渡されなかったプレゼント


アポカリュプシスを乗り切って、最初のクリスマスの日。

「はーい、リュウセイ。これ、プレゼント!」
「プレゼント?俺にか?」
「うん」

リュウセイにやや大きめの包みを差し出している、ほくほく顔のがいた。

「サンキュー、。開けていいか?」
「もちろん!」
包みを受け取り、リュウセイは早速とばかりに包装紙を取り除いていく。
それを実に幸せそうに眺めている……はたから見ると、これ以上ないほのぼのカップル、といった様相を醸し出している。


が、そんな雰囲気は、包みの中から出てきたモノによって、完膚なきまでにぶち壊されることになる。


「お……おお、おおおおおおおおっ!?」
リュウセイの目が、みるみる輝きを増していく。
赤と緑のクリスマス風ラッピングの中から現れたのは、絶賛発売中、売り切れ続出のスーパーロボット超合金シリーズ、コンバトラーVのバトルマシン3,4,5号機であった。
お子様にも大人気。

「ほら、リュウセイ前に1号と2号しか持ってないって言ってたでしょ?だから……」
「す、すげえっ!これで合体して遊べるぜっ!!」
僅かに頬を染めて話しかけるをよそに、リュウセイは興奮冷めやらぬまま、パッケージからバトルタンクを取り出そうとしていた。
「だから、きっと喜んでくれるかなって、その……」
「おおっ!アンカーのチェーンもバッチリ再現されてらっ!!おおおっ!こっちのメカニフィクサーもすげえっ!!」

どうやら、の言葉は聞こえていないようだった。
完全に一人の世界に入り込んで、マリン、クラフトと次々と取り出していく。
「あの……リュウセイ……?」
「よーし、早速……レッツ・コンバイーン!!」

表情を曇らせるとは対照的に、リュウセイは上機嫌にコンバトラーのテーマを口ずさみながら取り出した5機のバトルマシンを合体させていく。
こうなってしまっては、の言葉など彼には届かない。

せっかくリュウセイの欲しがっていたものを苦労して手に入れたというのに。
合体させたコンバトラーの手や足を実に嬉しそうに動かしているリュウセイには、そんなの噴火前の感情など気付こうはずもなかった。

「もう……ちょっと!リュウセイ、聞いてる!?」
「え?おー聞いてる聞いてる!俺の欲しいもん良く分かってるよな!さすがは心の友!」
「…………」
返事もそこそこに、ヨーヨーを手に持たせようと躍起になるリュウセイ。
そこでついに、の心の火山が火を噴いた。

はおもむろに立ち上がると、棚の上に陳列されていたHGフリーダムガンダム(1/144スケール)を手に取り、彼の額目掛けて投げつけた。
狙い違わず、フリーダムは見事にリュウセイに命中する。
「痛ってぇ!何すんだよ!?」
「知らない」
額を押さえるリュウセイを尻目に、そう言い残して、は部屋を出た。
扉が閉まる直前に、ぽそりと呟く。
「……リュウセイのバカ」
「お、おいっ。!?」
リュウセイの言葉は、一人になって部屋の中にむなしく響くだけだった。


「あいつ……」
追いかけようとしていた手が宙ぶらりんのままだった……まあ、もう片方の手はしっかりとコンバトラーを握り締めてはいるが。
だけど、完全にタイミングを逃してしまった。
追わなければいけない。けれど、もうどうしようもない。

とりあえずリュウセイは、床に転がり落ちたフリーダムの修復を始めた。



「それは明らかにリュウセイが悪い」
「でしょ!?」
「だが、奴の趣味を理解していたにもかかわらずそんなものをくれてやったにも非はある」
「うぅ……」

部屋を飛び出したすぐ後、はライの姿を見つけて不満をぶちまけていた。
それを聞いてのライのコメントはもっともで、はぐうの音も出ない。はっきり言うと、愚痴を漏らした意味がなかった。

