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前大戦を生き延び、何とか平和を取り戻そうとしていたその都市に、再び戦火が襲い掛かっていた。 第七話 遙か未知へ 「ああっ…!ケン太君の家が!!」 通信越しにクスハの悲痛な声が聞こえてきた。 「知り合いの家?」 「う、うん…!」 全周囲モニターの一部が切り取られ、そこに不安げな表情のクスハが映し出される。虎王機が攻めてきた時の状況を考えれば、彼女もこのあたりに住んでいて、それで顔見知りなのだろう。 だが今は感傷に浸っている暇は無い。 戦闘は既に始まっており、どこのものか知らない大部隊と、地面より出てきた機動要塞、そして人型ロボット一機とが対峙するかたちをとっているのだ。 だが、そんなクスハの声を待ち構えていたかのように、通信が割り込んできた。 「ケン太?ああ、その子ならサバラス隊長が助けたよ」 そこに緊迫した状況などまったく感じさせない余裕の口調。 「えっ!?ホントですか!?」 「よかったね、クスハちゃん」 「うん!」 モニター越しに破顔した彼女の表情が見えた。も同じくほっと安堵の溜息を漏らす。 そして、虎王機襲撃の際にクスハと一緒にいた少年のことを思い出した。 もしかしたら彼が『ケン太君』なのかもしれない。 ともかく今はこの惨状を何とかすることが先決だ。 今回、GGGは先程の戦いで負ったダメージのため出撃はできない。最悪、とクスハのみで戦わなければならない。 しかし。 大丈夫、戦える。 決意も新たにはライフルを構え、トリガーに指をかけた。 ヒュッケバイン内部のライブラリ内を照合してみると、奇妙な形の戦艦と多数の戦闘機とで編成された大部隊は、秘密結社『ドクーガ』のものであると判明した。 もう一方、要塞のような戦艦と、『ゴーショーグン』と呼称されていた大型機動兵器の方は、何のデータも入っていなかったが、おそらく襲撃に出くわしてしまったのだろう民間人の少年を助けるところをみると、信用していいのだろう。 はそう直感的に判断すると、今にも戦艦に飛び掛りそうな一機の戦闘機──インパクター──に向けてぴたりと照準を合わせる。 「攻撃…開始します」 静かに言葉が紡がれ、同時に操縦桿についたボタンをぐっと押し込む。 光がドガーブに吸い込まれた、と思ったのは一瞬で、気が付いた時にはもう機体は閃光に包まれていた。 少し経ってから、ライフルが放たれたことを示すように発射音が空気を震わせる。 「よし、次っ!」 三機編隊を組んでいた敵の残りが慌ててたちの方に旋回する。 予想外の側面からの攻撃に対処すべく、それらは猛スピードで迫ってきていたが、は回避行動も取らず別のターゲットに狙いをつけている。 もちろん、被弾することを許したわけではない。 何故なら、彼らは攻撃することすら許されず、ヒュッケバインに気を取られたまま撃墜されてしまうのだから。 「お願いね、龍人機……伸びて!金箍棒!!」 クスハが一閃する。龍人機の手から放たれたそれは狙いを過たず、敵機に向かって一直線に伸び、残りの雑魚を一掃する。 撃墜され、地に落ちる間も与えられず、戦闘機は空中で爆散した。 「ヒュ〜、やるねえ」 通信機から男の軽口が割り込んできた。 数で言えば明らかにこちらが不利だというのに、彼らの口調にはやはり微塵の焦りもない。 「真吾、若い子にばっかり任せてらんないわよ」 「なあに、年の差は関係ないさ」 「そうそう、愛があればね?」 「そーいうことを言ってるんじゃないでしょ〜?」 彼らは通信回線を開いたまま、また例の軽いやり取りを始めるが、しかし敵の攻撃には全く怯む様子もなく、着実に敵の旗艦へと詰め寄って行っている。 ゴーショーグンが活路を開いてくれたおかげで、たちもさして労することもなく、容易く敵の懐に飛び込むことができる……そう思った時だった。 『ええい、何をしておる!たったあれだけの奴らに!』 自らの艦の中で、ケルナグールが激昂の声を上げた。 そもそも今回の任務は、同僚のカットナルにいい様にこき使われてしまったに過ぎないのだ。 そのこともあり、彼は思う通りに行かない目の前の戦いに拳を振り上げ、ゴーショーグンやらの機体やらに攻撃が届かない代わりに、艦の内装をその手でめちゃくちゃに破壊した。 