さん、ホントに大丈夫ですか?」
「うん、平気…それに昨日休んじゃったから、今日は頑張らないとね」

もちろん、リップサービスだ。
私は早くモロクへ行きたい。
今現在、ロアン達に付き合っているのは、一目この目でデフォルトアサシンイルガ兄さんを見るためだ。

あ、あと、萌えジャック。


目が覚めたらラニメの世界だった。
 〜05:ドッフルギャンガフフフフ〜


どうやら、昨日私がマーヤに打診したのが功を奏して、タキウスが敵の毒にやられそうになったのを緑ポーションで回復したため、彼女の調子は悪く無さそうだった。
そして、最初からファイヤカタナを持っていったため、そこまで苦戦もしなかったそうだ。

……う〜ん、シナリオ改変の瞬間に立ち会った気分?

まあそれはさておき、4人でゲフェンダンジョンを進む。
途中、何度も蜘蛛やウィスパーに出会ったが、ファイヤカタナと主人公PT補正は強かった。
そしてやっぱりシャアことハンターフライは陰かたちも見ないまま、瞬く間に敵を切り伏せ、さらに奥へと進んでいく。

「レアアイテム出ないかなぁ〜」
「ウィスパさんカード落とさないかなぁ〜」


…………

何だかマーヤと思考が似てきたのが、自分でもちょっとむなしい。
しかしウィスパーカードはAGI職にとっては喉から手が出るほど欲しい……というかもう必須アイテムだ。なきゃお話にならないものだ。
レアなことも手伝って、ウィスパーカードの需要はそりゃあもう結構なものなのだ。私も欲しい。VIT型だけど。


「さあ、どんどん行こう!このファイヤカタナがあれば大丈夫ですよ!」
得意げにロアンは刀を振り回す。そしてそれをジト目で見るマーヤ。
「お兄ちゃん、早くカタナ代払ってよね〜」
「え?あ、あ〜……アハハハハ……」


あはははは〜ではない。
私は金の貸し借りはしないぞ、ロアン。
うちのギルドはそういうことにうるさかったから、『私』もすっかりそこの色に染まってしまっていた。
私はこちらに視線を向けてくるロアンににこりと笑顔を向けると言った。
「肩代わりしても良いけど、そのかわりにモッキングマフラーと交換ね」
「ええーっ!?そ、そりゃないですよーさーん……」
「冗談だって。でもそのカタナは君のものだから、自分で払いなさい」
「そうよロアン、たんなんかに頼っちゃダメよ」
「確かに、今のはさんの言い分が正しいですね」
「そ、そんな……ユーファにタキウスさんまで……」

後ろから私の肩を持ってそうだそうだと続く二人。
というか、今何気にユーファは失礼なことを言った。気付いてないだろうけど。
そんな私の微妙な心境にも全く気付かず、ロアンはがっくりと項垂れる。結局自分で払うのかどうか、そういえば『私』は知らない。
いつの間にか有耶無耶に自分のものにした挙句、転職した時にあっさり捨てちゃうんだよなぁ……恩知らずというか、何というか。

そんなことを考えながら進んでいくと、前方に影が一つ。
異様に頭の大きなシルエットを持つそれは、私たちとは少し離れて歩いていたマーヤの姿を認めると、彼女に向かって突進した。
「キャァァーーー!!何よコイツー!?」
出た。カボチャおばけ。ジャックだ。

マーヤは所構わず逃げまくっている。マーチャント一人で太刀打ちできるものじゃない。
他のメンバーはというと、逃げるマーヤをおろおろしながら見ている。
全く、こういう時こそ連携取れってーの!
仕方なく私はジャックとマーヤの間に入り、チェインを振り下ろした。
「あ、ありがとうお姉ちゃん……!」
「いいから、早く下がって!」
「う、うん!!」
ロアン達の下へと走って行くマーヤを見送る暇も無く、ターゲットが移ったのか今度はジャックが私に向かってくる!
もちろんSTR1のこの非力なアコライトが敵うはずは無い。自ヒールをかけながら残りメンバーが倒してくれることを期待するのみだ。

