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17.さよなら(中七)

屋上から見る空は地上から見る空よりも澄んで見えるのは、
ただの気の所為なんだろうか。

誰もいない静かな空間は僕を感傷的な気分にさせる。
以前だったら独りでいる静かな空間は心地よいだけだったのに、
寂しいという気持ちが強くなったのは、きっとあの人の所為だろう。
我侭で強引で自分勝手で自己中心的な、
でも惹かれてやまない僕の恋人。
そして、今日彼はこの学園からいなくなる。
恋人同士という関係を解消するわけでもないけれど、
こうして屋上で空を眺めていると、
明日からはここであの人と会うことはないということを実感せずにはいられない。

「こんなところにいたのか」
「貴方こそ、そろそろ式が始まるんじゃないんですか?」
「別にあんなものに出なくても卒業はできる」
「それはそうでしょうけど」
「で、お前はこんなところで何をしてたんだ?
 俺がいなくなるので感傷的な気分に浸っていたか?」
「そんなわけないでしょう。
 卒業式が終わった後に何を奢ってもらおうか考えていたんですよ」
「ふぅん。決まったのか?」
「ええ、今日はマダムボンボニエールのベリータルトを」
「『今日は』だと?」
「明日は違うお店のケーキを奢ってもらいます」
「……」
「明後日は…」
「誰もそんなに奢ってやるなんて言ってない」
「いいえ、中嶋さんは4月から大学生なんですから、
 高校生の僕に奢るのは当然です。
 ああ、そろそろ時間ですね。
 それでは、式の後に…」

素知らぬ顔をして、屋上を後にする。
毎日の約束なんて無理なのはわかっているけれど、
それでも約束せずにはいられない。

『こんな僕にしたのは全部貴方の所為ですからね。
 最後まで責任を取っていただきます』

全てをあの人の所為にして、僕は体育館へ向かった。

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