. . . N o v e l s. . .

   恋愛の王様。
「恋人たちの逢瀬を邪魔するなんて、野暮な人ですね」
中嶋に対峙するように、七条は立ち上がる。
笑顔を浮かべつつ七条は邪魔なのは中嶋だとはっきり宣告した。
「恋人たち?そんなもの俺には見えないが?」
七条の言葉を馬鹿にするような中嶋の態度。
七条と中嶋の視線が冷たく交差する。
そんな状況を何とかしたい丹羽は
『おい…お前ら…』と声をかけても二人には届かない。
(こいつら俺のこと好きなんじゃなかったのかよ…)
落ち込む丹羽を尻目に二人の攻防はまだ続く。
「貴方の目の前にいるでしょう?
 その眼鏡はただのガラスだったんですね」
「残念ながら、俺の目の前にいるのは会計部の犬と、
 物覚えの悪い馬鹿だけのようだか?」
七条にだけ対していた中嶋の鋭い視線が辛辣な言葉と共に丹羽に向けられる。
丹羽は跋が悪そうに下を向いた。
中嶋とSEXをする仲にも関わらず、七条を受け入れてしまったのは丹羽自身。
普通ではない手段を使われはしたが、本気で抗えば七条にだって負けはしないはず。
それをしなかったのは、丹羽のことを好きだという七条の気持ちを無碍にすることはできなかったから。
何より丹羽は本気で愛してるといった七条の気持ちを『嬉しい』と感じていた。
こんなことを中嶋にいうわけにも行かない。
代わりに再び七条が口を開いた。
「会長は『馬鹿』なんてことありませんよ。
 酷いことを言いますね」
「なら『浮気者』とでも呼ぼうか?」
「失礼ですね。
 僕は『本気』ですよ」
「お前のことなど、聞いていない。
 その男はただの浮気者だろう?
 誰にだって簡単に体を開くんだからな」
「だったら、貴方が目を離さなければいいでしょう」
「常に目を光らせていても、こいつは逃げ出すんだ」
「逃げ出すのは、中嶋さんのことが『好きではないから』ではないですか?」
永遠に続きそうな、二人の言い合い。
丹羽は軋む体がようやく動くようになったことを確認し、立ち上がる。
この場を止められるのは、原因を作った丹羽自身だけなのだ。
「ヒデも七条もいい加減にしろよ!」
丹羽の強い口調にやっと二人が反応した。
「お前は黙っていろ」
「まだ休んでいた方がよろしいですよ」
反応したものの、まだいがみ合う
「黙ってるわけにもいかねえし、
 体は十分休まったぜ」
「そうですか」
「ふぅん。
 で、何か言いたいことでもあるのか?」
「俺はよ、七条のことも好きだぜ」
丹羽は七条を見据えて、はっきりと言う。
「丹羽会長?」
少しだけ驚きの表情を見せた七条。
丹羽はそんな七条に笑みを見せ、今度は中嶋に向き直る。
「でも、ヒデのことも好きだ」
「抱かれれば、誰でも好きになるのか?
 とんでもない浮気者だな」
「そうじゃねえよ、俺は二人とも好きなだけだぜ」
「……僕も中嶋さんと同様に好きだと言っていただけるのですね?」
後ろから、かけられた七条の声。
丹羽は中嶋を見たまま、はっきりと答えた。
「おう、まとめて面倒みてやる」
「俺は七条とお前を共有する気はないと言ったらどうするつもりだ」
「そん時はそん時だろ」
言い切った丹羽には後悔なんて言葉はもう無い。
「俺たちからは逃れられんと思え」
中嶋の言葉を聞いた丹羽は満面の笑みを浮かべた。


鬼畜と悪魔を恋人にした男の今後は神様だってわからない。


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