. . . N o v e l s. . .

   HAPPY☆birthday
「おや、どうしたんですか?」
中嶋が今日来るであろうことは予想していたけれど、
待っていたとは思われたくなくて、あえてそんなセリフを言う。
「祝われに来てやった」
想像していたよりもストレートな言葉。
自分を中心に地球が回っているとでも思っているんだろうか。
「…どうして僕が貴方の生まれた日をどうして祝わなきゃならないんですかね?」
「ふん、では聞くがその箱は何だ?」
テーブルの真ん中に載っているケーキの箱を指される。
この学園島でこんなケーキを手に入れるには、
外で買ってこなくてはならないわけで…。
きっと中嶋にはこれが何を意味するのかはわかっているんだろう。
しかし、あっさり認めるわけにはいかない。
動揺を顔には出さずに得意の作り笑顔で微笑む。
「これは、僕が食べようと思って買ったものです。
 中嶋さんは甘いものはお嫌いでしょう?」
「嫌いではないが?」
少々意外な中嶋の言葉に若干大袈裟に驚いてみせる。
「僕がスィーツを食べてるのを見ることも嫌がるじゃないですか」
「甘い食べ物は嫌いだ」
「でしょう」
さあ、どう返すつもりなんですか?
「だか、俺に甘い人間は嫌いじゃないな」
「僕は甘くないですよ?」
「ケーキを用意して、俺が来るのを待ってるのは甘い証拠だ」
にやりと笑った中嶋の一言はチェックメイトを決める。
「全く、貴方って人は…………いいですよ。
 今日は貴方の誕生日ですからね、僕が折れてあげます」
さっきの『甘い人間は嫌いじゃない』という言葉。
今日は甘やかせってことでしょう?
七条はにっこりと微笑んで中嶋の耳に唇を寄せた。
「では改めて。
 中嶋さん、お誕生日おめでとうございます」

***

リキュールの効いたビターなチョコケーキを切り分けて、二人でつまむ。
中嶋も少しずつではあるが口に運んでいるところを見ると、口に合ったようだ。
ゆっくりとバースディケーキを咀嚼する中嶋。
七条の瞳はただそれだけを追う。

「俺の誕生日だというのに何か考え事か?
 それとも見惚れていたのか?」
「違います。
 普通の誕生日ってどんなものなのかと考えていただけです。
 僕は両親に祝われた記憶がないものですから」
「西園寺は?」
「郁の誕生日は基本的には来客の多いパーティ形式ですからね。
 僕がするのは郁が好みそうなプレゼントを用意して…くらいですし、
 僕の誕生日は、郁が毎年ケーキをくれましたよ」
「だから俺にもケーキなのか?」
「誕生日はケーキを食べると郁が教えてくれましたから。
 ああ、それとこれも中嶋さんに…」
「万年筆か」
「貴方に使っていただけるものを用意してみました」
「これもありがたくいただくが、もっと欲しいものがある」
「何ですか?」
「甘い恋人をひとり、いただこうか?」
「まったく…仕方のない人ですね。
 けれど、今日という日に免じて、
 特別に蕩けるくらい甘やかしてあげますよ」
「それは楽しみだな」

言いながら七条の顔には偽りでない笑みが浮かぶ。
自分なりの祝い方で愛する恋人の誕生日を祝うこと。
それでいいと教えてもらったから、
今日という日を心から祝おう。

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