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成歩堂芸能事務所。 そこに以前の法律事務所の面影はまるでない。 壁には謎の格好をした肖像画。 積みあがった見慣れない道具。 その道具のひとつを手に取り、御剣は静かに口を開いた。 「……弁護士をやめたと聞いた」 「うん、弁護士バッチも無いからね。 今はしがないピアニストさ」 「どうして私に何も言わなかった、成歩堂」 「今なら、あの時の君の気持ちがわかるよ。 『君だけにはこんな姿を見られたくなかった』 そう言ってたよな、確か」 それはある事件の容疑者となったときのこと。 『君だけにはこんな姿を見られたくなかった』と確かに言った。 だが、結局御剣は成歩堂に弁護を頼み、結果として成歩堂は御剣を救ったのだ。 しかし、成歩堂が『証拠品の捏造』という濡れ衣で弁護士バッチを失うことになったとき、御剣は何も出来なかった。 知らなかったでは済ませられない。 どうして、自分は彼の側にいなかったのか。 成歩堂が自分に助けを求めなかったことよりも、助けられなかったことが悔やまれる。 そんなことが出来る男ではないことは、誰よりも御剣自身が知っている。 それなのに…。 御剣の指に握られた2本の銀のリングが、擦れたような耳障りな音を発した。 「もう弁護士じゃないけどね、それなりに楽しいよ。 可愛い娘もいるしね」 「みぬきくん、と言ったな」 「僕の『生きがい』なんだ」 「そうか…」 「君にひとつ頼みたいことがある…」 「今の僕が御剣の役に立つとは思えないけれど、 僕に出来ることだったら、いいよ」 「新しい制度が始まることになっているのは知っているな。 それを君に任せたい」 「僕に?」 「君にならば出来る、と信じている」 差し出した書類をじっくりと読み進める成歩堂の瞳は、以前のまま変わっていないと御剣は思う。 必死で法廷で弁護をしていたあの時の瞳と同じだ。 「やってみる…いや、僕にやらせて欲しい。 これは僕にしか出来ない仕事だ」 「君ならばそう言うと思っていた」 これは新しい道を歩き出すための一歩。 過去に戻ることはできないけれど、せめて新しい道を君に。 いつの日にかまたあの場所で出会うことを信じて。 |
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