―――   藍染×乱菊  著者:長月様   ―――



いつも笑顔を絶やさずにいるあの人は、いま誰を見ているのだろうか。私はもう一度あの人に見て貰えることを望んでいるのだろうか。とうの昔に終わってしまった私達に今更何があるというの。

 五番隊の隊長室の前で、自分の隊長から頼まれた書類を手にして佇んでいた。できるだけ顔を合わせないようにしてきたのに、仕事とあっては妥協するしかない。
 「おや、松本君じゃないか。どうしたんだい。」
 部屋の前でいつまでも佇んでいたせいで、いつの間にか後ろに立っていた人物に気づかなっかた。久々に見る顔に動揺しながらも、事務連絡をする。
 「お留守だったんですね、藍染隊長。・・・これ日番谷隊長から頼まれた書類です。」
言われた男は、にこっと笑いかけてきた。
 「ああ、たったいま戻って来たところだよ。待たせちゃったみたいだね。」

 すぐに書類に目を通してしまうからと、部屋に通された。
 「松本君って、もしかしてここに来るの初めて?」
 突然そんなことを言われて、ああそう言えばそうだったりするなと思いながら、適当に返答する。
 「そうですね。いままで特に用事という用事が無かったので・・・。」
 何かもう一言付け足したかった気もしたが、こうやってこの男と二人きりでいることだけで、どうも悲しくなってくる。もしかしたら、この男とよりを戻したいと、今も思っている自分がいるのだろうか。僅かに期待してしまっているところがいい証拠だ。ここまで未練がましい女だった自分に嫌悪を抱いてしまう。書類に目を通している男の方にふと目をやってみる。あの穏やかな瞳は相変わらずで、懐かしさを感じる。

 「松本君、何か?」
 視線に気づかれてしまい、ハッと目を背けてしまった。あまりに動揺してしまい、弁解する余裕がない。しばし、ぎこちない空気が部屋を包んだが、男が微笑して口を開く。
 「そういえば、君とこうやって二人になるのって久しぶりだね。僕がここの隊長になる前に顔を会わせた以来か・・・。」
 「・・・。」
 自分の心中を知っていたかのような事を言われて、思わず黙り込んでしまう。だから何だ、と抗いたくもなったが、それはあまりに惨めすぎる。
 「前のように、とはいかないけれど、そのうち飲みにでも行きたいものだね。」

 躊躇しているところに更に言葉を掛けられ、
 「えっ・・・ああ、そうですね。そのうち暇でもできたら。」
 前のようにって、いきなり何を言い出すのだ。空っぽの言葉を返すのが精一杯で、でも抱いていた期待は嘘ではないかもしれないと、更に期待してしまう。
 「はい、これ全部大丈夫だったから。」
 手渡された書類を眺め、そして思い切って口を開く、
 「あの・・・、今大切な人っていますか?」
 言ってしまった。言われた本人は驚いた顔をしたが、すぐにいつもの表情に戻って、
 「そうだね、大切な人か・・・。松本君こそいるのかい。」
 「さあ、いるのかどうかは自分でもわかりません。ずっと独りでしたから。」

 うまくかわされ、自分が回答を迫られてしまったが、こちらも負けじとかわす。どうしても答えるわけにはいかないから。
 「そのうち、そんな人ができたら、藍染隊長だけに教えてあげますよ。」
 「はは、そうだね。僕もそういう人が見つかったら、君に相談しようかな。」


 途切れた道が再び続き出しそうな予感がした。もう一度、あの頃の二人になれたなら。諦めてはいけない。貴方に会えて良かった。その微笑がまた私に向けられるように、もっといい女になるから。だから、もう少しだけ・・・。 
                        〜END〜




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