同時に残りの戦力を全て出すよう命令を下す。 敵は全て、ほぼ一直線に艦に向かって来ている。その側面を突けば、大ダメージが期待できるはずだ。 『そうだ、全部出せ!まずはあのゴーショーグンとやらから……』 「おっと、そうは行かないぜ!」 『な、何っ!?』 全回線に割り込むようにして告げられる、力強い声。 「み、みんな……」 既にデッキから射出された特機の軍団が、ケルナグールを挟んでたちのちょうど反対側に展開していた。 (どうしよう、今までのこと何て言えば…) 心強いはずの援軍到着なのに、は心中穏やかではなかった。 そしてそれは、大空魔竜側も同じであった。 「お、おい……あのヒュッケバイン……」 「あ、ああ…だ…よな?」 「それに、あっちのロボットは、もしかして…」 「で、でも何でこんな所に龍虎王がいるんだ?」 敵の目の前だというのもお構い無しに、パイロット達がざわめく。 出て行ったはずのの機体を見つけ、さらにはかつての戦友と再会までしてしまったのだ。 激しいはずの戦場が、一瞬静まりかえる。 沈黙を破ったのは、龍人機を操るクスハだった。 「みんな……久しぶり」 「クスハ!お前かよ?でも、どうしてお前がと一緒に……」 「それは……」 「、みんな心配したんだぞ!どうして……」 クスハがいると分かると、皆めいめいにそれまで閉じていた口を開く。 逆にの方は、どう言えばいいのか迷い押し黙ってしまった。 「みんな、話は後だ。今はドクーガ野郎の相手をしようぜ!」 他メンバーの声を遮るように放たれた甲児の言葉に、は内心安堵の息をつく。 理由があったとはいえ、単身大空魔竜を抜け出してきたのだ。それも、他から見れば自分勝手な理由で。 後でこっぴどく叱られる……どころではない、と頭では分かっていても、やはり戦闘中に余計なことを考えていると命取りになりかねない。 ともかく今は目の前の敵を倒すことだ。 は自らの頬をぴしゃりと叩き、ケルナグール艦をきっと見据えた。 だが、そんなの懸念もむなしく、大空魔竜戦隊とゴーショーグンたちとの連携により、敵陣はあまりにもあっさりと崩れ落とされる。 『ぬうう…この役立たずどもめが……!』 包囲された形になった艦の中、ケルナグールは歯を噛み砕かんばかりに食いしばった。 こうなれば自ら攻撃を加えるしかない。そう決断するが早いか、艦が加速する。 『元ボクシングチャンピオンの実力を見せてやる!』 叫び、ゴーショーグンに向かってさらにその進みを速める。 ケルナグール艦の先に取り付けられた巨大な『つの』で、突撃をしようという魂胆か。 「何だ、フライドチキンだけじゃないのか」 ゴーショーグンのメインパイロット、北条真吾は先程と変わらぬ口ぶりで突撃に備え構えを取るが、僅かに声色から真剣味が感じ取れる。いかな特機といえども、あのツノ付きの体当たりが直撃すればさすがにひとたまりもない。 「どうするの、真吾?」 コクピット内にレミー島田の声が響いた。やはり彼女も口調は軽いが、このピンチを決して軽く見てはいない。 それを受けてのことか、真吾はモニターでも分からないくらい小さな笑みを口端に浮かべた。 敵艦が迫ってくるタイミングを見計らって、眼前のボタンを押す。 笑みが消えた。 「一か八かだ。ゴーフラッシャー!!」 叫ぶと同時に、機体の背面から五条の光が迸った。 『な、何っ!?くそ、前が見えん!』 思わずケルナグールは腕で視界を遮るが、艦の突撃は止められない。 艦はそのまま光の中に突っ込んだ。威力が殺がれ、熱と激しい震動が艦内を襲う。 『うおおおおおっ!?』 ゴーフラッシャーの光がケルナグール艦に当たると同時に、真吾はバックステップを取りつつ衝撃を軽減させた。 両者がぶつかり合い、辺りに水蒸気が舞う。 その一瞬の激闘を、をはじめ、他の者たちは皆自分の目の前の敵のことも忘れて見入ってしまっていた。 「ど…どうなった、の……?」 戦闘中であることがまるで嘘のように静まり返ったその場所で、はおそるおそる先程の衝突の中心に目を向けた。 そこには。 『ふ、フフフ…ゴーショーグンめ、この程度か…』 「……参ったね、こりゃ。やっこさん、相当硬いみたいだ」 白煙を上げつつも何とか立ち尽くす機体。 真吾はそれでも余裕のありそうな口調を崩さなかったが、もはやまともに戦える態勢には見えない。 