―――   『今度までには』 雛SS  著者:4_276様   ―――



「はぁっ、はぁっ……んぁ………ゃ…」

空虚なまでに清潔な、白い壁に囲まれた空間を、幽かな声が甘やかに染めていく。

「んぅっ……っああぁ…うぅっ、っく…」

普通、このような声が響くはずのない殺風景な部屋――『命を永らえる』――そのための機能のみを追及した部屋。
漂う医薬品の匂いの中に混じる、浜風のような甘酸っぱい香り……粘液質の音……少女の喘ぎ。

本来在り得ない、空間と行為の組み合わせ。それを取り持つように、水差しには一輪の百合が黙って佇んでいる。

少女は、点滴の管が未だ繋がったままの手を、無心に自らの秘所に伸ばしている。
必死に、必死に、何かを取り戻そうとするかのように。
肉欲を満たすための浅ましい行為がそのように悲壮な物に見えてしまうのは、
彼女の目には肉の悦びも背徳に浸る歪みも、『何も』映っていなかったからかもしれない。
もしくは、未だ指先を動かすのすら辛いはずの彼女の、
意識を取り戻して最初に及んだ行為が自慰であったという奇妙さからかもしれない。

―――護廷十三隊四番隊舎、救護室―――雛森桃は、自らを犯し、喘いでいた。

指先に、ぬめりと熱を感じる。

―――ああ、私はまだ生きているらしい。
確かに、あの時私の身体を刃が通り抜けた。

あの時、確かに私は死んだのだと信じた。
彼ほどの使い手の魂魄刀が、私の急所を外す筈が無い。
それは、ずっと彼の側に居て、彼を追いかけてきた私が一番よく知っている。


―――そう、私が一番よく知っている、筈だった。


「くぅっ……!…んぐっ……、はぁ、はぁっ……」

一擦りごとに、甘い痺れがが私の身体を貫く。
はしたなく膨れ上がった淫核を揉み解すように撫ぜると、
鋭い電撃のような快感と、それと同じくらい強い苦痛が私の精神を灼いた。

私の身体のことは、私が一番良く解っている。
あれほどまでに自身を慰めたのだ、何処がどのような快楽を自分にもたらすかなど、
もう忘却の彼方に消えた過去に学んでいる。

そして、つい先ほど意識不明だった身体を弄ぶことが、
どれほどの苦痛をもたらすかも知っている。
この行為がどれほど愚かしいのかも。
それでも、止められない。

淫核は、私の苦痛を吸っているかのように肥大を続け、
膣口からは溢れ出た欲望が滴となって絶え間なく流れ出し、
辺りに淫臭を振りまいて止むことがない。

「んっ…もう、もう我慢出来ないよぉ……クリだけじゃ、ちゃんとイケない……」

くちゅくちゅと歯を漱ぐような音が、耳の中で反響し続ける。
それが自分の秘裂から胎内に響く音だという認識が、
肉の悦びを求める彼女の指を膣内へと誘った。

「あふぅ……く……ん…!……んはぁ…!っう…」
解れきった胎内に突き刺さる指が、脳天を貫くような快感を与える。
しかし、早鐘を打つ心臓の鼓動が、
一拍毎に息苦しさと刀傷の焼け付くような痛みを
血流に載せて脳髄へと運び込む。
意識を取り戻したとはいえ、雛森はまだ快復しきっていない重傷患者なのだ。
凡百の少女であれば、とうに意識を昏い闇へと再び落としてしまう行為。
それを継続しつつけることが出来るのは、
五番隊副隊長として鍛え抜かれた精神力と、

そして、

「きもちいい……私のおまんこがきもちいいんです……藍染たいちょぉ…」

執着故だった。

「いや、こんなに……あふれちゃってる……こんなにおまんこからだらだらながれてるのなんてはじめて…」

――彼女の目に映るのは、

「きもちいい……こんないやらしいわたしをあいしてくれるんですよね、たいちょぉ…」

――柔らかな笑顔、

「ぷちゅぷちゅっておとがしてるんです。クリトリスをこねると、おまんこのあなのなかがきゅっきゅってするから、
わたしの……いえ、たいちょうのゆびをしめつけて、おしるがとびでちゃうから、おとがしちゃうんです…」

――憧れ続けた笑顔、

「えっ?けがにんなのにいたくないかって?……ありがとうございます、しんぱいしてくださって。
たいちょうのことがすきだから、だいじょうぶですよ。こんなにきもちいいから、いたいのわすれちゃいます」

――そして、

「ああっ!ああっ!きもちいいぃ!おまんこのうえのほうをぐにぐにっておすと、からだのなかがぷちぷちはじけそうなくらい
かんじちゃいます!あいぜんたいちょうのゆびで、おしっこもらしながらいっちゃいそうですぅ…!」

――自分を殺そうとした者の笑顔だった。

「あぁっ!…ひ、ひぃっ…!すごい、きゅってしてる…」
優しくしてくれました。
「きもちいいです、イキそうです……!」
いつも笑顔で居てくれました。
「……!クリトリスつままれると、くるっちゃいます…」
「うれしいです、こんなにしてくれるなんて……いやらしいわたしにぃ…」
私は、貴方に惹かれて、心からお慕いするようになりました。
「ひゃぁあっ!そんなにぐちゅぐちゅってしたら、もっといやらしくなりますっ…!」
そして、貴方に抱かれる夢を見ました。自分を慰める術を覚えました。

――室内に響く淫水の音の質が、雛森の絶頂が近いことを告げる。
綻びかけた花弁を思わせる愛らしい唇からは、唾液が絶え間なく流れ落ち、
幼さの中に芯を秘めた言動からは思いもよらない卑猥な言葉が紡がれ続ける。

「もうだめです!イキそうです…!」
――彼はもういない。
「みてください、いやらしいあたしのイクところみてください!」
――彼は全て幻想だと言った。
「だいすきです、あいしてます……たいちょうだから、ひなもりはイクんです…!」
――私の想いも、憧れも。
「ああっ、イキます!あいぜんたいちょうでひなもりはイキますぅっ…!!」
――それが、彼の持っていた力。私の憧れた彼の強さの正体。ならば、ならば……
「いぐうっ、いく、いくぅうぅ!!だから、ぎゅってしてくださいぃぃ!!」
――この行為も嘘ですか?貴方を想ってするこの行為は嘘ですか?
「だから、だからぁあ、あ、ぁああぁあぁあ!!??!」
――身を焦がす快楽も、身体を貫く苦痛も?
「……はぁ、はぁ、だから……」
――だから、私は――
「愛してるって言って下さい、嘘だと言って下さい、藍染隊長……」


ああ、確かに貴方は私を貫いたんですね

積み重ねてきた喜びも

胸を焦がすような憧れも

甘い疼きにも似た切なさも

貴方と歩む未来を作ろうとした力も

貴方が貫いたのは

この身体だけではないことを

貴方はどれだけ理解していますか?

この溢れ出る淫らな液体と一緒に

私を形作る全てが

忘却の海へ流れ出てしまえばよかったのに



――――彼女は、果てた後の罪悪感と虚無感に苛まれる事は無かった。
いつもは、泣きたくなりそうな痺れが胸を渦巻くというのに。

―――しかし、少なくとも彼女が果てたことは嘘ではない―――百合の花だけは、彼女の涙を見ていたから。






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