ベジータ
彼は最初から最後まで「誇り高きサイヤ人の王子」だった。王子様なのでプライドもお高い。王子様なので挫折にめっぽう弱い。王子様なので諦めも早いし、王子様なので相手を無駄に挑発してはボコボコにされる。ドラゴンボールが実際に連載されていた十代の頃は、サイヤ人襲来編で圧倒的な強さを見せておきながらその後一度も悟空を越えられなかったどころか、後からあとから新しい敵にもすぽんすぽんと追い越されていくベジータが可哀想でならなかった(私はかなり感情移入して「ああ!」や「そんな!」と感嘆詞付きで漫画を読んでしまうタイプだ)。あれ程バカにしていた地球の科学で創られた人造人間にボコボコにされた時などは「もうやめてぇー!(©シータ)」や「もう殺さないでぇ(©ナウシカ)」と叫んでしまいそうになったものである。そもそも行き当たりばったりのDB界では登場時が戦闘能力の最高値で、後は(悟空の敵レベルとして)下落する一方のキャラがほとんどだが、そんな中、フリーザ編ではじめて且つ大きな挫折を経験した彼は、その後「融合・合体・超能力」に頼る事なくひたすらストイックな修行によってインフレの波をかきわけ悟空についていこうとする。ピッコロが神コロとなった時のくやしがりようから見ても、ベジータはまさにDB界の二宮金次郎、努力の人なのである。悟空が魔裟斗ならベジータは小比類巻なのだ……ちょっと違うか(最後バビディの魔力に頼ったことは除く。つまりそれほど追い詰められていた→後の自爆カタルシスとカカロットナンバー1発言に続く)。
さすが彼は誇り高きサイヤ人の王子だ。しかしそこはやはり王子、すーぐに自分の能力を過信してしまう。負ける→修行で強くなる→調子こく→「変身しやがれ」→予想外の強さ→やけくそ連打→バックとられる→ガタガタブルブル……。彼はいったい何度同じことを繰り返せば気が済むのであろうか。そんな彼の姿に私は何度「お願いしますよベジータさん、もうちょっと自重して下さいよ」と思ったことだろうか。「頼むからもうちょっと強くしてやってけれ」と神にも祈ったほどだ(神様はデンデだがここでいう神とは鳥山明先生のことである)。
ところがどっこい連載終了後十年近くの時を経てあらためてコミックスを読み返してみると、その報われなさ加減こそがベジータのキモだったのだと気づくのである。これこそがベジータの正しい楽しみ方だ、と(ある意味では「正しい読み方」でもありそうだ)。最後の魔人ブウ戦での「連打→バックとられ」のシーンなどはもはや形式美の域にまで達しているといっても過言ではない。むしろフリーザ編で恐怖と絶望でガクガクブルブルしながら流した涙に「あぁん、ベジータったらさすがエ・リ・ー・ト☆」と愛しくさえ思える。こうなってくると人間おしまいだ。
さて萌え語りはほどほどにして本題にうつろう。悟空達と出会う前、せっせと星の侵略に勤しんでいた頃のベジータのセックス観は、彼の登場シーンを思い出せば容易に想像出来るであろう。なにせぶっ殺した異星人の手首をもぎとってクッチャクッチャと食べる男である。食欲の旺盛な男性は性欲も旺盛だといってもあながち間違いではあるまい(多分フロイトあたりがそんなこと言ったと思うが定かではない)。そのうえフリーザの手下に成り下がったとはいえ彼は王族出身であるし、地球からの帰還時「ベジータ様」と呼ばれていることから、惑星フリーザ内においても彼の地位はそこそこ高かったと思われる。さらに特筆すべきは、同じサイヤ人であるナッパを何の躊躇もなく自らの手で殺してしまっている点、ナメック星で悟飯(サイヤ人の子供)の頬を優しく撫でた後、一転して膝蹴りを喰らわしている二点である。よってその本質は究極の真性Sに間違いない。彼のセックスとは愛情の確認や相手をいたわるものではなく、かといって繁殖行為でもなく、ひたすら己の性的衝動(カッコよく言うとリビドー)を満足させるための利己的行為でしかないのだ。是非ベジータ様にはフリンジの沢山ついた深紅の玉座に全裸でふんぞり返って「おらおら舐めやがれ」ぐらい言って欲しい。もしくは相手のことなどおかまいなしに好き勝手に気をやった(表現が古いなあ……)あと、そのままビックバンアタックをかまして「へっ、汚ねえ花火だ」とか言って欲しい。
