ハイスクール! サイヤ組 2
その日の放課後、地球学普通科三年DB組の教室では、数人の生徒達が文化祭に行う劇の準備に励んでいた。実際には秋の文化祭までは数ヶ月もの余裕があったが、今からウキウキ気分で打ち合わせをしてしまうほど団結力のあるクラス、それが三年DB組亀仙先生クオリティなのだ。
人という字は人と人が支え合っているように見えるけれど、本当は支える人と支えられる人の二種類なんだよ──彼らがそんなすさんだ劇の台詞を輪唱する中、突如扉を勢いよく開け放ちあらわれた男にクラスは騒然となった。
「み、見ろよ! あいつ今時尻尾のキーホルダーなんてつけてやがるぜ……」
ヤムチャが苦笑いするのに勇気づけられたのか、クラス一のお調子者、栗林(くりばやし)はへらへらと前へ躍り出た。
「ねえあんた、どこの誰だか知らないけど帰って帰って! しっし!」
「栗林! 近寄るな!」転校生にもかかわらず、その温和な性格と強い意志でもって学級委員長の座にまでのし上がった悟空が、慌てて栗林を制する。「その学ラン……フリーザ学園の奴か?」
「な、なんだってー!ΩΩ Ω」
悟空の言葉に、栗林らはあらためて男を眺めた。なるほど、付け尻尾のカッペ野郎と思ったが、確かにあの美しくまばゆい程に輝く白いビロードに金糸の刺繍で縁取られた学ランはフリーザ学園のもの──両校の関係を考えれば、奴はあきらかに敵意を持ってやってきたに違いない。彼らは思わぬ来訪者に息をのみ身構えた。
「いかにも……」男は教室内を一瞥すると、不敵な笑みを浮かべて悟空に歩み寄った。「久しぶりだなカカロットよ、しかし何だこのクラスのありさまは」
「なんのことだ……?」
突然あらわれてわけのわからない事を言う男、そうかこれが世に言う電波系という奴か、オラわくわくすっぞ──勝手に納得した様子の悟空に、ラディッツは苛立った。
「……きさまそんなことまで忘れてしまったのか? 俺はきさまの兄、土座──いや、ラディッツだ」
「な、なんだってー!(AA略)」
ザワ・・・ザワ・・・と教室中がざわめく中、栗林ははたと気がついた。
「てゆうかお前、三年の悟空の兄貴のくせに何でまだ高校生なんだ?」
そういえばそうだ……一瞬思考を巡らせた一同の脳裏に、ひとつの答えが浮かぶ。
(ああ、ダブリね)
表情から彼らの考えを察したラディッツは思わず涙ぐんで大声を上げた。
「うるさい! だ、誰にだって聞かれたくない事情の一つや二つや三つや四つや五つや……」彼はこれ以上傷つく前に話を戻すことにした。誰にだって秘密はある。「そ、それよりもカカロットよ、きさま以前頭に強いショックを受けたことはあるか?」
「ある……」悟空は注意深くラディッツを睨みつけたまま、静かに口を開いた。「オラは突然のことでよく覚えちゃいねえが、転校初日に扉に挟まれた黒板消しに気づかずに脳天をしたたかに打ち付けたことがある」
悟空は頭に手をやって、まだわずかに傷の残るそこをさすった。
「ちぃっ、なにもかも忘れてしまったとはやっかいな野郎だ」
牽制しあう二人の影で、ヤムチャはごくりと唾を飲んだ。
「す、すまん悟空……、いつか言わなくちゃならないとは思っていたんだが、そのいたずらをしかけたのは……オレだ」
「そうか、おめえだったんか……」
思いがけずヤムチャの告白を聞いた悟空は、満面の笑みでゆっくりと振り返った。
「ご、悟空……許してくれるのか?」
「放課後体育館裏の倉庫で待ってろ、大事な話がある」
彼は悟空の目だけが笑っていないのを悟り、恐怖でブルブルと身体を震わせた。
「お芝居はもう終わりだカカロット! きさまはフリーザ学園から送り込まれたスパイなのだ! 思い出せ、フリーザ学園の血が騒がんか?」
「違う! オラはそんな宝塚みてえな制服の学校の生徒じゃねえ!」
「校長の趣味だ! 俺の趣味じゃねえ!」
「お前のかーちゃんデーベーソ!」
「お前のかーちゃんもデーベーソ!」
不毛な罵り合いにまで発展した兄弟喧嘩に一同が飽きあきしてきた頃、前扉を開けて一人の男があらわれた。
「教育実習で母校に来てみれば……とんだ騒ぎのようだな」
長身に緑がかった甘いマスク、触れるものみな傷つけそうなほど大きな肩パッドの入ったダブルのスーツ──そう、彼こそは──
「ピ、ピッコロ先輩!」
三年DB組の一人である孫悟飯の目に映ったのは、地球学OBであり、かねてから彼の憧れの人であるピッコロ・ダイ・マオー(交換留学生)その人だった。
「なんだ、きさまは? ……顔色が悪いぜ、青汁の飲み過ぎかい?」
「なんだと!?」
ラディッツの意識が一瞬ピッコロにうつったその瞬間、電光石火のスピードで背後にまわった悟空は、そのまま背にまたがり彼を四つん這いにさせた。
< 図解 ○| ̄|_ ←ラディッツ >
「いまだっピッコロー!」
「そうくるだろうと準備していたぞ!」
ピッコロは額にあてた二本の指に、全神経を集中させた。
「き、きさま一体何を……やっ、やめろ! よせ! そ、そうだお前、わが野菜研究会に入らんか? 幹部扱いで優遇するぞ!」
「へっ、折角だがオレさまはミネラルウォーター愛好会なんでな……くらえっ、三年殺し……もとい魔貫光殺法!」
その瞬間──ピッコロの二本の指はラディッツのアヌスに深く突き刺さり、ザ ワールド──時は止まった。
「オレはもう行かねばならん……これ以上弄られたくないんでな」
ピッコロ・ダイ・マオーは汚れた指をハンカチーフで拭き取りながら、直腸への衝撃で気絶したラディッツを見下ろした。
「いっぱいいっぱいなんですね、ピッコロさん」
「ああ……オレも作者もな。どうもオレは弄り辛いらしい……。悟飯、大きくなったな……」
ピッコロは悟飯の股間を見つめて感慨深く頷いた。