――― 夜一×砕蜂 著者:4_177様 ―――
初めての出会いは 神との対峙に近かった。
そして今、その場所には私が居る―
「今宵は満月か」
彼女が姿を消してから、もう随分と時が流れた。
抉り取られた傷跡は、しかし今でも甘く疼く。
そう、今宵のような満月の晩は…
「…ん」
私の右手はいつの間にか、装束の合わせ目に入り込んでいる。
なだらかな丘を滑り、先端に到着するとそれは既に硬くとがっていた。
「…は…っ」
微かに熱を帯びた掌で、左のふくらみを撫でさする。
やわらかな刺激は脳に達するが早く、薄布に覆われたそこへと伝わって
私の両の脚は自然にゆっくりと開いていった。
(…夜一様)
胸の辺りをさ迷っていた右の手は次第に下方へと降りていき、心当たりのある
場所へ導かれるようにそっと触れた。
「あ…」
薄布が、あたたかな湿り気でしっとりと張り付いている。そのことを知るのは
自分一人だけなのに、何故かとても恥ずかしく思えた。
(夜一様…)
布の上から小さな突起を探し当てる。
(…早く、早くここを)
指の腹で軽く二・三度円を描くと、ほころんだ蕾から蜜が沁み出してきた。
私は浅くなった呼吸を整えることもせず、次々と同じ場所へ刺激を与え続けた。
「あ、あ、…夜一、さまっ…!」
指先に込める力が強くなる。
彼女が私に施したような細やかで的確な動きを思い出し、試みてはみたものの、
しかし、自分自身で再現するには限界があった。
このままでは中途半端に燻りを残してしまう…
私は霞がかった頭のままで、側近の一人の名を呼んだ。
黒装束に身を包んだ男がたちどころに現れ、私の痴態に
一寸の戸惑いも見せずひざまづく。
「お呼びでしょうか、軍団長閣下」
答えず、男を仰向けに倒し、私はその顔面の真上に跨った。
「言葉はいらぬ。…解るな?」
男は両手で薄布を除けると、舌先で大きく合わせ目をなぞった。
「あ…んっ…」
背筋に甘やかな戦慄が走る。
私は瞼を閉じ、挑戦的な視線としなやかでいやらしい猫の舌を脳裏に思い描いた。
彼女の舌から繰り出される「罰」に、私は一度も逆らえたことがなかった。
いつもいつも、一方的に責められて絶頂の波に浸る私を、
彼女は満足そうに眺めているのだった。
(夜一様…!)
しかし、現実に与えられる刺激は期待よりも遥かに稚拙で、あの甘美な記憶を
蘇らせるには遠く及ばないものだった。
私は苛立った。低く呟く。
「…もう良い。退がれ」
「は、しかし…」
「二度も言わせるな!」
言い終わると同時に、血飛沫が私の頬に飛んだ。
血の匂い。彼女と私を繋いだもう一つの絆。
私は苛立ちと興奮にせきたてられながら、血の匂いの充満した空気の中で
ようやく絶頂に達した。
小さな涙の粒がひとつ、頬を伝って流れ落ちる。
私はふと、彼女の台詞を思い出した。
『のぅ砕蜂。それがイッたという証じゃ』
記憶の中の黒猫は、悪戯っぽく笑っていた。
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