第三話 FELLOWSHIP


「参ったなぁ……大空魔竜がこんなに広いなんて」
ぶつぶつとこぼしつつ、は広い艦内を歩き回っていた。
フジヤマ・ミドリの言っていた通り、ゼンガーが本当にここに留まるのか少し不安だった。
義理堅い男ではあるが、反面、直情的な所もありいきなり飛び出してしまうかもしれない。この数日でがゼンガーに感じたことである。
自身の立場のこともある。
ゼンガーに協力しようとは決めたが、自分の過去が気にならないわけではない。だから、このまま大空魔竜と行動を共にして記憶探しをしたい、との思いもあるのだ。
第一、あんな二機きりの強行軍などはやりたい部類の行動ではない。


考え事をしているうちに、いつの間にかの前方に開けた空間があった。そこは談話スペースらしく、ドアを閉め忘れたのか中の様子が丸見えになっていた。
そこから数人の話し声が聞こえてくる。

「……例のあの女、どうやらティターンズと関わりがあるらしいな」
「ええ…でも本人には記憶がないって話だし……」

「……!」
は慌てて通路の陰に身を隠す。
一人は自分を助けてくれた、グレートマジンガーの中から聞こえてきたのと同じ声だ。それが、今度は自分をどうやら疑いの目で見ているらしい、ということが声色から見て取れた。

やはり自分は、かつて地球を守るという大義名分を振りかざし、スペースノイドやいるのか分からない異星人たちを弾圧し排除しようとしていた、その仲間だったのだろうか。
今その思想について問われても、「それは間違っている」とはっきりと言える。しかし、過去の自分にはそれが正しいことだったのか。

自分が分からなくなってくる。
しかし、思考に飲まれそうになっているをよそに、その話は続いていた。
それは否応無しにの耳に入ってくる。
「とにかく、しばらく様子を見たほうがいいわ」
「そうだな…彼女の様子からすると、どうも自分がティターンズかもしれないということに嫌悪を示しているようだからな」
「あら、鉄也が他人を気にするなんて珍しいわね」
「くぅ〜!ジュンだけでなくちゃんまでなんて羨ましすぎるわさ!」
「こ、こら、ボス!」

「……あ、れ?」
聞こえてくる会話から、いつしか笑い声が混じるようになっていた。
それが気になってか、陰で聞いていたはそっと部屋の中へと顔を向けた。
彼らはそれを気にする様子も無く、中央に立つ男──剣鉄也をからかっているように見えた。
彼、鉄也はゼンガーに匹敵しようかという仏頂面をさらに歪めて、普段沈着冷静な表情を保っている頬は引きつり、うっすらと赤みが差している。滅多に見られない光景だ。
その様子があまりにおかしかったので、思わずは出て行くことを忘れ、いまだその会話にじっと聞き入ってしまっていた。


「そ、それよりあの斬艦刀を振るうPTのことだ」
照れ隠し交じりに言ったのだろうが、鉄也のその言葉で室内はいったんしんと静まり返る。
それは側で耳を傾けていたも同じことだ。今までに何度も、彼らはゼンガーを知っているようなそぶりを見せていた。ここでゼンガーに関する情報がほんの僅かでも手に入るかもしれない。
自然に拳に力が入り、唾を飲み込む。壁から乗り出した体勢で体の半分以上があちらから見えることになってしまったが、それも構わず三人を見続ける。

そして知った。
かつて彼らが遭ったゼンガー・ゾンボルトという男のことを。
哀しい未来の結末を。
「そ、そんな……ことが、あったなんて…………」
張り詰めていた糸が切れたかのように、の腕から力が抜けていく。へなへなと床に崩れ落ちて、地に手をつきながらも、瞳はまだ語り続ける鉄也たちのもとにあった。

少し前……たちが目覚める前、宇宙怪獣と呼ばれる人類の敵を葬り去った時の余波が衝撃波となってこの地球を襲ったという。
そして彼らは、その衝撃波を防ぎきれなかった未来の地球へ行き……未来世界での人類の敵、アンセスターとなったゼンガーと戦ったというのだ。
地球を、そして人類を守るためのアースクレイドルが、その施設ごと人に牙を剥く。

そこまで聞いて、ははっ、とした。
力の入らなかった身体に渇を入れてよろよろと立ち上がると、静かに部屋の中に一歩ずつ、足を踏み入れていく。
そう、自分もゼンガーと同じく、アースクレイドルで眠っていたものなのだ。
「それって……それって、まさか、私も……」
壁沿いにゆっくりと進みながら震える声で疑問を口に出す。
顔は鉄也たちの方を向いてはいたが、それは自分で確かめるために出た言葉だ。

