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   海野×西園寺
コンコンと小さなノックが会計室の扉を叩く。
「どうぞ」
顔を覗かせたのは小作りなメガネの教師、海野聡だった。
「西園寺くん、七条くん。今大丈夫?」
「大丈夫ですよ、中へどうぞ。海野先生」
「お邪魔するね」
七条に案内されて海野は会計室のソファに座る。
腕には飼い猫のトノサマも一緒だった。
「何か困ったことでも?」
七条が紅茶をいれるために席を外すと、
西園寺が優しい笑みで問いかける。
年上に見えないこの教師を極力助けてやりたいと思うのは、海野の性格故だろう。
世間知らずで天然な研究者。
人を疑うことを知らない天真爛漫な性格は西園寺の庇護欲を刺激するのだ。
「ううん、そうじゃないんだ。
 ただねこっちまでたまたま来たから、
 二人の顔を見に寄ったんだよ」
「そうですか、ではゆっくりしていってください」
「ありがとう、西園寺君」
にこっと笑顔で返されて、西園寺にも笑みが浮かぶ。
ふんわりとした雰囲気に包まれた会計室に、
紅茶の香りと甘い匂いが漂ってきた。
「どうぞ、海野先生
 今日はトノサマも来てくれているので
 『ねこのたまご』を用意してみました」
七条が紅茶と一緒に持ってきたのは、色とりどりの餅包まれたまるいお菓子。
海野は興味深そうに覗き込む。
「ねこのたまご?おもしろい名前だね?」
「ぶにゃん」
海野と一緒にいたトノサマが返事をする。
「やだなートノサマ。
 猫が卵を産まないのは皆わかってるよ〜」
「中に色々なクリームが入っているんですよ。
 冷たいうちにどうぞ」
「うわぁ、おいしそう、いただきまーす」
七条に勧められ、一つ摘まんで口に入れた海野は『おいしい』と嬉しそうに笑う。
ご相伴に預かっていたトノサマがひらりと海野の膝から降り、
七条の足元に擦り寄った。
「ぶにゃ」
「えっ、相談したいことがあるんですか?」
しゃがみこんだ七条がトノサマと話始める。
「ぶにゃぶにゃ」
「……ええ、いいですよ。
 すいません、郁。ちょっと中庭にいってきます」
「…ああ、わかった」
「それでは、海野先生。ごゆっくり」
「うん、いってらっしゃい」
七条とトノサマがいなくなった会計室。
二人きりになって、西園寺が口を開く。
「本当に臣はトノサマと話をしているのですか?」
「うん、二人で相談したいから外に行きたいって言ってたよ。
 僕に相談できないことって何だろうね」
リアリストの西園寺には猫と会話できるとは信じられないが、
本人がそう思うのならばそれはそれでいいと思う。
「きっと何か大切なことなのでしょう」
「そうだね」
トノサマの話はそこで止め、そのまま海野の研究の話をする。
自分の分野の話をする時の海野は暴走と言ってもいいくらい饒舌になる。
目をキラキラ輝かせたその表情は宝物を見つけた子供のようだ。
「えへへ、ちょっと話過ぎちゃったかな」
「西園寺くんはさ色々知ってるから、
 つい長く話しちゃうんだよね」
「先生の研究に裏付けられた話は興味深いです」
「ホント?嬉しいな」
にこっと笑う海野に西園寺も笑みを返す、
すると海野は一瞬だけ困ったような顔をした。
「あのね…西園寺くん。
 ひとつだけ相談してもいいかな?」
「どうしましたか?」
「あのね…僕好きな人がいるんだけど…」
「れ、恋愛の話ですか?」
西園寺が一瞬固まる。
海野から恋愛の話を相談されるとは思ってもみなかったのだ。
「うん」
「とっても素敵な人でね。
 気持ちを伝えたいんだけど、その人…恋人がいるかもしれないんだ…」
「それでも、海野先生はその人のことが好きならば、
 はっきりと伝えた方がいいと思います」
「西園寺くん…。やっぱりそうだよね」
「頑張ってください」
うんうんと頷く海野。
その様子は年上の教師にはやっぱり思えない。
微笑ましく海野を見ていた西園寺は『この人がそんなに想うのは誰なのだろう』とふと思う。
この学園の人間なのだろうか。それとも学外の人間?
そんな疑問を浮かべる西園寺の手を、海野が両手で握りしめた。
「西園寺くん、僕と付き合ってもらえないかな?」
「…どこに行くんですか?」
「そうじゃなくて〜僕とお付き合いして欲しいってことだよ〜」
「わ、私なんですか!」
うろたえる西園寺に海野はしゃあしゃあと答える。
「そうだよ。
 西園寺くんと話してるとね凄く楽しいし…
 凄く優しいから…」
「優しい…私が?」
「うん、色々気に掛けてくれてるでしょう?」
「それは…そうですが…」
「やっぱり七条くんと付き合ってるから無理?」
「臣と?臣には別に恋人がいます」
「そうなの?
 そしたら僕のこと考えてもらえないかな。
 返事はね、後でいいから」
「わかりました」
『それじゃ…』と言いかけて出て行こうとした、海野がふと立ち止まった。
「海野先生?」
呼びかけた西園寺の口を甘い香りが包み込む。
「な、何を…」
「ごめんね、僕を呼んだ西園寺くんが凄く可愛くって」
「私が可愛い…」
「あーごめん、もう打ち合わせの時間だ。
 それじゃ、西園寺くんまたね!」
遽しく会計室を後にする海野。
一人残された西園寺は口付けされた唇を押さえたまま、
不思議な気分を味わっていた。
可愛いと言われて不快ではなかったこと。
更には突然口付けされて嫌だと思わなかったこと。
もしも、丹羽に同じことをされていたら何をするかわからない。
「私も……先生のことが……好きなのか…」
呟いた言葉を聞くものは誰もいなかった。



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