仮面の下は『彼女』のもとに


第三新東京市。
今ここに、残り少ない日本中の電気がかき集められていた。


第五使徒ラミエルの狙撃を担当するエヴァンゲリオンと、その護衛のマグネイト・テンの預けられているのだ。

それだけではない。
それらの横には、電池の尽きた電童が横たわり。
さらにその脇に発電用の自転車が立ち並ぶ。

このタイミングを狙って出現するであろう騎士凰牙に対応するため、そして現れるかもしれないデータウェポンを手に入れるための、苦渋の作である。
しかし、電童のパイロット二人も、そして発電に協力している人々も、決して諦めたわけではない。
そこにいる皆がみんな、地球の平和のために出来ることを、今率先してやろうとしているのだ。


「……で、これは本当に何なんダワ?」
「いいジャン!こぐジャン!」

一部を除いて。


その戦いのさなか。は、エネルギー関係に明るいという理由で、ネルフのスタッフと共にポジトロン・スナイパーライフルへの送電を手伝っていた。
今回の作戦には、彼女の持ってきたあらゆる方面の特殊エネルギーについてのレポート(一体どこから手に入れたのかというようなものも混ざっていたが)が、かなりの功を奏していた。
「いい、シンジ君。日本中の電気、あなたに預けるわ」
『はい!』
葛城ミサトがそうメッセージを送ったきり、パイロットとの通信はいったん切られる。
あとは彼らを信じて、自分の仕事をするだけなのだ。


そんなことがあってから、数分が過ぎていた。

「何ですって!足りないの!?」
が普段からは考えられないような取り乱した声を出した。
EVAへの送電システムは正常、エネルギーバイパスも予定通り繋がり、途切れることなく充填途中のことである。
GEAR側から入ってきたその通信内容、それは『自転車発電の一部の接続が悪く、予定通りのエネルギーに満たない』といったものであった。
これでは電童の起動が間に合わなくなる可能性も出てくる。

ネルフ内に一瞬で緊張した空気が張り詰めた。
しかし、こちらも作戦途中なのだ。ここで騒いでしまってはパイロット達……何より、砲手を務める繊細なシンジのメンタルに関わってくる。
ざわめきの中、その声は静かに告げられた。
「私が行くわ」
博士、大丈夫なんですか!?」
所定位置についてオペレーティングを務めていた日向マコトが振り返りざま、そう告げる。
は明るく笑って見せると再び口を開いた。
「大丈夫です、概要は全部赤木博士に伝えてあるし……細かいことはMAGIがやってくれますから」
やはり笑顔のまま。はまるでどこかに外出するかのような雰囲気を漂わせている。
それがなぜか、そこにいたものを安心させた。


「……とはいえ、やっぱり走っていくのはきつかったかもー!」
そんなことがあってからさらに数分後。
すばやくもは早速外に出て、発電機に向かっていた。
現在、ありとあらゆるエネルギーは電童の起動とEVAのライフルに使われている。当然普段使っているエレカも今は動かない。
とにかく間に合え。
そう心に念じながら、は長い長い道のりを走った。

そういう時ほど、人は不測の事態に遭遇するものである。

ビルが群生する中である。
今マグネイト・テンが展開している部隊はとは全く別の方向だ。
以上二つから導き出される、答え。

「!!」
気が付けばすぐ眼前に迫った黒い機体に、はっと息を飲む。
今のこの状況で、来るであろうことが予想された相手。
「騎士……凰牙……!」
急いでいるはずの足が止まり、はその巨体を見上げる。
凰牙もこちらを補足したらしく、ゆっくりと頭部が下に向けられる。
『誰だ……電童達の仲間か』
「そういうことになるわね」

敵の目の前に生身で出くわしたというのに、不思議との心は落ち着いていた。
何故かは自分でもよく分からない。
しかし、仮面を被った凰牙の顔の奥から、何者かに大丈夫だと教えられているような気がしたのだ。

それを不可解に思ったのか、凰牙の中から再び男の声が響いた。
『何故逃げぬ?覚悟を決めたか……それとも、お前は戦士か?』
「そのどちらでもないわ。あなたに私は殺せない……そう分かっているから」
『ふん、何を言い出すかと思えば愚かな。私が見逃すと思うか?』
男の声に、怒りの色がついた。しかしは、やはり怯えた様子一つ見せない。
「これは強がりなどではない。そういう風になっているのよ、アルテア」
『貴様……私の名を!?』
何故知っている。そう言いたげに男──アルテアの声が揺らぐ。
はといえば、全く様相を変えることなく、淡々と。いつもと同じ調子に語り続けるだけだ。
「そう、知っている。何故かね」
『……そうか、ならば生かして帰す訳には行くまい!』

凰牙が動いた。
大きく腕を振り上げ、目掛けて打ち下ろす。
「ほら、そんなに動くから」
は全く逃げる様子も、身を守る動作さえ見せない。
さすがにアルテアは目の前の人間の異常性を感じ始めてきたが、時既に遅し。


『待ていっ!!』

その名乗りは、ビルの上から聞こえた。
たちのいる方向からでは、逆光で顔はよく見えない。


────来た。

その言葉、そして今の状況への理解は、の胸に自然と入ってきた。
もうここにいる必要はない。
最後にもう一度だけ、凰牙とそしてもう一人の揃った役者を見遣ると、再び発電機に向かって駆け出した。


「こんなイレギュラーすらも、シナリオのうち、か……」
走り去りながらそっと呟いた言葉は、誰にも聞かれずにそのまま風に消えていった。




ああっ!ロム兄さんと絡ませられなかった!!く、くやしい…
この状況じゃあ仕方ないですけどね……しかし、はっきりばっちりと兄さん達に印象は残してる…はずなんで。
それにしてもなんなんだこの伏線ばりばりの展開は(笑)

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