とここまで言っておいて、ひとつの問題が生じたことに気がつく。ナメック星からの帰還後、ブルマが「私が魅力的だからって悪い事しちゃだめよ〜」とからかった時、彼はなんと顔を赤らめて「でかい声で下品な女だ」とのたまったのである(も、萌へ〜! よく考えるとピラフとブルマの掛け合いの天丼)。あの自尊心の高いベジータが明らかに動揺しているのだ。この程度で顔を赤らめていては「おらおら舐めやがれ」などとは到底口には出来ないだろうし、耳元で放送禁止用語の一つや二つを囁けば真っ赤を通り越して青ざめてしまうこと必至だ。ル・マン国際レースとかレマン湖のほとり、とか必要以上に意識して絶対言えないタイプだ。
では彼はつねに気品に満ちた気高く清らかな王族であったかと言えば、くそったれだのマヌケだの、地球やナメック星での言動を見る限りとてもそうとは思えない。なにせサイヤ人は戦闘民族だ、王子は王子でもドラ息子系王子である。さらにこの時点では、フリーザや悟空との実力の差を見せつけられ高かった鼻をポッキリ折られた直後とはいえ、まだまだ地球人からの影響は弱かったはずだ。つまりなんてこった、地球襲来前後までの彼は戦闘においては非道に徹しきれるものの、セクシャル面では性的話題=下品という価値観のまだまだウブなシャイボーイ☆つまりはお子チャマであったことが判明してしまった。
……か、可愛いじゃないか。と一瞬思ってしまった自分はギャリック砲で殺しておいて
その時私の脳裏にある人物の姿が浮かんだ。ゴルゴ13、デューク東郷その人である。彼は百戦錬磨の娼婦に「あおぉ〜っ!」と叫ばせるほどの素晴らしいテクニック(当字:性技)の持ち主でありながら、自らの欲求が押さえられずフンハフンハして女を抱くことはまずない。実際、超絶美人に「どう? この白い肌にあなたのを埋めたいでしょう?」と挑発されてもピンともスンとも興奮することなく、冷徹に弾丸(男根ではない)一発で仕留めている。一方で、情事の真最中にSMGを持った敵に踏み込まれた時でさえ彼のそれは萎えることがなかった。「何てやろうだ、まだおったててやがるぜ!」と敵を驚愕させたほどだ(うろ覚え)。つまり彼の性欲は信じがたい自制心のもと、完璧に制御されているのである。勃てるも勃てぬも自分次第! それに加え「無口」「冷徹」「鋭い視線」「絶対の自信」……どうだろう、かなりベジータに通ずるところがないだろうか(ベジータと違ってゴルゴは絶対にバックを取らせないが、それはそれとして忘れていただきたい)。……いやなんかテキスト一発目から辛い展開になってきた。
ちょっとウブなゴルゴ──これこそベジータのセックス観にふさわしいのではあるまいか(もうハチャメチャ)。普段は強靭な理性で性欲をコントロールしているものの、純粋培養男子高育ちのエリート王子ゆえにちょっとしたセクハラに動揺してしまうベジータ……は、ハァハァ、これならば「王子」のイメージにも反さない。なんだかんだと言って結局のところベジータは、最初に言った通りやはり「王子様」以外の何者でもないのだ。だがベジータはけっして自ら求めたりしない。
というわけで、「お前が抱いて欲しいと頼むなら抱いてやらないこともない(顔をそむけて赤らめながら)」かなり苦しいがこれに決定。
さんざダラダラしたあげく最終的に何が言いたかったかと言うと、「顔を赤らめる王子は誰がなんと言おうと萌える」! 以上!(もうあかん)