―――   藍雛 著者:3_443様   ―――



とっぷりと日が暮れ、空に星が瞬き始めた黄昏時のお話。


「あの、藍染隊長」
「うん?どうしたんだい?」

藍染は手にしていた書類から視線を外し、湯呑みを片手に後ろに控えていた雛森に顔を向ける。

「昼間、阿散井くんと檜佐木さんから聞いたんですけど」
「うん」
「隊長って」
「うん」
「"ぬかずのごはつ"が出来るって」
「ぶほっ!!」

雛森のあまりにもあからさまな発言に、茶を啜りながら話を聞いていた藍染はその茶を盛大に吹き出した。

「わっ!隊長、大丈夫ですか!?」
「う、うん‥‥いや、そうじゃなくてね雛森君、抜かずの‥‥いや、その話、二人は何処から聞いたって言ってたんだい?」

わたわたと慌てる雛森に、内心自分の方がより慌てながら藍染は口許と眼鏡を拭う。

「えーっと‥‥確か、市丸隊長からって言ってました」
「そう‥‥」

いつも笑顔の元部下に復讐を固く誓い、藍染は曖昧に笑った。

「すごいですね藍染隊長!!」
「い、いや‥‥褒められても何とも言えないんだけど‥」
「"ぬかずのごはつ"ってどこの流派の奥義なんですか?」
「‥‥‥え?」

明らかに何か勘違いをしている雛森のその一言に、藍染は首を傾げた。

「隊首格ともなると、剣技はやっぱりすごいんですね〜‥‥あたしも頑張らなきゃっ」
「え、えーっと‥‥‥雛森く「隊長っ!!」
藍染の言葉を遮り、雛森が身を乗り出す。

「あたしに、その技を見せてくださいっ!」

「え‥‥ええぇぇえ!?そ、それは無理だよ、流石に!」

眼鏡の奥の双眸をひんむき、藍染は激しく手を振る。
しかしそれでも雛森は諦めず、更に身を乗り出して顔を近付けた。

「お願いしますっ!奥義って他人には見せにくいとは思うんですけど、あたし、学べるものは少しでも学びたいんです!」
「いやいやいや、学んだって意味ないよ!?と言うか、君が辛いだけだから!ね!?」
「辛くたって構いませんっ!!あたし強くなりたいんです!!」
「だーっ、そう言う意味じゃなくて!駄目ったら駄目!」
「‥‥どうしても駄目なんですか‥‥?」

急に雛森の語気が弱まり、それに気付いた藍染が恐る恐る視線を動かすと、雛森はがっくりとうなだれ、瞳が潤んでいるようにも見えた。
その表情に、藍染の心がちくり、と痛む。

「‥ぅぐっ‥‥だ、駄目なものは駄目だよ」
「‥‥ちらっと見せてくれるだけでいいのに‥‥」
「‥‥‥‥!」

遂に雛森の瞳から涙が零れ落ち、自分に非があるかどうかなどすっかり忘れ去り藍染は酷く慌て申し訳ない気持ちで一杯になる。

「な、泣かないでおくれよ雛森くん‥」
「‥藍染隊長の意地悪‥ばかぁ‥」

雛森のこの一言に、藍染は髪を掻くと大く溜め息をついた。

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥わ、分かったよ‥‥」
「‥‥!本当ですかっ!?」
「でも、辛いとかもう止めたいとか‥‥出来るだけ聞くようにはするけど、多分止められないからね?それでいいんだね?」
「はいっ!!」

藍染は満面の笑みを浮かべて頷く雛森の肩を押してその場に押し倒すと、手早く死覇装を脱がせ始める。

「え、ちょ、隊長‥‥って、ま、や、止め‥!」
「‥‥無理だね」

「で、でもっ、これ‥‥ん、んむうぅ‥」
「‥抜かずの五発、ちゃんとしてあげるから‥途中で気を失っちゃ駄目だよ?」

藍染はにっこりと微笑んでみせると、露になった雛森の白い肌にむしゃぶりついた。





「もぅ、隊長の馬鹿‥‥」
「‥っはー、はー‥ごめん、なさい‥」
「あたし、初めてだったのに‥‥」
「そう‥ぜーっ‥‥言いつつ、どう、して、ぴんぴんしてるのかな、はーっ‥君は‥」
「何言ってるんですか、まだ全然大丈夫ですよ!」
「‥‥そ‥そうかい‥‥」

屈託の無い雛森の笑顔に、藍染は恐怖すら感じ、再び大きく息を吐いてうなだれた。


おわり






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