. . . N o v e l s. . . |
coffee or tea? |
七条が自室で紅茶を煎れる様子を見るのは、もう何度目になるだろうか。 既に両手では数え切れないだろうことは確かだった。 「どうぞ、中嶋さん」 「ああ」 七条から受け取ったカップに口をつけようとして驚く。 てっきり紅茶だと思って口をつけたのだが、 カップに注がれていたのは、濃い目のコーヒーだった。 「貴方はこちらの方がいいかと思いまして、ね」 デスクの椅子に腰掛けた七条が悪戯っぽく微笑んだ。 ほんの一瞬ではあるが、驚いた顔をしてしまった事に若干の後悔が過ぎる。 何も言わずにコーヒーを出したことは、中嶋を驚かせようとする七条の悪戯だったらしい。 七条の思う壺にはまってしまったことが悔やまれる。 だが、そんな考えを表情に出すことはもっと思う壺だ。 中嶋はあくまでもいつもの顔で返事をする。 「そうだな、紅茶よりはコーヒーの方がいい」 「僕は紅茶の方が好きなんですけどね」 「お前の味覚はあてにならない」 「失礼ですね。 ヘビースモーカーの味覚の方があてにならないと思いますよ」 七条との会話はいつも腹の探り合いをするような気分になる。 しかし、そういう会話もいつの間にか、嫌悪の対象ではなくなっていた。 他人にはわからないだろうが常に『楽しんで』いるのだ。 中嶋はコーヒーを口に含みつつ、軽く笑みを浮かべる。 「何を笑っているんですか? 気持ち悪い人ですね」 七条は眉を潜めて可愛くないことを言う。 ある程度なら許せるが、余りにも可愛くない奴にはお仕置きが必要だ。 コーヒーを口に含んだまま、七条に口付ける。 甘味を好む七条はコーヒーは得意ではない。 苦味の強い液体をそのまま流し込むと七条の体はびくりと反応した。 コーヒーの風味が残る七条の口腔を味わいたい衝動に駆られるが、 それをしてしまっては『お仕置き』にならない。 口の中に残る液体を全て移して、そのまま口を離す。 無理矢理飲まされたコーヒーで歪む七条の顔。 企みは成功したが、そのくらいではまだ満足できない。 「悪戯ですね。それとも僕が欲しいんですか?」 笑顔の仮面をつけた七条が言う。 仮面とは裏腹にその紫の瞳は、はっきりと秋波を送っていた。 言葉で返すことは簡単だったが、 会話を楽しむよりも七条の誘いに乗った方がより楽しめるはず。 『そうだ』とたった3文字の言葉だけ残して、再び七条の唇に口付ける。 さっきすることが出来なかった分まで、コーヒーの味のする七条の口腔を貪る。 コーヒーの苦味はやがて消え、そこにはただ七条の甘い味だけが残った。 一瞬でも唇が離れるのが許せずに、呼吸さえも封じ込めるようなキス。 「……んっ…」 七条の苦しげな声を聞いてやっと解放してやる。 飲みきれなかった唾液が七条の唇の端を伝う。 白い肌は上気しほんのり赤く染まり、浅い呼吸を繰り返す。 「そ、んなに、慌てないでください…」 「お前に飢えてるんだ。さっさと寄越せ」 服を剥ぎ取るようにして、七条から全てを取り去る。 既に勃ち上がっているモノに指を絡めれば、堪えきれず上がる嬌声。 最奥の蕾に指を突っ込めば、飲み込もうとするかのように蠢く。 「……な、かじまさん…焦らさない、で…」 入れて欲しいと腰を擦りつける姿はまるで淫らな娼婦のよう。 ここまで仕込んだのは自分なのか、それとも元々七条の持つ素質なのか。 そんなことはどうでもいい。 ただ、このカラダが自分だけのものでさえあれば。 さらさらとした銀色に光る髪を撫で、中嶋は自身を一気に突き入れた。 いつの間にか夜が明けていた。 昏々と眠る七条を見ていたら、あの仮面をつけての言葉が思い出される。 『僕が欲しいんですか?』 あんなに余裕があるように話す癖に、一度乱れてしまえば正直に中嶋を求める七条。 いや、そんな七条に囚われた自分も同じようなものだろう。 まさかこんなに本気になるなんて、な。 再び見やった七条は安らかな顔で眠り続けている。 悪魔でも娼婦でもない。銀色の天使。 らしくも無い単語を想像し、自嘲気味に微笑むと、 起き上がれないだろう七条のために中嶋はキッチンに立つ。 目覚めの一杯はコーヒーか紅茶か。 七条の部屋に漂う香りは中嶋だけが知る。 |
<< Back |