さあ来い!この+6ただのs3チェインが相手よ!!
唸りを上げてジャックが迫る。
痛みに耐えるべく、歯を食いしばり身を硬くすると────


…………あれ。

何で痛くないんだろう。


今までは、敵と戦ってダメージを受けると、多少なりとも痛みがはしったのだ。
というか、痛い時はかなり痛い。まあ、すぐにヒールするからそこまで我慢できない痛みでもないけど。
だけどジャックたんの攻撃(?)は、全然痛くも痒くもない。ひょっとして、ダメージを食らってないんじゃないだろうか。
もしかしたら、ただ単に女の子に触りたいってだけなのか、どうなのか。
あああ、もうホント、ステータス開けないのつらい。
パーティー組んでる人のHPすら見ることが出来ないなんて、アコとして非常にやりづらい。


……話がずれた。
私は自身にまとわり付くジャックをチェインで防ぎつつ、叫んだ。
「こいつは火属性だから、カタナじゃダメよ!」
ちょうどジャックに切りかかろうとしていたロアンがぴたりと止まる。
代わりに前に出てきたのは、タキウスだ。マジシャンは様々な属性攻撃を駆使することが出来る。

タキウスが構えた。
杖を中心に光が集まっていき、それが彼女の呪文により一気に弾ける。


「<フロストダイバー>!!」


抵抗もむなしく、ジャックは凍り付いた。
ひやりとした感触を身近に感じながら、私はその場から下がる。
それを確認すると、タキウスは再び詠唱に入った。


「<ライトニングボルト>!!」


氷が粉々に砕け、その中で凍り付いていたジャックは雷を放たれあえなく倒れた。
さすが廃マジ、威力はダテじゃないね。
「さあ、行きましょう」

タキウスはそのまま先へと進む。慌てて他の人たちもそれに続いた。
私も足を進めようとしたけど、何だかふらふらする、ような気がして立ち止まる。
おかしいな、どこも怪我はないし、そんなにスキルも使っていないから、spだってまだ余裕があるはずなのに。
精神的疲労という奴だろうか。ここに入ってから、かなりの時間が経ったのだ。会社勤めの人間にダンジョン探索など、普通なら出来るはずが無いものを強引にやっているのだから、無理もないのかも知れない。
額を押さえふーっと息をつく私の肩を、誰かが支えてきた。

さん、大丈夫ですか?」
振り向くとロアンが、心配そうな顔をして私の顔を覗き込んでいる。
……が、彼の二の腕は、しっかりと私の偽乳に当たっている。
私は敢えて気付かない振りをして、彼に答えた。
「え?ああうん、平気。ヒールしたらすぐに行くか……」
「<ヒール>!!」

言い終わる前に私の体を淡い光が包んだ。
途端に体がしゃきっとして、私はふらついていた体を立て直し、ロアンから離れた。
ああ……便利だなぁヒール。現実生活でも使いたい……帰れるかどうか分かんないけどさ……

と、私が軽い現実逃避に陥っているうちに、ロアンはユーファのもとへ駆け寄り何事かを話していた。
きっと姫様専用の下僕が他の女にふらついているのがムカつくのだろう。
ROのドット絵は半端じゃなくかわいいからなぁ……アニメとは比べ物にならないくらいに。
へぼいセル画の姫様じゃあ比べ物になりませんよ。いや、ホント。

と言っても、この姿は全てかりそめのものであるわけだけど。


ともかくそんなこんなで、私たちはアニメとは違い、警戒しながらさらに奥へと進んでいった。
……いや、想像はしてたけどホント、湧き偏りまくり。ゲフェニアに着くまでの間エンカウント全く無しってどういうことなのこれ。
もうGDで狩りするのやめよう。
私がそう強く思っていると、どうやら着いたようだ。目的の、封印の扉に。

先頭に立っていたタキウスが、古ぼけた扉をこじ開ける。
重い金属音を響かせて扉はゆっくりと開いていった。
「ロアン、手伝ってあげなよ」
「え?えーと……」
一人で扉を開けようとしているタキウス(後衛職)の後ろで、ぼーっと突っ立っていたロアンに、ひそひそと耳打ちする。耳打ちといってもwis機能ではなく、普通のささやき声だ。ああ調子狂う、毎度のことながら。
「剣士のあなたが一番力が強いわ。タキウスだけにやらせておくつもり?」
「え、あ、あー、そうか!そうですね」
ぽんっと手を叩くロアン。
ようやく私の言わんとしていることが分かったらしい。全く手のかかる……

