―――   雨竜×織姫  著者:ヘタレ作者様   ―――



 夜、暗くなってからの行動は控えた方がいい。
特にここは、見知らぬ土地なのだから。
…それが、夕暮れ時、辺りが薄暗くなってきた中で2人が出した結論であり、狭くて暗い無人の物置小屋を見つけた2人は、そこで朝が来るまで待つ事にした。

「いつ敵に見つかるか、分からないから。1人ずつ仮眠を取ろう。井上さん、先に寝ていいよ。」
 小屋に散乱するガラクタをどかして仮眠を取れるスペースを作りながら話し掛ける雨竜に、
「え、そんな、悪いよ!!」
 織姫は大きく首を横に振って、
「石田君だって疲れてるでしょ?」
「いや、僕は一応男だし。井上さんよりは体力あるつもりだよ。」
「んーん、そんな男とか女なんて関係ないよ!それに石田君、見るからに他の男子よりか弱そうだし!!」
「い、井上さんって時々、朗らかな顔してキツい事言うよね…」
「ここは公平にジャンケンで決めよっ!!」
自分の提案に満足したのか、ジャンケンをする気満々で織姫は拳を前に突き出す。
「いや、そんな、普通こう言う時は女性を先に…」
モジモジと切り出す雨竜に、
「ほれ、グタグタ言ってないで早くジャンケン!!」
…織姫は全く聞く耳を持たない。

「だから…」
「はい、負けた方が最初に寝るんだよ、ジャーンケーンポイッっ!!!!」
「っ!!」
無理やり押し切る織姫に、思わず彼女のの前に『パー』の手を出してしまった雨竜。

…彼女は、チョキ。

「やったぁ、私の勝ちね!」
「………マジ?」
「はい、石田君、先に寝ちゃってくださいな♪」
いつのまにか床に適当な毛布を敷き、ポンポンとそれを叩いて寝ろと促す織姫。
「4時間くらい経ったら、起こすから。」
「でも、時計なんて持ってきてないでしょ?時間計れないじゃないか。僕がずっと寝ちゃって朝になったらどうするのさ?」
 雨竜の最後の抵抗。
「大丈夫。」
織姫はにっこりと笑って、小屋の天井付近についている小さな窓をゆび指した。
格子がついているだけで吹きぬけになっている窓からは、キラキラと瞬く星が見えた。
「星の動きで大体分かると思うんだ。」
 …彼女には敵わない。
雨竜は心の中でそう呟いた。

 そして結局雨竜は、先に仮眠をとる羽目になったのだった。
雨竜が横になったすぐ隣に、織姫が腰を下ろす。
「…小屋は広いんだから、こんなに傍に座っててくれなくてもいいんだよ?」
「ん、なんで?」
「いや、一応僕は男だし。井上さんは女子なわけだから…こんな暗い所で一緒にいたら、さ。」
モゴモゴと口篭もる雨竜。
「あはは、私全然そんなの気にしてないから」
「…はは、そうだよね。」

(はっ…男子と女子?何て下らない発想なんだ。馬鹿じゃないか、僕。)
雑魚寝のまま織姫に背を向けて、雨竜は心の中で呟いた。

 学校でクラスが一緒になって、一護を通じて彼女と知り合って。
はじめのうちは、いつもお気楽そうな茶色い髪の女子、としか思っていなかった。
 なのにいつからだろう。彼女をこれほどまでに意識するようになったのは。


 織姫が、黒崎一護の事を好きなのは、はたから見ていても明らかすぎるほど明らかだった。
気がつくと、彼女の視線の先にはいつもあの男がいる。
…分かっている。彼女は、黒崎一護以外は男として見ていない。
男子であろうが女子であろうが、みんな等しく「お友達」なのだ。

それを分かっているのに、それでも自分は彼女を「女」として意識してしまう。
今だって。
なんだ、恥ずかしい、自分ばかりこんなに意識してしまって………クソッ。
こんな調子で、無事にこの世界で生き延びていく事が出来るのか。朽木さんを助けられるのか。

 そんな事を考えながら。それでも、疲れてクタクタになっていたのは事実だったから。
織姫に申し訳ないと思いながらも、目を瞑る。
暗闇が辺りを支配するとすぐに、雨竜は眠りに落ちていった。


24 名前:ヘタレ作者 投稿日:04/03/13 19:31 ID:9Gsym+sC



「石田君、そろそろ時間だよ。起きて…?」
そして、真夜中。
耳元で、織姫の声。
まどろみの中で響くその声は小さく、甘く、優しくて。
 意識が、一気に鮮明になる。
「!!」
雨竜はがばっと上半身を起こした。
「おはよ。」
辺りは真っ暗だった。
小さな窓からは星は見えるが、その光は小屋の中に十分には届かない。
視界ゼロ。彼女が見えない。
しかし今、きっと暗闇の向こうで、彼女は自分に向かって微笑んでいるのだろう。
いつもと同じように。

「ご、ごめん。僕、ホントに井上さんより先に寝ちゃって…」
「なーに言ってるの、じゃんけんで決めたんだから当たり前だよっ。」
立ち上がる雨竜の気配を察したのか、雨竜の寝ていた所にちょこんと座りこむ織姫。
「えっとね、あの赤い星を基準にして。」
「うん、1時間で15度動くんだよね。」
「そうそう、中学の時、、」
「理科で勉強したっけ。」
「うん!…でも、本当に時計変わりにして時間を測る日が来るなんて思わなかったな」
「あはは。度数は目測でいいのかい?」
「うん、適当でいいよ。」
軽い会話を交わして。
「それじゃ、よろしくお願いします。」

