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    クリスマス・メール
少し乱暴なノックが七条の部屋の扉を叩く。
ノックだけで誰が来訪者はすぐにわかったが、扉を開けて七条はわざと驚いた顔を見せた。

「おや、中嶋さんどうかされましたか?」
「『どうかされましたか?』じゃない。
 これはお前の仕業だな」
中嶋の持っていたノートパソコンの中ではサンタの帽子を被った大量のトノサマが舞っていた。
七条はそれを見て悠然と微笑む。
「ああ、それですか。
 クリスマスっぽくて可愛いでしょう」
「可愛いだと?
 これはただのウィルスメールだ」
身も蓋もない中嶋の言い方に本気で笑いそうになる。
確かに見た目は可愛いが、かなり悪質なプログラムを送りつけたのだ。
それでも、しゃあしゃあと嘘をつく。
「ウィルスだなんてとんでもない。
 グリーディングメールですよ」
「メールを開いた途端それ以外のプログラムを受け付けなくなるのは、
 ウィルス以外の何物でもないと思うが?
 まあ、お前からのメールなんてものは全てウィルスメールだろうな」
「そう思っているのに僕からのメールを開いてくださったんですね」
「ふん、…これはお前からの招待状だろう?」
「お見通しでしたか」
「手の込んだ招待状を作り過ぎだ。
 どうせお前以外の人間には解除できないように作ったんだろ」
「お忙しい貴方を招待するメールですから、
 少々時間をかけてしまいました。
 せっかくですからゆっくりしていってはどうですか?
 ワインも用意してあるんですよ」
悪戯っぽく微笑む七条の目線の先にはワインのボトルと二つのグラスが用意されていた。


中嶋を自室に迎え入れ、グラスにワインを注ぐ。
乾杯なんてことはせずに中嶋はそのままグラスに口をつけた。
中嶋はただワインを飲み、七条はワインに少しだけ口をつけて、
自分のために用意しておいた小さなホールケーキを突いていた。

「今日は学生会主催のクリスマスパーティでお忙しそうでしたね」
「何だ、拗ねてるのか?」
違うともそうだとも言わず、七条は全く別の話題を口にする。
「……中嶋さん、あのプログラムの解除にはパスワードが必要なんです」
「ほう」
「パスワードは…『I miss you』」
「…随分、ロマンチックなことだな」
「たまにはいいじゃないですか。今日は聖なる夜ですし、ね」
パスワードに気づいてもらいたかったのか、
自分からネタをばらしたかったのかわからない。
けれども『I miss you』の言葉を伝えてしまえば、
今だけは素直になれるような気がした。
「キリストなんて信じていないお前でも聖夜は気にするのか?」
「信じていないのは貴方の方でしょう?
 僕はキリストの存在自体は信じる価値はあると思いますよ。
 でも僕は神に願うよりは自分の力で何とかしたいですね」
「だから、ウィルスメールを送りつけるのか?」
「僕が行動を実行することで貴方がここに来るという方が現実味があります。
 キリストに祈っても貴方は来ない確率の方が高いですから」
「だったら、お前の企みは成功ということだな」
「そうですね。
 今、僕の隣には貴方がいますから」
「素直なお前は気持ちが悪い」
「全く、貴方って人は…
 安心してください、明日からはまたいつもの僕ですよ」
「だったら、素直なお前を今日は楽しむとしよう。
 で、これからどうするんだ?」
にやりと笑う中嶋の表情に臆することなく七条は笑顔を返す。

「ベッドに連れて行ってください」

誘うように伸ばした手に中嶋の長い指が絡みつく。
聖なる夜はゆっくりと更けていった。

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