈夫、大丈夫ですよ。ウルル、一度で良いから大きく息を吐いて」
詰められた呼吸がウルルの身体を硬くする。それは即ち、ウルルの中にある浦原のソレも
相応に締め付けられているということだ。重力に従って受け入れた筈のソレによってウルルは
息を詰めているのだが、それもまたウルルの意志でしたことで。小さな身体を強ばらせた少女は、
浦原の言葉にふううと必死で息を吐いた。
「はい、息を吸って…」
「……あ、あああっ」
呼吸することで弛緩した小さな身体が、より深く沈む。
「ウルル、可愛い…」
「ひゃうっ」
弾けたように天を仰ぎ上気した頬に、薄く滲んだ涙が零れた。
ウルルに押し込まれていた筈のソレが腰に回された浦原の手で身体ごと引き出され、そしてまた
押し戻される。ウルルの中は、まるでぐずぐずに溶けた溶鉱炉のように熱く、浦原のソレに
絡み付いている。
そんなほんの数度の動きでしかなかったけれど、ウルルも浦原も、あっと言う間に上り詰めた。
「…ん、もぅ、だ、めぇ……っ、何か、来るぅ…っ」
しがみついた浦原の肩に、汗ばんだ細く小さな指が血を滲ませるほどに爪を立てる。
「ん、いいで、しょ。ウルル、一緒、に」
「う、あ、あああああっ!! イクぅっ!!」
感極まった、絶叫。
そんな声と共に締め付けられた浦原のソレは、ウルルの奥に熱いものを迸らせた。
「……………っっ!!」
いつものように朝が来て。
いつものように引き戸を開けたジン太は、そのまま言葉を失った。
「……な、な、なーーーーーーーっ」
次の瞬間、カウントを取るように上がってゆく絶叫が放たれる。
「んー…?」
そんな声が響くまで眠りこけていた男は、間抜けな声と共に目を覚ました。
「……あ、朝…」
ぽやぁとした腕の中にいる女の子の声に、浦原は笑みを浮かべる。
「ハイ、朝ですよー。誰か来ない内に起きましょうかねぇ、ウルル」
ちゅう。ぼーっと起き上がりかけたウルルの唇に、軽いキス。
目の前で臆面もなく繰り広げられる情景に、ばきぃとジン太の手が触れたままだった引き戸の桟に
ヒビが入った。
「もう来とるわ、ボケがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
どがっしゃーん。ぱりーん。
丸っきり無視されたジン太が、もう既にどんな理由なのかも判らずに、暴れた。
「店長、ジン太殿ウルル殿、朝食ですぞ」
そして、いつもの日常が始まる。
[了]
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