「あ〜、日差しが眩しいな〜」
「そろそろ日光浴にも飽きてきたな」
「ブレンもマッサージが終わって気持ち良さそうだし、俺らも息抜きに外に出ねえか?」
「いいな!それじゃにも声かけて……」

ノヴィス・ノアのデッキにて、男性陣がそんな会話を繰り広げていた頃。


第九話 二つの再会


「すげ〜!おっきなビルがいっぱいだ!」
はしゃぐ子供たちを微笑ましく見ながら、は綺麗に舗装された大通りをゆっくり歩いていた。

Gアイランドシティに寄航中の大空魔竜に半舷休息が出たというので、彼女らは子供たちを連れて東京見物に来ているのだ。
保護者メンバーには、隊に入る前からのお母さん代わりを務める宇都宮比瑪、何かあった時にもそのまま戦闘形態に移行できる司馬宙。
そして、かねてより外の世界を直に見て回りたいと願っていたの三人。

と比瑪は、女の子同士和気藹々とお喋りしている所、少し離れて宙が歩いている。


「ところでさ、は気になる人とか、いる?」
「へ?」
だいぶ話が弾んでいたのだろう、比瑪は唐突にそんなことを聞いた。


「そ、そういう比瑪ちゃんはどうなの?」
「え?あたしは……ノヴィス・ノアには、いないから……」
「ふーん…戦争で、今は遠い所にいるってこと?」
「まあ、そんな感じ。それよりは?先に聞いたのはあたしの方なんだから、答えなさいよ」
「そうだぜ。質問に質問で返すのは良くねえぜ」
「宙さんまで…なんでそんなこと知りたがるんですかぁ……」


「私も、知りたいな……」
「え?」
の、すきなひと……?」
ふとそんな小さな声が聞こえたかと思うと、の右手にきゅっと力を込められる。
「い、イルイちゃん……?」
のすきなひとって、誰?」
思わずそちらを振り向けば、案の定。
くりっとした大きな瞳が二つ、に向けられている。
「えっと〜……」
「……誰?」
表情にはっきりと『好奇心』の色が浮かび上がっているが、その奥には「私、わたし」との答えを期待する…なにか、有無を言わせぬようなものが渦巻いている。

は気取られないよう心の中だけで溜息をついてから、にっこりと返した。
「もちろん、イルイちゃんだよ」
途端に、イルイの表情がぱぁっと明るくなる。
「ほんと?」
「うん、ホント」
「私も、大好き」
負けずにイルイも頬を緩めると、その勢いでに寄りかかるようにして腕を取り、跳ねるように足を速める。
イルイのこんなはしゃいだ様子は今まで見ることはできなかったので、も「まあこれはこれでいいか」などと思いながら少女に引かれて後を追った。


そんな二人の背後で、宙は小さく嘆息する。
「……ちぇっ、結局はぐらかされちまったか」
「ふぅん……?美和さんと一緒じゃなかったのはそういうことか」
「な、何だよ?」
「いいえ、別に?」
ずんずんと前を行く達に聞こえないよう、彼女らの背後でこんな会話があったことは、その後も知られることは無かったという。


そんなことがあってから、またしばらくの後。

「……あ、あれ?」
さっきまで歩いていた東京の街並みは、遙か下の方。
「ねえねえ、君、どこから来たの?おうちはどこ?」
「……おっきな竜…」
「うーん、困ったな…迷子なのかな……?」
「あのお姉ちゃんも迷子なの?大人のくせに」

「えーっと……」

どうして自分達はこんなところにいるのだろうか。
確か、クマゾーがふらふらと歩いていったのをはぐれないよう追いかけて行ったところまでは覚えているのだが。

「……まさか自分がはぐれちゃうなんて……」
はがっくりと肩を落とした。
今いる所は、おそらく先程見上げた大きな建物…都庁の上だ。
最上階と思しきその場所には、自分とクマゾーと、ずっと手を握っていたため一緒だったイルイ……そして見学に来ていたらしい子供たち。

大人のいないこの状況。
ここは自分で何とかしなくてはと決意し、はなぜか現地の子供たちと既に打ち解けつつあるクマゾーに向かった。


「クマゾー君、さ、一緒に帰りましょう」
「…?帰るも?」
「そうだよ、このままここにいたら、比瑪ちゃんとかが心配するし」
「比瑪姉ちゃん、いないも……?」

クマゾーはやっと状況を把握したのか、きょろきょろと辺りを見回す。
当然、そこに比瑪たちの姿など見えない。
一気に不安そうな顔になるクマゾーに、は微笑んで手を差し出した。