「!、聞いていたのか……」
「教えてください!本当にそんな未来が待っているのか……だとしたらゼンガーさんは…私は、あなた達のっ!」
驚き、目を見開いた鉄也には食ってかかる。
握りしめた両拳を胸の前で震わせ、必死の形相で何かを訴えるように。
「いや、確かアースクレイドルでコールドスリープに入っていた者たちは、ゼンガー少佐を残して全て──……」
「鉄也!」
慌ててジュンが止めに入る。をかばうように自分の身体を間に割り入れ、申し訳なさそうな視線が向けられる。
は首をゆるりと横に振ると、鉄也をまっすぐ見据えた。
「続けてください……どうせ記憶が無いんです。たいしたショックではありません」
なるべく冷静に、落ち着いて言ったつもりだったが、それでも声は震え、拳は爪で掌に傷が付きそうなほどに固く握られていた。

だが、がそんな状態なのも構わず鉄也は続きを聞かせた。即ち──アースクレイドルのゼンガー以外の人間は全て死に絶え、ソフィア・ネートに至ってはマシンセルを注入され管理コンピュータに意識を乗っ取られた──ことをだ。
はそれを唇を噛み締めながら聞いていた。自分がその未来において死んでしまっていることよりも、人類の希望として建造されていたはずのアースクレイドルが戦いを引き起こしていたという事実に対して、は悲しみを禁じえなかった。
鉄也にしてみれば、話を聞かれてしまった以上中途半端な知識ではもどかしいだろうと思い話したことなのだが、はこの時、立ち聞きしていたことを心の底から後悔していた。

「鉄也、もうそのくらいにしておいた方が……」
「……う、うむ」
さすがにの様子に気付いて、ジュンは鉄也の話しているのを手で制した。
いささかばつが悪そうに、鉄也が不器用なフォローを入れる。
「だがこれは衝撃波が地球を襲った未来での話だ。現に、今俺達のいるこの地球は無事なんだ。といったな…お前と、そしてゼンガー少佐はこれから新たな自分の未来を選択することになるんだ」
「……そう、ですね……私はともかく、ゼンガーさんにとってその未来は、悲しすぎますから……」

鉄也の言葉に、深く頷く。
アンセスターとなる、という未来が選択されなかった今を、もゼンガーも、生き抜いていかなければならないのだ。


「ああ、こんな所にいたのね!」

それまでの重い空気とは無縁のようにも思える明るい声が聞こえてきた。
見ればそこには、ビニールに包まれた布地をいくつか抱えたミドリの姿。

「ミドリさん?どうしたんですか、それ?」
「マオ社製のパイロットスーツと着替えよ。余り物だけど、よかったら使って頂戴」
言われてははっ、と自分の身体を見返してみた。
黒を基調とした地球連邦軍デザインの軍服。一着しかなく、先日大空魔竜に乗ってから着たきりスズメなのだ。
なによりどう見てもティターンズとしか思えない服しかないのは考え物である。
「ありがとうございます!これでやっと洗濯できます……!」
「あら、服だったら私のお下がりも貸してあげるわよ」
「ホントですか!?」
「ジュンの服はちゃんには大きすぎるわさ。特にその、む……」
そうボスが言いかけたところで、突然押し黙る。彼を鋭く睨みつける瞳が6つ、光っていた。

「……ボス。ちょうど体がなまっていたところだ。訓練の相手をしてもらうぜ」
そのうちの二つの瞳がボスににじり寄る。低い声を響かせボスの首根っこを掴むと、鉄也はそのまま彼を引きずってトレーニングルームへと向かう。
「ヒィー!て、鉄也ぁー!俺が悪かった!たぁーすけてくれぇ〜!!」

「……自業自得ね」
「ボス君、大丈夫かしら……?」
「…………む、って何だったんだろう……」
ボスの悲鳴を聞きながら、女性陣はそれぞれ肩をすくめ、力なく笑った。


ダイモビックへ到着した時。
そこは既に戦場へと成り変わっていた。

が、しかし。
そこは歴戦の超電磁ロボと、そして闘将の活躍により、すでに終局に近づきつつあった。
結局たちと大空魔竜戦隊は、さしたる戦闘行動も無く敵と思しきロボット達は撤退を始める。

ただ、ひとつ。
「新たな使命を得た我が斬艦刀……その身でとくと味わえっ!!」
復讐の剣から、今の時代の平和を守るための剣へと生まれ変わった男を除いては。


敵機の反応が完全に消え去ったのち、大空魔竜はダイモビックへと入った。


「なあ、あの戦艦から出てきた奴の中にヒュッケバインが無かったか?」
そう言って真っ先に格納庫へと駆け出したのは、コンバトラー隊の葵豹馬。
ドアが開くのももどかしく、立てかけてある深い色のPTへと真っ直ぐに向かう。この艦にかつての戦友が乗っているかもしれない──そう思うと、不思議と心が弾んだ。

