. . . N o v e l s. . .

    七条×滝
「もしもし、滝くんですか?」
携帯電話から聞こえてきた、落ち着いた声。
「七条か?珍しなぁ」
「デリバリーをお願いしたいのですが、
 7時に僕の部屋に来ていただけませんか?」
俊介は今日の予定を反芻して、返事をする。
「えーっと…ええで、大丈夫や」
「では、よろしくお願いします
 僕は部屋で待ってますから」
「はいはい、まいどー」
軽く告げて電話を切って、俊介はふと思う。
OKの返事をもらった七条の声が少し弾んだ気がしたのは、
気のせいだったのだろうか。
「うーん、まあええか」
考えてもわかることではない。
きっと大事なデリバを頼みたかったのだろう。
例えば七条の大事な女王様絡みのこととか…。
「きっとそうやな」
強引に結論付けた俊介は再び自転車を漕ぎ出した。

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時刻はジャスト7時。
商売は時間厳守が大切だ。
トントンと軽くノックをする。
「七条〜俊介ちゃんやで〜」
「滝くんですか?どうぞ中にはいってください」
中に通されて、俊介の中に飛び込んできたのは、
並べられた色鮮やかなデザートの数々。
もしかして、これを誰かに届けてほしいということなのだろうか。
「今、お茶を入れますから座って待っていてください」
「??」
座って待っていろとはどういうことだろう。
品物の準備が終わってないのか?
約束の時間は19時だった。
七条ならば、その辺もちゃんと計算して用意をしておくはずだ。
首を捻る俊介の目の前にシンプルなカップの紅茶が置かれた。
「滝くんの好みがわからなったので、
 適当に用意してみたんですけど、どうですか?」
首を捻る様子をデザートがデザートを選んでいるように見えたのだろうか。
確かに食い意地は張ってるという自負はあるが、客の品物に手はつけない。
俊介は慌てて否定する。
「ち、違うで!七条!…ってオレの好みぃ?」
否定してから気が付いた。
七条は確かに『滝の好み』と言ったのだ。
「そうです。これは滝くんのために用意したんですよ」
にっこりと微笑む七条。
俊介は全てを悟った。
「もしかして、デリバの予約ってオレを呼ぶためだったんか!?」
「ええ、すいません。
 騙すようなことをしてしまって…」
「はっきり、遊びにこいって言ったらええのに」
「僕は恥ずかしがり屋なんですよ」
「ホンマの恥ずかしがり屋はそんなこと考えつかんやろ」
「厳しいですね」
申し訳なさそうな顔から一転、七条の顔には笑みが浮かんでいた。
「まあ、もうええわ。
 それじゃ改めて、いただきますぅ」
俊介は用意されていたフォークで一番近くにあったケーキを口に運ぶ。
「これうまいなあ〜」
「そうだ、滝くん」
「ん、何や?」
七条が差し出したのは食券2枚。
普通ならばデリバの代金だが、俊介は何も運んでいない。
「オレ何もしとらんけど?」
「いいえ、滝くんはちゃんと時間通りに運んでくれましたよ。
 僕の部屋に可愛い恋人をね」
「ア、アホ!」
何だか妙に恥ずかしいことを言われたような気がする。
デリバで自分を運ぶなんてありえない。
「また、運んでいただけますか?」
「今度は普通に誘ったらええやろ」
「では、誘ったら僕の部屋に来てくれるということですね?」
「……当たり前やろ!」
恋人に誘われて、断らない人間はいない。
頬が染まるのを感じながらも、俊介は大きな声で叫ぶ。
「それでは、これから毎日お願いします」
「!!」
「よろしくお願いしますね、滝くん」
「しゃーないな…毎日来たるから覚悟せえよ!」
「はい」
叫ぶ俊介を見て、微笑む七条。

その日から俊介の夜の時間は七条のものとなった。



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