入学式。桜の花びらが降る、校門の前。
グループになって歩く者、心配そうに親に寄り添って門をくぐる者、一人胸を張って入っていく者。
柳生はその中を一人ずんずんと突き進んでいた。
「騒がしいですね。小学生はもう卒業したというのに・・・大人気ない人ばかりです。」
昇降口の前の掲示板に張り出されたクラス分けの表で自分が6組だと確認してから、柳生は堂々と教室へ向かった。途中でトイレの場所と非常口とをチェックして、昇降口前の喧騒からいち早く身を引く。
がらり、と戸を開けると柳生よりも早くきた少年が窓の縁に座って外を眺めていた。
「おはようございます。」
柳生はさわやかに声をかけると自分の席に着席した。
「うーん?」
銀の髪を揺らしながら振り返った少年が一言。
「お前さんなんだかキモイのぉ。」
「はい?」
一瞬固まってしまった柳生は振り返って銀髪の少年を見た。
「君、初対面の相手に向かってそんな口の利き方は慎んだほうがよろしいのでは?」
「うっさいのぉ、キモイもんにキモイ言って何が悪い?」
「では、どこが『キモイ』のかはっきり言って下さい。」
少年はニヤニヤ笑いながら言ってのけた。
「まず、口の利き方。それからその髪型。視線が人を見下しとぉし、ガクランの襟までしっかり閉めとるところが、また一段とキモさを倍増させている。」
「な・・・・・!!」
「なんじゃ?はっきりいってやったんじゃ。文句あるんか?」
「・・・・だいたいなんですか!君のほうこそ、適当にとってつけたような方言の乱用。虚勢を張るための格好つけた髪形。一般的な中学生に比べて、なんたる体たらくでしょう。」
「・・・・・・なんじゃとぉ!!」
少年は拳を振り上げた。
バシッ!!
「っつ・・・・痛いですね!!」
柳生も負けじとボディーブローをかました。
「誰か!!先生呼んできて!!」
「何々?」
「喧嘩だって。殴り合いの!」
入学式の準備で忙しい先生は飛んできて、さっさと保健室に二人を放り込んでいった。
「全く、入学早々なんてことを・・・・・」
「「・・・・・・」」
ムスゥッとした顔つきで手当てを受ける二人の顔はあざだらけで見られたものではなかった。
保健医はバンバンと絆創膏を貼って、立ち上がった。
「名前は?」
「仁王。」
「柳生比呂士です。」
「はいはい。仁王君と柳生君ですね。」
保健医はさらさらっと記録紙に二人の名前を書いて保健室の外へ二人を押しやった。
押し出された二人はちょっと顔を見合わせてからフンと、顔をそらした。
仁王君ですか・・・・・絶対ぎゃふんと言わせて見せます。
こんな能無しのだらしない人に負けてたまりますか。
柳生比呂士・・・・ムカつく。
こんな頭の固いやつに負けてたまるかって。
二人は肘でお互いを小突きあいながら、体育館に向かって歩き始めた。
「また貴方ですか!!」
「うっせーよ。文句あるんだったらはっきり言ってみんしゃい!」
その後、二人は仮入部で再び喧嘩を起こし、再び保健室へ運ばれた。
そして、同じテニス部に入った二人は、切磋琢磨して、立海大テニス部に大いに貢献することになる。
「はぁ。また貴方とダブルスですか・・・」
「文句あるんか?」
「いえ・・・」
ニタニタ笑いながら仁王はオーダー表を覗き込んだ。
「まぁ、他の奴とやるよりかの?」
「また仕組みましたね・・・」
「・・・・・」
返事を返さない仁王を少し睨んで柳生は言った。
「全く・・・・ここに入学してから四六時中貴方に付きまとわれている気がします。」
「それはこっちの台詞。」
柳生はますます深くため息をつく。
仁王は柳生の髪をすくって、軽くキスをして言った。
「それもこれも、お前さんが俺に惚れたから悪い。」
「・・・貴方の方が先に好きだって言ったくせに・・・・・・」
体を丸くさせて減らず口をたたく恋人を、仁王は抱きかかえて押し倒した。
「相変わらずキモかわいい。」
「何ですか、それ?」
「かわいくてかわいくて、ついキモく見えてしまうことを言うん。」
「はぁ・・・・」
柳生は仁王のキスを全身で受けながら、さて、あの頃のほうがよかったのではないかとかすかに思ったりもした。
でも、まぁ、今も幸せですしね。
そう思い直して、今度は自分から唇を返した。
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