機体に近づくと、早速豹馬は近くに立つ少女に声をかけた。
「この機体のパイロットって誰だ?」
肩がぴくりと動いて、少女は振り返った。ヒュッケバインの足元のあたりに立って、何かをチェックしていたのか手には小型の端末を抱えている。
「はい、私ですけど?」
「えっ!?お前が……!」
「ええ。です、よろしくね」
少女──はにこりと微笑むと、片手を豹馬に差し出した。
いきなりのことに僅かに頬を染めつつも、一瞬遅れて豹馬も手を出す。
二つの手が握り合う、その直前に、背後から聞こえてきた別の声によってそれは遮られた。

「うわー!本当にヒュッケバインですよ!」
「ホンマや……ところで、豹馬と仲良うしとるお嬢さんは誰や?」
ぞろぞろと格納庫に集まってくる、豹馬と同じ格好をした四人の男女。彼らこそがコンバトラーVのパイロット、バトルチームの面々である。
「みなさん、ヒュッケバインのこと知ってるんですか?」
記憶の無いが、バトルチーム、および前大戦について知る由も無い(知識として、ならばある程度のことは知っているつもりだったが)。
首をかしげたままのに代わり、ヒュッケバインMk-Vとそのパイロットを紹介したのは豹馬であった。


加えて、豹馬からバトルチームの皆についても紹介してもらい、は改めて自分がこの機体のパイロットであること、記憶を失っていること、そしてゼンガーと同じくプロジェクト・アークに参加していた人間であるらしいということを話した。
彼らもゼンガーのことは知っている様子が見受けられたが、それに関しても、彼にはその件については何も言わないで欲しい、とも付け加えて。


「そうか〜、ヒュッケバインだからてっきりあいつが乗ってると思ってたのになあ」
「あいつ?」
「ああ、昔バルマー戦役で一緒に戦った、仲間だよ」
「仲間……」
そしてまた、は彼らから、自分と同じ機体を使って前大戦…バルマー戦役を戦った者がいることを聞いた。
懐かしそうに語る彼らの思い出話によって。

思い出……自分には無いものだ。

「仲間、か……なんだか羨ましいな」
その思いが、にそんな言葉を発させた。
「何言ってんだよ、俺達だって仲間だろ?」
「え?」

はきょとんとして豹馬の方を向いた。
そこには豹馬──だけではない、バトルチーム全員の笑顔があった。
そう、『を受け入れる』そう語りかけている表情だ。
「そうよ。私達、これから一緒に戦う仲間なんだから」
「ああ、よろしくな、!」
「……はい!よろしくお願いします!」

も彼らに負けない笑みを見せた。仲間同士だけに向けられる、屈託無く、背中をあずけられる信頼感のこもった、そんな顔を。


補給作業を終え、ビッグファルコンへ向けて大空魔竜はダイモビックを飛び去った。新たな仲間、バトルチームとダイモビック隊も一緒だ。
ヒュッケバインの整備も終え、一息ついていたに近づいてきたのは、この艦の責任者でもある大文字博士だった。
「どうかね。艦内にはもう慣れたかね?」
「はい。皆さんとても良くしてくださってますし……しいて言うなれば、もう一度ピートさんとゆっくりお話しする機会が持てればと」
「ふむ……君もなかなか気の強い子だな」
大文字の分のコーヒーを汲み、テーブルの上に置きながらそんな発言をすると、彼は苦笑いをしてカップを手に持った。

休憩室が一瞬心地よい沈黙に包まれたのち、どちらからともなく押し殺したような笑い声が漏れた。
「そういえば、一つ聞きたいことがあるんですけど……この艦は極東支部に向かうってことは、一応は連邦軍に協力している扱いなんですよね?なのに民間人をあんなに簡単に乗せちゃってもいいんですか?」
の素朴な疑問。大文字は一瞬ぽかんと口を開いたが、すぐに普段と同じ優しげな笑みを浮かべた表情に戻る。
「なあに……三輪長官のことならどうとでもなるさ。それに、かつてのロンド・ベルは、多くの民間協力者たちに支えられて戦ってきた。我々はその志を汲んでいるのだ」


艦は一路、ビッグファルコンへ。




さて、増えてきましたねー人数が!賑やかになる反面一人一人を描写しづらくなります(笑)
とりあえず今回はバトルチームと接触ということで!
この中からは誰が参戦するんでしょうか。一矢は無理として(エリカがいるからね)豹馬あたりも鈍くて微妙ですよ…

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