そして、その手が取られる瞬間。


「あ、あああ……!」

束の間の平和な時間は、一瞬にして崩れ去る。

ビルの窓からはっきりと見える、異形の姿。
全身をメタリックな光沢が包み、それが堅牢な鎧と化している。おそらく、生半可な攻撃ではびくともしないだろう。
「あ、あれは何?敵…なの?」
は全身がぞくりとするのを感じた。
眼前に現れた『機械の獣』に恐怖した、それだけが原因ではない。

『あれ』から何か、意思のようなものを感じたのである。


「駄目だ!エレベーターが動かねえっ!」
背後から子供たちの悲痛な声がした。
しかし、現段階ではにどうすることもできず、ただ街を見下ろすだけで──
「あ、宙さん!?」
幸運にもの目は、視界の端に小さく映るサイボーグをとらえた。
どうやら向こうも、こちらの位置を察してくれたのだろう。サイボーグ姿になった宙は、ビルに向かってまっすぐに突き進む。

しかし、宙が到着する前に、別の──そう、もう一人のサイボーグ(・・・・・・・・・・)が現れたのだ。


(え?あれって……もしかして、凱さん!!)


遠目ではあったが、にはすぐにその正体が分かった。
少し前、自身が単独行動を取った際に保護してくれた組織、GGGにいた、金色のサイボーグ、獅子王凱。
その姿は、到底忘れられるものではない。

やがて宙も到着し、二人で協力して救出活動を行ってくれるものとは思ったが、実際はそうではなかった。
「な、なんで、戦ってるのよ!?」
大空魔竜隊にいる司馬宙。GGGの機動隊長獅子王凱。
二人が戦う理由はどこにも無いはずだ。

もしかして、お互い相手を敵組織の者だとでも思っているのだろうか。
そうふと思いついた瞬間、は思い切り声を上げていた。
「宙さぁーん!凱さぁーんっ!!戦ってる場合じゃないですーっ!!」

サイボーグの耳には、遠くの声も明瞭に聞こえた。

「え?この声…?」
「何?なんでお前がを知ってるんだ!?」
せり合っていたナイフを下ろし、先にの方を向いたのは凱。
それに驚いたのは宙の方だ。

なんで、コイツがのことを?

「GGGで、ちょっとな。とにかく今は子供たちの救出が先だ!」
宙の疑問に曖昧に答えると、凱はビルの上部へとジャンプした。
「……しかし、こんなに早く再会するとは思わなかったぜ…しかもホントにとんでもない所で、な」
その呟きは、風に吹かれて消え、他の者の耳に届くことは無かった。


そして凱は先程言ったとおり、あっという間に屋上まで上がり、子供を一人抱きかかえた。
その子は凱を見ると目を輝かせる。本当に助けに来てくれたのだ…と、今にもはしゃぎだしそうな様子だ。
「うわっはぁ!おじさん、ありがとう!」
「おいおい…おじさんはないだろう。これでもまだ、二十歳なんだぜ?」
凱はその言葉も苦笑しながらかわすと、その子供を宙のところへと連れて行く。
自身も、イルイの手をしっかり握り、もう片方にはクマゾーの肩を抱えながら脱出しようとした。
「あの、凱さん……」
「話は後だ。君は彼と協力して子供たちを安全な場所へ!」
「は、はいっ!あ、でも凱さんは……?」
凱は強気な笑みを浮かべたまま。
一緒に脱出しないのだろうか?そんな疑問がの頭に浮かんだ、その次の瞬間。

「俺があのロボットを引きつける!だから早く子供達を!」
「ええっ!?ちょっ…」
「お、おい!」
と宙は同時に叫んだが、既にそこに凱の姿はなかった。

凱を心配な気持ちもあったが、しかし今はそれよりも子供達を避難させる方が先だ。
二人は子供達を連れて、今も正体不明のロボットの危機にさらされているビルから抜け出した。


「……ああもう、凱さんに加勢できないのが……」

ようやくビルを脱出できた今、は都庁から少し離れた陰で、子供達と一緒に凱──ライオンメカとフュージョンしたガイガー──の戦いを見守っていた。
既に比瑪はノヴィス・ノアから来た支援のおかげで、ブレンパワードに乗り戦っているというのに。

