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    甘い罠にはご注意を
見慣れないビンを持ち込んだ中嶋に七条が目を丸くする。
「アルコールですか?」
「そうだ」
普段、中嶋は自身の部屋で缶ビールを飲んでいることはあったが、
七条の部屋にアルコール類を持ち込んだのは初めてだった。
外でカクテルを楽しむ中嶋だから、これも何かのリキュールでカクテルでも作るつもりだろうか。
しかし、七条の部屋にシェイカーやカクテルに使えそうな飲料は無いし、
中嶋も持っているのはボトルだけだ。
では中嶋は何をするつもりでここに持ってきたのだろう。
「紅茶を入れてこい」
不思議そうに眺めていた七条ににやりと笑い中嶋の命令が下る。
「中嶋さんが、紅茶ですか?」
「いいから入れてこい、ストレートでな」
訝しがる七条だったが、中嶋に言われた通りゆっくりと紅茶を入れる。
中嶋に頼まれて紅茶を入れるなんて、本当に珍しい。
七条は自分の気持ちが浮ついているのを感じながら、紅茶を注いだ。
「これでよろしいですか?」
綺麗な琥珀色の紅茶を中嶋の前に置く。
中嶋はそれを碌に見ずに、無言でボトルの中身を注いだ。
ドロッとした薄茶色の液体が紅茶に注がれる。
見た目はミルクティのようだが、確かにアルコールの香りがした。
「飲め」
言われるがままに口をつける。
紅茶の風味と共に、濃い甘味が口に広がる。
複雑な味だが、これはバニラとチョコレートの風味がする。
口当たりの良さと甘さであっという間にカップの紅茶は無くなった。
「どうだ?お前好みの味だろう?」
「おいしい…です」
「そうか」
中嶋がボトルを持ってきたのは、七条にこれを飲ませるため。
では、どうして中嶋はこれを七条に飲ませようと思ったのだろうか。
「中嶋さんは飲まないのですか?」
「俺は甘いものは苦手だ」
一緒に飲もうというわけではないらしい。
七条は紅茶のポットからおかわりを注ぐと、中嶋はすかさずボトルの中身を注いだ。
「気に入ったなら、もっと飲め」
「ええ…」
釈然としないが、この飲み物は確かに美味しい。
中嶋の考えがわからないまま、七条はコクコクと紅茶を飲み続けた。


************


「アレ…空っぽ……。
 なかじまさぁん、もう無いです〜」
「そうか、美味かったか?」
「はい、おいひかったれす」
嬉しそうに微笑む七条を見て、中嶋は満足気に微笑んだ。
七条は普段の仮面を取り払い、舌が回らない所為か幼子のような話し方をする。
酔った姿が見たくて、七条の味覚に合わせて買ったベイリーズは効果覿面だったようだ。
肩を震わせ笑う中嶋を七条が覗き込んでくる。
「どうかしたんですかぁ?」
「いや、お前があまりにも可愛かっただけだ」
「そうなんれすか?」
「あぁ、どこもかしこもお前は可愛いぞ」
いつもだったら、怒りそうなことを言っても、七条はふにゃふにゃと笑っているだけ。
更には力が完全に抜けた体を中嶋に預けてきた。
覗き込むような体勢から、中嶋の肩辺りに額をつけた格好になった七条の髪を撫でてやる。
「気持ちいいです〜」
猫だったら思いっきり喉を鳴らしそうな七条の様子に、
『猫にマタタビならぬ、七条にアルコール』なんて言葉が中嶋の頭に浮かんだ。
「何だか、眠くなっちゃいましら…」
寝に落ちようとする七条の耳元で中嶋が囁く。
「酔うのは俺の前だけにしておけ、
 さもないと…」
口の端を上げて笑みを浮かべる中嶋を七条は見ることなく眠りに落ちた。

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