―――   藍×雛+α  著者:460様   ―――



牢屋の壁に額を打ち付けた。強く。
衝撃は頭の奥に響く。ガンガンする。額から身体ごとわれてしまえばいい。
胸に去来し続けるこの痛みを消せはしないけれど。
「藍染隊長…」
幾度呟いただろう。後悔は戻りはしないのに。

日番谷の忠告は最初から最後まで曖昧なものだった。ただ、己の敬愛する上司の身を案じずにはいられなかった。自分の力は藍染には到底適わない、それでも。常に危険を認識していれば、この身は盾にはなるだろう、と。
「罰、かな…」
戦いなんてしたくない、それでも。隊長の、盾になら。浅はかな身勝手で部屋の前で佇んだ罰。
気付かれない筈がなかったのだ。『雛森くん』。そう呼びかけてくれるのを、自分は確かに期待していた。
言葉と声に心を洗い流され、唇と指に身体の緊張を解きほぐされた。
初めての感覚に戸惑いはあったけれど、藍染への信頼に勝るものではなかった。

肩にかけられた室内着。
ほの寒い廊下から促された部屋は暖かく、必要ないように思えたが取り去るには忍びなかった。
肩にかけた同じ手で肩からするりと落とされる。それなら構わない、と思う。
右耳の下に熱い口付けを受けて、眩暈がした。いいのかい、と聞こえた声に、たいちょう、としか言葉が出なかった。全て発音出来ていたかどうかも解らない。腰布を解く音や、寝具の乱 れる音は意識の外だった。ほんのわずかなものであったのに、藍染の、眼鏡を畳みに置く音は意識出来た。唇への口付けを期待したからだ。
眼前の空気が暖かくなった気がした。藍染の唇が、自分のそれへ触れた。同時に素肌を滑る指は、思っていたより冷たかった。

牢のなか、己の指で藍染の辿った素肌を辿る。最初の冷たさは、昨夜の彼の指のように、肌を辿るごとにその体温と同化してやがて感触のみとなる。腋のしたから控えめなふくらみを数回行き来して、その度に淡い頂に触れる手のひらがもどかしくて。唇にふくまれた時には声が漏れて。
昨夜触れていた唇も指も、言葉も声も、もう戻らない。
着崩れた衣服を直し、膝を抱き、顔を伏せた。幾度目もの呟きがもれた。

「隊長…」

何故、自分を抱いたのだろう。
今更ながらに思う。常時帯刀、戦時前面開放の戦時特命が出たばかりだった。
各隊舎にも攻撃が及ぶやも、と聞いた。そんな中で、まるでその事だけに集中させるような――通常の睦みがそうなのかどうかは解らないけれど――丁寧で、執拗な愛撫を受けた。自分のなかの知らなかった感覚が溢れでて、混乱と戸惑いと、それ以上の快楽と幸福のなか眠りに落ちた。落ちてしまった。後の絶望を知らずに。





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