はただ見守るしかない自分をもどかしく思った。


が。
勝負は意外にもあっさりとついた。

何度攻撃してもすぐに再生してしまう敵──ゾンダー、と凱が呼んでいたが──だったが、凱はそれにも怯まず、さらに別のメカと合体……ガオガイガーとなり、相手に再生の暇も与えず核を取り出してしまったのだ。
だが、無理をしてしまったためか、ガオガイガーもすぐに撤退していく。
一体何が起こったのかここから分からない。ただ、その場所に何らかの力が働いていたのを、は感じた。
は凱の身を案じつつ、それでも一応の脅威は去ったと胸を撫で下ろしかけた、その時だった。


「な、何、この音楽!?」

区画内に、大音量のクラシックが流れ始めた。
記憶を失ったにも、それが何の曲かは理解できた。シュトラウスの『美しき青きドナウ』だ。
そして、その優雅なワルツの流れる中────


巨大な戦艦が二隻、その姿を現した。
「……何……?」
はしばし絶句した。
戦艦のうち一隻は、以前見たことがある。要塞のような姿をしたそれは、『グッドサンダー』と呼ばれていた瞬間移動する艦だ。
もうひとつの、白い戦艦の方はというと……先程から垂れ流されている大音量のクラシックの発信源はそれだった。

白い戦艦から、大量のマシンが吐き出される。あれは確かドクーガの擁する戦闘用メカだ。
対するグッドサンダーの方は、いつぞや見た特機、ゴーショーグンが発進した。
「もー、何この人たち?」
街のことなどお構い無しにゴーショーグンを倒そうと戦闘を開始するドクーガメカから避難すべく、は子供達を連れてその場をゆっくり離れていく。
何とか安全圏と思しき地点まで離れると、都庁で知り合った子供たちをまっすぐに帰らせ、自分はイルイとクマゾーを抱えて木陰に身を隠した。

しかし、せっかくの木陰は強風にさらされ、瞬く間に吹き飛んでしまう。
戦闘がここまで広がってきたのか、と顔を上げて、はやっとそのわけを知った。

彼女らのすぐ上空に、大空魔竜が浮かんでいた。


さん達を回収しました!」
「よし、すぐに出撃してくれ!」
ブリッジからの命がデッキまで響いてくる。
はイルイ達をクルーに預けると、すぐさまパイロットスーツに着替え、ヒュッケバインに乗り込んだ。



敵の戦艦──やたらと『美しさ』にこだわる妙な男だったが──は撤退し、グッドサンダーもワープして行ってしまい、はやれやれと大空魔竜へと戻っていった。
東京観光のはずが思わぬアクシデントに巻き込まれてしまったが、それでも近しい人を守ることができたという達成感に、は清々しい気持ちでシャワーを浴びようと艦内を歩く。

そこで彼女は気付くべきだった。
グッドサンダーとともにワープするはずの、あのロボットが、その時に限ってそばにいなかったことに。


艦内通路の真ん中に、何やら妙に馴れ馴れし……いや、気さくな笑顔でこちらに向けて手を振っている三人の男女の姿。
彼らはを見つけると、フレンドリーに声をかけた。

「ハーイ、また会ったわね」
「え?えー……は、はじめまして?」
が首を傾げると、三人は顔を見合わせて何やら笑みを浮かべる。
「まあ確かに、直接会うのは初めて…かな?」
「だけど、俺たちの活躍はちゃーんと見てくれてただろ?」
「えっと……もしかして……ゴーショーグンに乗ってたのって……?」
「ウィ、そゆこと。ま、これからヨロシクね」
「ん?どうした、固まって」
「フ、決まってるじゃないの真吾さん。ブロンクスの狼に見惚れてたんだろ?」
「いえ……なんていうか……イメージ通りっていうか……」

が今まで見てきたパイロット達とはダイブイメージの違う軽い言動の男女三人を前に、しばし固まる。
今日体験した、二つ目の再会であった。




えと、ガガガお子様チームがヒロインを「大人」と言いましたが、あの年頃の子は
相手が10代でも大人だと思ってしまうものなので…ヒロインの年は設定してません(笑)念のため。
あと、原作男女カプ好きの私ですが、凱兄ちゃんは渡しません(笑)

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