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「クスハちゃん……本当に行っちゃうの?」 「うん。私は、もうしばらくGGGでお手伝いしようと思うの。虎王機のこともあるし、テスラ=ライヒ研究所にも行きたいし」 「そう……残念だな、せっかく年の近い友達ができたと思ったのに」 「きっとまた会えるよ。ね?」 「うん!じゃあ…元気で!」 第十話 星を往くアムネジア そんな会話を経て、クスハやGGGの面々としばしの別れをした後。 大空魔竜は宇宙へと旅立っていた。 「うわぁああ」 は目を輝かせながら、外の様子を見ている。 なにしろ、宇宙に出たのはこれが最初なのだ。……いや、もしかしたら過去に上ったことがあるのかもしれないが、記憶が無いために、『初めて宇宙に上がった感動』というのをここで体験しているのだ。 「……そんなに珍しいか?」 「だってすごいんですよ!上下左右見渡す限り全部星空って、すごくないですか!?」 はしゃぐに、ゼンガーは苦笑を漏らす。 大空魔竜には、他にも宇宙に出るのが初めてのメンバーも多くいるのだが、しかしそれを差し引いてもなお、輝きに満ちたの目は際立ったものがあった。 「おいおい、遊びに行くんじゃねえんだぞ」 「そうそう。私達、大切な使命があるんだから」 興奮したを冷やかすように、同じ部屋にいた葵豹馬はおどけて言った。 それに輪をかけるように、ちずるが続ける。 「うーっ、分かってるけどー……でもせっかく上がってきたんだし、楽しまなきゃ損じゃない」 肩をすくめてが振り向いた。 豹馬達は宇宙に上がったことがあるからそんなことが言えるんだよー、と口をとがらせる。 「……ま、それもそうだけどな」 つられて豹馬は苦笑する。 「それに、地球圏よりももっと遠く……木星圏まで行くともっとすげえぜ」 「ああ、ありゃあ凄かったな。最も今回はそんな遠くまではいかねえだろうけど」 二人の間にすんなりと入ってきたのは甲児。 「火星の地表も見たことねえんだろ?あれもすっげえ壮観だぜ!」 「へえ〜、そうなんだ、楽しみだなぁ」 「そういえば、火星にゃボルテスチームや万丈さんたちもいるんだっけか……あいつらにも紹介してやるよ」 はしばし二人の話す宇宙というものをぼんやりと聞きながら、再び窓の外に目を向けた。 「宇宙、かぁ……」 「、ホントに宇宙に出るの楽しみだったんだな?」 「え?いや、楽しみというか、何というか……」 ただ目の前にある風景に感動していただけなのだが、と答えようとして、ふとは脳裏に閃く『何か』を感じ取った。 「……?どうした?」 様子が変わったのにまず気が付いたのは、隣に立っていた豹馬と甲児。 一瞬、不思議そうに首を傾げたの口から出てきたのは、曖昧な言葉だった。 「うん……なんかね、初めてじゃない、気がする……」 怪訝な表情の二人をよそに、三度は星の海を仰ぎ見た。 そんな出来事があったのは、数時間前のこと。 『この識別反応は……クロスボーン・バンガードです!』 ミドリの声に艦内は騒然となった。 火星へと向かう宙域に、その艦隊は忽然と現れたのだ。 骸骨の名を冠する、反地球連邦組織が。 「クロスボーンって、確か……」 既にデッキまで来て、いつでも出撃が出来るよう体勢を整えていたは、(記憶の手がかりになればと)暇さえあれば叩き込んでいた地球圏の最近の出来事を反芻した。 クロスボーン・バンガード。 今より少し前、バルマー戦役と呼ばれる大きな戦いがあった際に、地球連合政府に対して反旗を翻したスペースノイドたち。 『尊き者、貴族が民を導くべき』という貴族主義を掲げたマイッツァー・ロナの私設軍隊……そしてそのマイッツァー自身は、先の戦いにて死亡し、クロスボーン・バンガードは組織の維持が困難になり、瓦解。それにより反乱は治まる── が知識として知り得たのはここまでだ。 しかし、何故今になってこんな所で彼らと遭遇したのだろうか。 それを考える間もなく、ブリッジからは出撃命令が下される。 カタパルトより広大な宇宙空間に射出されながら、は唇を噛んだ。 今回は、これまでの戦いとは違う。 一つは無重力状態での戦闘であること。 そしてもう一つは……相手も、人間であること。 それなのに、頭の中に『敵を殺してしまうかもしれない』という意識を押し込めて、「そういうものである」と何となく感じ取ってしまっている自分が、少し恐ろしかった。 「、大丈夫か」 「……っ、はい、なんとか……」 機体ごしに、ゼンガーが問いかける。 は慣れない宇宙戦闘をよく戦っていた。 しかし、ふとしたことでバランスを崩し、つい今しがた、グルンガスト参式に庇ってもらったのだ。 「上下にも気を配れ」 「はいっ。もう大丈夫です」 言って二機はバーニアを吹いた。 直後、先程まで二人がいた空間を、光の粒子が通り過ぎて消えていく。 ここでは少しのミスも命取りになる。 判断が一瞬遅れていたら食らっていた。はビームの放たれた方向へヒュッケバインを向かわせると、一層強く自戒した。 推進剤が漆黒の宇宙に小さく尾を描く。 それとはまた別に、いくつもの閃光がこの宙域にきらめいていた。 命の光だ、とは何となく思った。 そしてその一瞬の思考の隙をつくようにして、敵機がヒュッケバインへと向かってくる。 すでに散開し、各個撃破の形を取っていた大空魔竜隊は、その通りそれぞれに戦闘中で、の援護に入れる距離の機体は無い。 