一方のケルナグール艦はというと、同じくぶすぶすと煙を上げながらも、戦闘不能となるような損傷は見当たらない。 機体の元々の質量の差を見せ付けられている。 「ちょっと真吾、どうするの?ピンチよこれ」 いささか緊張した様子でレミーが告げる。見ればケルナグールは、再度突進を試みようと艦を僅かに後退させている。 だが、ケルナグールは失念していた。 目当ての真田博士を手に入れられなかったばかりか、自らの前に敵として立ちふさがってきたゴーショーグン。その最期となるかもしれない今この時に気を取られ。 「お前らばっかりにいいかっこさせられないぜ!」 「ああ、後は俺たちに任せろ!」 敵はゴーショーグンだけではなかったということに。 「よしみんな、俺たちの力を見せてやろうぜ!!」 力強い声と共に、高速でケルナグールに接近する機体が三つ。 それらは一見バラバラに移動するように見えたが、実に正確な三角形を描きながら敵艦を取り囲む。 そのうちの一機──ガイキングが、一歩前へとにじり寄った。 「どんな強敵にも、俺たちは屈しない!」 サンシローに呼応するように、流竜馬はブラックゲッターを急上昇させる。 「そう、この一撃はまさに、神が穿つ大いなる渓谷!」 黒い機体が一瞬太陽と交錯し、ケルナグールの視線から消えた。 それに気を取られているうちに、ケルナグール艦の真正面にダイモスが立ち、両腕を開いた。 「行くぞぉっ!ダブルブリザァァーードッ!!」 ダイモスの開いた胸部から、二つの竜巻が唸りを上げた。 『ぬおおっ!?』 並の機体なら一瞬で吹き飛んでしまいそうな風力だが、それだけではケルナグール艦の重量には堪えない。 しかし、そんなことは一矢も見抜いていた。 僅かに浮いた艦の上部に、今度は熱線が降り注ぐ。 「ゲッタァァビーームッ!!」 『ぐッ!?ええい、何をしておる!撃ち落とせ!!』 慌てて上空を迎撃させようとするが、時既に遅し。 ほんの少しだけタイミングをずらし、ガイキングが側面から炎を浴びせる。 「ハイドロブレイザァァーーッ!!」 三方からの攻撃。 ケルナグール艦は、もはや逃げ場を失ったも同然だった。 「今だ、一矢!」 「おう!烈風…正拳!!」 竜馬の声を合図に、一矢は機体を加速させ、一気に艦に突っ込んでいく。 もちろん、落とすのを焦ったわけでもデタラメな格闘攻撃を加えるつもりもない。彼の一撃はどこまでも正確だ。 そして同時に、ゲッタービームを放ったままのブラックゲッターが、上昇した時と同じように急降下をかける。 竜馬は至近距離でなお、艦にゲッター線エネルギを放出し続けていた。 そしてそれは、側面に回っていたガイキングも同じで。 「ファイナル!」 気合と共に、一矢がダイモスの拳をさっと引く。 二つのエネルギーの奔流の重なる一点を見切り、そこに狙いすました正拳突きが叩き込まれる。 「「「ゴォォッド!バレェェーーーッ!!!」」」 二つの熱で灼かれ、異様な上昇気流の出来上がっていたそこに、さらにもうひとつ力が生じる。 それはケルナグール艦上部を一直線上に走る、巨大なエネルギーの『道』となっていた。 『ぐ、おおおおっ!!』 堅牢なる装甲を誇る船体さえも、この連携の前には無力だった。 ケルナグール艦の上部装甲面には、谷のような巨大な傷跡が穿たれている。 『おのれ!余計な邪魔が入りおったわ!今日のところは引き上げだ!!』 黒煙を撒き散らしながら、ケルナグールは捨て台詞を吐き、尻尾を巻いて撤退して行った。 「……おいしいところ、全部持ってかれちゃった」 途中からは、もはや観戦モードに突入していたは、三機の鮮やかな連携──『合体攻撃』とでもいうのか──に完全に見入ってしまい、敵艦の姿が見えなくなったころ、ぽそりと呟いた。 再び大空魔竜の前に姿を現し、その後自分に下されるであろう処遇のことを一瞬忘れて。 |
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やってしまいました捏造合体攻撃。いやでもスパロボやってたら誰もが一度は考え付くネタだと思うので…ですよねっ!? ちなみに何でゴッドバレーかは…ま、分かりますよね(笑) にしても、ヒロインにスポット当たらなさすぎてすみません…いや、ちゃんと版権にも活躍の場を…(汗) |