. . . N o v e l s. . .

   After school boys
「失礼しまーす。
 啓太、やっぱりここにいたのか!」
学生会室のドアを開けて、啓太を確認する。
朝から一度も会っていなかった啓太の姿。
こちらを向いた啓太の目が驚いたように丸くなった。
「あれ、和希?
 今日仕事があるって…」
高校生なのに、仕事がある自分。
本当に高校生だったらよかったのに…そんな風に思うこともあるけれど、
仕事のおかげで啓太と再会できたんだから、これでいいんだ。
一緒にいれる幸せを噛み締めつつ、啓太を見つめる。
小首を傾げ、不思議そうにこちらを見つめる姿が可愛らしい。
「うん、啓太のために終わらせてきたんだ」
見つめていたら、抱きしめてしまいそうで俺はあえて軽い口調で言う。
「何言ってるんだよ、和希!」
照れる啓太も可愛いよな。
こうなったら、早く二人きりになれるところへ行きたい。
奥で書類を処理する会長と副会長に声をかけて、さっさと退室しよう。
「そういうわけで、
 啓太は連れて帰りますよー」
「ダメだ」
中嶋さんの冷たい声が学生会室に響く。
「えっ」
「それを今日中に片付けないとならない」
確かに机の上には大量の書類が乗っている。
「でも、啓太は学生会の役員ではないでしょう?」
啓太はあくまで善意のお手伝いのはず。
別に強制される謂れはない。
「一度手伝い始めたら、最後まで付き合うのは当然だ」
「そりゃ、そうですけど」
「和希。やっぱり俺、手伝ってくよ」
「啓太?」
「ほら…王様だって頑張ってるし…」
そういえば、今日は王様もちゃんと仕事をしている。
いないことが多い王様も仕事してるんだし、啓太がいなくても別に…。
「……って、首輪ぁ!?」
王様の首に付いているのは、真っ赤な皮製の首輪。
長く細い銀のチェーンが付いていて、その先は…当然ながら中嶋さんが握っていた。
「中嶋さん、これは…」
「あぁ、ここ1週間逃げ続けたからな、軽いお仕置きだ」
軽いお仕置きって…立派な拘束じゃないのかこれは…。
隣の啓太を見ると、啓太も困ったようにこちらを見ていた。
確かにこれでは仕事が片付くまで帰るとは言えない。
「遠藤〜お前理事長だろ〜
 ヒデをどうにかしてくれよ〜」
情けない声で俺に助けを求める王様。
でも、あの中嶋さんの様子では理事長権限でも助けることなんてできない。
「それは王様が逃げるからでしょう?自業自得ですって。
 中嶋さんだって、王様がちゃんと仕事すれば、
 こんなことしないと思いますよ」
「少なくとも、今はしないな」
俺の言葉を聞いた中嶋さんは不敵な笑みを浮かべ、呟いた。
王様も啓太にも聞こえてないらしい。
中嶋さんとは反対の隣にいる啓太に聞こえないように、小さな声で尋ねた。
「中嶋さん…今はって……今じゃなかったら何するつもりですか?」
「さあな」
「……あんまり虐めすぎない方がいいんじゃないですか」
「あいつは構われるのが好きなんだ」
「そうですか…」
至極楽しそうな中嶋さん。
王様もとんでもない人に好かれてしまったものだ。
俺達の怪しい会話が聞こえなかっただろう啓太が王様に向かって檄を飛ばす。
「王様。俺も和希も手伝いますから、さっさと終わらせちゃいましょう!」
「お、おう…さっさと終わらせっぞー!」
仕事が終わった後、どんな目に合うことやら…。
思わず俺は哀れみを持った目で王様を見つめていた。