「大体、奴を喜ばせたいというのは分かるが、だからと言ってお前まで同じ趣味になることはないだろう。同士としては見てもらえるだろうが、異性として……云々」

(ライに言われたくはない)
何故かいつの間にかお説教じみてきたライに心中でそうツッコミを入れながら、は何とかここを切り抜ける方法を考えていた。
ここで時間を潰すよりも、リュウセイと仲直りする方法でも考えていた方が身になるだろうが、あいにくといい案が思い浮かばない。当然、この目の前の堅物はあのロボットオタクとは何もかもが正反対ゆえ、聞くだけ無駄というものであろう。
元はと言えば、愚痴を聞いてもらう相手の人選を間違えた自分も悪いのかもしれないが……それにしてもこの状態は酷い。
ここが基地の廊下だということも念頭に置かず、ライのお小言は続いていた。


小一時間後。

「……だからリュウセイなどやめておけと俺は最初に忠告し」
「おーい!ーっ!!」
「あ」
いまだ延々と続いていたライのお小言を遮る声が響いた。
背後からのよく知ったその声に振り向くと、息を切らせてこちらに駆けつけるリュウセイの姿。
「やっと来たのか。何やっていたんだ今まで?」
「……多分、ガンプラを直してたんだと思う」
思いっきり投げつけちゃったからなぁ……と呟くに、ライが嘆息したのは言うまでもない。
そしてたどりついたリュウセイに向かって、の頭上から声をかける。
「ちゃんと謝っておけよ」
「……は?」
そのまま、リュウセイが来た方向とは反対に歩き去って行く。

取り残された二人。
リュウセイと二人きりになったことによる気まずさと、お小言からの解放感とで、は複雑だった。
「え……と」
ちらりと横を向いてみる。
リュウセイはばつが悪そうにを見ていたが、すぐに口を開いた。
「さっきはすまねえな……俺、あれすげえ嬉しくってさ、つい……」
「あ、う、ううん……いいの。私も、ガンプラ投げつけちゃったりして、ごめんね」
「いいって。たいして壊れなかったし、すぐ直せたから」
「え?すぐ治せた、って……」
リュウセイの額に視線をやる。プラスチックが当たって赤くなっていたそこは、手当ても何もされているようには見えない。
「……おでこ、まだ痛そうなんだけど……?」
「いや、おでこじゃなくてフリーダムの方……ってぇ!?」
は無意識に、リュウセイの額に手を伸ばしていた。

「あっ……ご、ごめん!」
リュウセイの眉がぴくりと反応するのを見て反射的に手を引っ込める。
「いや、気にすんな。とにかくちゃんと飾り直したから」
「そうじゃなくて、リュウセイのおでこは?」
「俺のでこが何だって?」

なにやら会話がかみ合わない。
は、先程ガンプラをぶつけてしまったリュウセイの額を心配して、それについて言及しているのだが、どうも当のリュウセイ本人は別のことを言っているような。

いや待て。
リュウセイはなんと言った?『たいして壊れなかった』と聞こえたが。
まさか、自分が痛いのよりも、自慢のコレクションの方を心配して、それしか目に入っていないのでは……


脳内で一瞬引きつった後、はやけに優しげな笑みを浮かべた。
「……うん、何でもない。無事でよかったね」
いろんな意味で。

一方のリュウセイは一度首を傾げただけで、それに適当に相槌を打った。

この人は本当にもう。


その後二人は、ささやかながらクリスマスを祝うべく、リュウセイの部屋に戻ってきた。
リュウセイは何やら赤と緑を基調とした包みを持ち出して、に差し出す。
「俺もプレゼント、用意したんだ」
包装紙の内側は箱に入っておらず、プレゼントを直接包んでいる。中は何か柔らかいもののようだ。
は顔をほころばせてそれを受け取った。
「ありがとうリュウセイ。開けてもいい?」
「ああ!」
やけに嬉しそうな返事を聞くとすぐに、期待に胸を膨らませたまま包みを開けていく。
包装紙が剥ぎ取られ、中身が露出し、それが何であるか気付いた──は笑顔を凍りつかせたが、リュウセイはそれに気付いてはいなかった。
その証拠に、プレゼントの内容を得意気に説明する。
「南原コネクションに頼んで作ってもらった、バトルチーム制服(女性用)だっ!」
「リュウセイの……バカ〜〜っ!!」

嬉々とした表情のリュウセイに、は思い切りMGフリーダムガンダム(1/100スケール)を投げつけた。




リュウセイって初めて書きましたヨ…!というか、スパロボ自体書くの久しぶりですが。
何を投げようか迷った結果、とりあえず
『投げてもあまり罪悪感に苛まれずに済みそうなもの』をチョイスしてみました(笑)

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