しかし、すぐにロアンが手伝う必要は無くなった。
なぜなら。


「ううっぅわぁああああ〜〜〜〜!!!」
「かっかっ風ぇえええ〜〜〜!?」

突風が私達に襲い掛かる。
まるで切り裂くような風力に、とても立っていられない。
封印がなんなのかを見ることも出来ず、私はかなりの距離を吹っ飛ばされていった。



「いたたた……」
「ここは……?」

目覚めの時は意外と早かった。
体のあちこちが痛い。風邪で吹き飛ばされてここへ落とされたのだから無理もないが。
どうやら一緒にいるのはロアン一人だけのようだ。

と、いうことは。こちらはもしや、あっちのルート……
そんな不安と共にロアンの方を見遣る。
時既に遅し。

腰をさすりながら起き上がるロアンのさらに向こうに、ゆらゆらとうごめいてこちらへ近づいてくる影が見えた。

「あ、あれは……?」
「ドッフルギャンガー!」
「えぇ!?」
「……じゃない、ドッペルゲンガー!」
思わず飛び出た重力語に、ロアンが顔をしかめる。
現れた影は、剣士の格好をしていた。

──いや、さらに言うなれば。

「あれは……僕……!?」

剣士はロアンと瓜二つの顔をしていた。
デフォ剣士じゃないんだ。

って、そんなことを言っている場合じゃない。
確実に死ぬ。

ドッペルゲンガー、通称DOP様。
剣士の姿をしてはいるが、ゲフェニアのボスなのだ。
高レベルパーティーですら、『うっかり普通の剣士と見間違えて』知らぬ間に瞬殺されていたなどという噂(都市伝説?)も耳にしたことがある。
もちろん、ロアンと私だけで勝てるわけがない。断言する。
だがしかし、敵は待ってはくれない。だってDOP様はアクティブモンスターだから!
「ぐっ……!」
覚悟を決め、ロアンがカタナを構えDOPに向かっていった。
ええい、こうなったら出来るまでやるのみ!
私も腹を据え、ロアンにありったけの支援をかけた。焼け石に水程度だろうけど、無いよりはましだ。

そしてタゲが移らないように位置取りに気をつけながら、ヒールを連発する。HITもATKも、ロアンがDOP様に敵うものは何も無い。気をつけないと、すぐ死ぬ。
だがそれでも、やはり敵は強かった。

「!!」
なんとDOPは、私がブレスIAをかけなおしている隙をついて攻撃してきたのだ。
こっちにはまだスキルを使った後のディレイが残っている。
間に合わない!
反射的に目をつぶってしまう。


「……え?」
死んだな、と思った後、おそるおそる目をあけてみる。
視界に映ったのは、ロアンの死にグラフィックなどではなく、DOPとの戦闘に割って入るようにジャマダハルを振る、一人のアサシン。

イルガ兄さん来たー!!
うわーうわー、やっぱり♂アサは萌える!
さっきまで死に掛けていたことも忘れて、私はアサシン、イルガの登場に一人沸き立っていた。
いやあ、展開知ってるはずなのになんでこんなハラハラしてたんだろうと思い知らされた瞬間だった。
ラニメなめてました(ごめんなさいっ!)と、一瞬感じた。
だけど、やっぱりラニメはラニメでしかないのが現実。


その証拠に、アサシン一人でDOPを殺ってしまわれるのですから。


「<ソニックブロウ>!」
イルガのその声と共に、両者の間に閃光が走った。
その閃光に包まれ、DOPはあっけなく消し飛んでゆく。

後には、無表情で佇む、一人のアサシンの姿があるのみだった。




イルガ兄さん最後にちょこっとしか出てきてない!?すスミマセン……
えと、KANAMEはイルガ兄(とキーオ兄)大好きなのですが、この連載はシュガーレスです。
理由は、このアニメで恋愛したくないからです(笑)

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