それから数時間。
机の上の書類は綺麗に処理されていた。
学生会室に安堵の空気が流れる。
少なくてもこれで、俺と啓太はお役御免だ。
「終わったぁ」
「思ったよりも早かったな」
「和希が来てくれたおかげで早く終わったんだよ」
「啓太も頑張っただろ?」
頑張る啓太はまるで小動物のようで可愛かった。
にやけそうになる顔を必死で隠して、
えらいえらいと頭を撫でる。
啓太も恥ずかしそうにしていたが、嫌がることなく笑っていた。
「何だよ、あいつら。
 イチャイチャしやがって…一番頑張ったのは俺だろ〜」
「お前が溜めた仕事だ、当然だろう」
「そりゃそうだけどよぉ…」
いじけている王様に中嶋さんの冷たい一言。
机に伏せたまま、恨みがましく中嶋さんを見つめる王様。
それはちょっと危険ですよ?
俺がそう思うのとほぼ同時に中嶋さんがこちらを向いた。
「遠藤、伊藤。もういいぞ」
この『もういいぞ』はむしろ『早く帰れ』という意味だろう。
今度こそ、啓太の手をしっかりと握って、学生会室を飛び出す。
「それじゃ、俺達は行きますね」
「お疲れ様でした」
「おう、またなー!」
王様の明るい声が閉まりかけたドアから聞こえた。
『成仏してくださいね、王様』
口には出さずに心の中で伝える。
俺達がいなくなった後のことは…あの二人の問題だもんな。
「さぁて、帰ろうか?」
啓太の手を取ったまま、寮に向かおうとしたその時、
中から中嶋さんが現れた。
「遠藤」
「何ですか?」
「今日の駄賃だ。好きにしろ」
放り投げられたのは長いチェーンのついたピンクの首輪。
「!!」
驚く俺を無視して、元の持ち主はあっさりと学生会室に戻ってしまった。
「和希、何だよそれ?」
啓太に不思議そうに尋ねられて咄嗟に隠す。
こんなところで、こんなものを広げるわけにはいかない。
「後で見せるよ。行こう、啓太!」
「え、あっ、うん」


走ることしばし。
啓太の部屋に駆け込んで、二人で切れた息を整える。
「和希、さっきの何だったんだ?」
「あぁ…コレだよ」
ポケットに入れっぱなしの例のものを啓太の手のひらに乗せる。
「これって…」
「王様が付けられてたろ、中嶋さんに」
「あ…そっか」
「まったく中嶋さんも何考えてるんだか。
 こんなものを持ってるところを見られたら、
 どんな噂が立つがわからないじゃないか」
「なあ和希。…どう?」
「け、啓太!?」
中嶋さんに文句を言うのに夢中になっていた俺。
興味深そうに見ていた啓太が首輪を自分の首に付けていることに全く気が付かなかった。
「コラ、こんなもん付けてたら、襲われちゃうぞ」
笑いながら言うけれど、内心は冷や汗もの。
可愛い啓太がこんな格好だったら、
恋人がいようが何だろうがあの人は手を出しそうな気がする。
「今は和希しかいないし、和希にだったら襲われてもいいけど…」
「啓太?」
呼びかけに返事をしない代わりに啓太は目を瞑ってキスをねだる。
もしかしなくても誘われてる…よな、これは。
桜色に染まった頬を優しく支えて唇を重ねる。
ふわふわして気持ちいい啓太の唇。
あれ、もしかして……キスするの凄い久しぶり?
唇が離れたかと思うとギュッと啓太に抱きしめられた。
俺よりも少しだけ小さい啓太の体。
しっかりした男の体だけど、何よりも守りたいと思うその体を優しく両手で抱きしめる。
「ごめんな、最近忙しかったからさ」
「和希が忙しいのはわかってる。
 だから、謝るなよな」
「でも、ちょっと寂しいとかって思ったんだろ?
 これからはさ、啓太にそんな風に思う暇もないくらい。
 いっぱい愛してやるからさ」
「か、和希!!」
「で、今日はこれ付けたままなのか?」
指先で首輪を触ると同時に首筋を撫で上げる。
「くすぐったいよ」
「くすぐったいだけ?」
「だけ…じゃないかも」
「それじゃ、このまま?」
「…うん」
ベッドに二人、抱き合ったまま倒れこみ、互いに服を脱がせ合う。
体を隠すものが無くなっても啓太の首に残るピンクの首輪。
恐ろしいまでの淫靡さを覚える。
「か、ずき……」
擦れた声は俺の欲望の火に油を注ぐ。
首輪を付けているのは啓太だが、囚われているのはきっと俺。
「啓太、大好きだよ」
耳元でそっと囁いて、俺は啓太にただ溺れる。




「…たまには首輪とかもいいかもな」
「和希!思いっきり引っ張ったりするから結構痛かったんだぞ」
「もうしないって、ごめんな」
ベッドの中で拗ねたように背を向けた啓太を後ろから抱きしめる。
『俺は首輪じゃなくて、コスプレとかのが好きだし…』という言葉は啓太には黙っておこう。

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