迎え撃つしかない。敵機のパイロットから流れ出てくる思惟から、突撃の一言が見えた。 はヒュッケバイン肩部のファングスラッシャーを取り外し、構えた。 敵とぶつかるタイミングを見計らって、光の刃を出現させる。 交錯は一瞬。 すれ違うその一瞬に、ファングスラッシャーはあやまたず敵のコクピットを切り裂いた。 遅れて爆光。 「……ッ……!!」 はヘルメット越しに頭を押さえる。 直撃の瞬間、急に激しい頭痛が彼女を襲ったのだ。 「撃…墜……した……パイロットは、死んだ……か……」 抑揚の無い声がの口から漏れる。 彼女は先程の閃光が上がる刹那に、死にゆくパイロットの声を聞いたのだ。 脱出する間もない、驚くほど綺麗に直撃した。もちろん、中のパイロットも、機体と運命を共にしただろう。 ────シニタクナイ その瞬間のパイロットの叫びが、の脳に直接入り込んできた。 「……やだ……」 ぽつりと、軽い絶望の感じ取れる呟きを残し、はメットを脱ぐ。 気持ちが悪い。 人が死んだことではない。 ましてや、自分が人を殺したことに対してでもない。 その事実を目の前に突きつけられてなお、平然としていられる自分がだ。 「そうか……そうだ、私、前にもこんなことしてた……だからなんだ……」 一言ずつ、確認するように言葉が漏れる。 の脳裏にフラッシュバックが起こった。 以前にもこれと似たようなマシンに乗り、戦っていたこと……自分と同じような子供が、他にもいたこと。 そしてそのほとんどが、もういないこと。 「……ッケバイン……聞こえるか……どうした……」 「!!」 は呆然としたままヒュッケバインを泳がせていた。 宙間戦闘において、止まっている機体などただの的でしかない。 気が付いた時には、ヒュッケバインに向かってショットランサーが放たれていた。 ────直撃コース! とっさの判断で、動力部への被弾を防ごうと機体をそらす。 AMBACをフルに活用して、何とか姿勢を変えるが、それでも機体へのダメージは避けられない。 グラビティ・テリトリーが効いてくれることを祈って、はトリガーを握り締め、衝撃に備えた。 予想した衝撃は来なかった。 割って入った別の機体が、ショットランサーの直進コースを塞ぎ、射界を遮っている。 コードをデータベースに照らし合わせてみても、それらしいものはあるものの、どの機体とも一致しない。 その機体は変わった形のビームサーベルを抜き放ち、飛んできた攻撃を切り払ったのだろう、ヒュッケバインを守るようにその場に立ち塞がっている。 やがてその機体がゆっくりと振り返る。 識別不明ではあったが、はその白い機体に見覚えがあった。 フェイス部分がひどく特徴的な顔をしていたのだ。 「……ドクロマークの、ガンダム…………?」 『大丈夫か?』 「あ、は、はい……ありがとう、ございます」 オープンチャンネルで、ドクロマーク──クロスボーンの紋章を持つ、ガンダム顔のモビルスーツから、通信が入る。 まだ若い男の声だ。 男は、が返事をすると、その場から離脱する。 数瞬遅れて、そこを新たな敵機の放つビームが通り過ぎていった。 ガンダムが飛んでいった方向には、他にも数機のモビルスーツが編隊を組んでいた。 皆、それぞれに大空魔竜隊を援護し……クロスボーン・バンガードのモビルスーツを相手にしている。 さらに背後には、女神を模した戦艦。 援軍が来ていたのか。 ────援軍? そう反射的に認識してしまったが、相手はクロスボーンの紋章を持つ部隊だ。 つまりは、今戦っている連中と同じ組織のものなのである。 それなのに、なぜ自分を助けてくれたのだろう? その疑問が解ける前に、の意識は急速に現実へと引き戻された。 『ヒュッケバイン、応答しろ!、どうした?』 「!!」 大空魔竜から、動きのないヒュッケバインに向けての通信が入ったのだ。 その声に、先程自分がしたことを反芻する。 眼前には、爆散し宇宙を漂う残骸──── の表情はひどく険しくなっていった。 やがて大空魔竜へと返す通信のため、彼女は口を開く。 そこから出てきたのは、普段のからは想像も付かない、恐ろしく冷たい、声。 「ヒュッケバインMk-3、です。駆動系に異常発生、一時帰艦します」 告げると同時に、ヒュッケバインは残りの推進剤を絞り出す。 そのまま慣性に任せて大空魔竜までたどり着くと、着艦もそこそこにコクピットを這い出るように脱し、シャワー室へと走り去る。 気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い──── パイロットスーツも脱がず、思い切りバルブをひねる。 が思い出したのは、『ここ』に来て間もない頃の出来事。 そこではは、戦うことしか知らなかった。 そうして、何人もの『敵』を滅ぼしたのだ──今日のように。 熱いシャワーに打たれながら、は胃の中からこみ上げてくるものを吐き出した。 やがてふらふらと出てきたの目に映ったのは、火星の赤く焼けるような大地だった。 |
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久々に戦闘シーンをバリバリ書くぞー!と思って、できたのがコレです。 イベント戦闘風味にしようと頑張ってみましたが、どうなっていることやら…… ドクロなあの方も、残念ながら参戦させられません(笑)が、次回以降ちょこちょこと… |