そう言って織姫が横になるやいなや、小さな寝息が聞こえてきた。
彼女も相当疲れていたの違いない。

「…ごめんね。井上さん。井上さんだって、本当はすぐにでも寝たかったんだろう?…ホント僕って、使えない男だな。」
自分は、何て情けないんだろう。
自己嫌悪におちいりながら、消え入りそうな声で、雨竜はそう呟いた。





 暗い。暗い。真っ黒な闇。


聞こえるのは、彼女の寝息だけ。


「…………。」


 話し相手のいない暗闇は、思った以上に寂しいものだ。
目の前で眠っている織姫は、自分が寝てしまって、やがて辺りが真っ暗になっても、ただひたすら、星だけを眺めて起きていてくれたのだ。
そう思うと、胸がジワっと熱くなった。
「優しいんだ、彼女は。」
小さく呟く。
「いつも他人を思いやって……自分の事より、優先させてしまうんだ。」
頭に浮かんだ事を、そのまま言の葉にして呟く。
「………ホントウに。」
小さくため息をつく。
「そして僕は、どうしようもなく情けない。」


 雨竜は顔を上げ、か弱い光を放つ星をそっと仰ぎ見た。
やりきれない、熱を持った感情を、無理やり冷まそうとするかのように。



どれくらい、そうしていただろう。

……そして、冒頭に戻る。

「!!!?」

 視界ゼロの真っ暗闇。
しっとりと湿気を帯びた、生暖かい空気。
突然、むにっとした、柔らかな感触が雨竜の唇を支配した。

「っ……!?」

暖かく柔らかな感触は、そのまま雨竜の下唇を包む。
 ちゅっ…ちゅっ…
彼の強張った薄い唇をほぐすように、その『柔らかいモノ』は優しく唇に触れて、啄ばむように何度もそれと重ねた。


あれから…
織姫が眠りについてからずっと、窓の外を眺めていた。
死神の事。黒崎一護の事。師匠の事。織姫の事。仲間の事。
過去の思い出と、これから先の事。
とりとめもなくそんな事を考えたり、考えるのをやめてぼーっとしたり。

どれくらいの時間が経っただろう。
そんな時、視界ゼロの闇の中、それは突然の不意打ちだった。

ちゅっ…ちゅっ…ちゅっ…

一瞬、雨竜は何が起きたのか、分からなかった。
敵かと思って身構えたが、死神の気配は微塵もなく、感じるのは自分と織姫の霊気だけ。

相変わらず、『柔らかいもの』は唇から離れようとはしない。
頭の中が、甘ったるく痺れる感じがする。
「…っはぁ…っ」
息苦しい。

気がつくと、細い腕が自分の首筋に絡み付いていた。
体が密着している。
胸の辺りに、柔らかい感触があって。
暖かく、ほんの少し甘い香りがした。

(……井上さん!?)
相変わらず唇は密着したままで声は出せない、彼女の声も聞こえないが、それしか考えられなかった。

何が起こった。
何故、井上さんが、僕に?

 信じられない事だが、自分の口を塞いでいるのは多分彼女の唇であり、感じる温もりは彼女の体から。
 甘ったるい痺れは唇から首筋、胸の辺りまで広がって、うまく力が入らない。
小刻みに動き、吸いついてくる唇のせいで息が上手く出来ない。酸素が足りないから、頭がぽうっとするのかもしれない。

 その状況に絶えきれず、思わず顔を横にそらせてくちづけから逃れようとするも、か細い腕が雨竜の頭をしっかりと押さえて、それを阻止する。
織姫の、長くてサラサラした前髪が、かすかに雨竜の顔に触れて、こそばゆい。

 されるがままだった。
段々とほぐれてきた雨竜の唇に、温かいものが侵入する。
それは雨竜の舌をすくい上げ、ぎこちなくゆっくりと絡みついた。
「んっ……」
吸いつき、甘噛み、啄ばんで。
気持ち良かった。今の状況、理由について思考を巡らせるのが億劫になる程に。
小刻みに聞こえる唾液と唇の擦れる音が、雨竜の気持ちを高ぶらせる。


「っ………!!」
いよいよ体を密着させて体重をかけてくる織姫に、雨竜はよろけた。
ドサッ。
そのまま体を重ねるようにして、二人は床に倒れ込んだ。
胸板に感じる、柔らかい肉感と温もり。
 雨竜は、自然と自分の体が熱を帯びていくのを感じた。

 そしてようやく、唇が離れる。
雨竜の体を下敷きにしたまま、ゆっくりと上半身を起こす織姫。
彼の体に馬乗りになるような体制になった。

「…ごめんね、石田君。」

 最初に出たのは、謝罪の言葉。

妖しく、囁くような声。普段の織姫からは想像できないような艶やかなものだった。
ようやく大きく息を吸えた雨竜は、肩で息をするのに精一杯で返事を返す事が出来ない。

「私っ…………。」
声が詰まる。
しばしの沈黙。聞こえるのは、二人の呼吸の音のみ。

「……君が好きなのは………黒崎なんだろ?」
息を荒げたまま、雨竜が問う。
「……………。」
「………いつも、見てたじゃないか、あいつの事………だから、知ってた。」
「……………。」
「………なのに、なんでこんな…」
「あのね!」
雨竜の声を遮るように、織姫はきりだした。

窓から、薄っすらと光が入ってくる。
織姫の影だけが、くっきりとと浮かび上がった。
そろそろ夜明けが近いのだろう。








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