FLAME BULLET
ENDING…"個人結界"〜PERSONAL SPACE


昨日と同じ今日。
今日と同じ明日。

そんなものは来ない。
クラスメイトの一人減った教室を出て、司は心の中で毒づいた。

がいない。昨日までは、いた。
それは確かに昨日と違う箇所なのだから。

空腹も忘れて、司は真昼の屋上へと階段を上っていた。


あの時────昨日の屋上で話した時。
確かに彼女との間に『繋がり』を感じた。
彼女はそうでなかったのだろうか?

フェンスのへりに立って、足元を見つめる。

彼女が昨日のあの時までヒトたり得たその要因に、自分はなっていたのだろうか?
それを考える間もなく、背後から聞き慣れた声がした。


「よう、司ぁ」
「な、あ、兄貴っ!?」
振り返る。
中天の太陽をものともせず、黒いトレンチコートを着た男。
何故かその下に割烹着を纏っている。
一見するとただの変な男だが、よく見ると凄く変な男である。
そして信じられないことに、司の実の兄なのだ。コレが。

男──上月永斗は、司の視線を受けるとニヤリ、と笑い、低い声で告げる。

「たまには食堂に食べに来い。兄ちゃん、寂しいぞ」
「知るかんなもん。っつーか、行ったらサービスしてくれんのかよ?」
投げやりにそう答えた司に、永斗は変わらぬ調子で言う。
「いんやぁ?食堂のお兄さんは兄弟だからといってひいきはしなーい。ちゃんと、食券は買え」
「いっぱしなこと言う前に兄の義務としてまず食費を寄越しやがれ!」
「はっはっはぁ。甘いぞ弟よ」

ぜーはーと息を喘がせる弟を尻目に、永斗はいつになく深刻な表情を作った。
少しの、間。
兄は厳かに言った。
「薔薇は、高いのだ」
「いっぺん死ね!!」


ひとしきり、兄弟のいつものやり取りを交わして、再びフェンスの端に立つ。
兄はそこから飛び降りてどこかに行ってしまったが、まああいつのことだから大丈夫だろう。
「やっぱあのバカ兄貴はパーソナルスペースに入れるとうぜえ」
呟き、そう実感する。
これほど騒がしい愉快な男もそうはいない。

というか、コレがいつもの司のスタンスなのだ。
必要以上に人とつるむことはしないから、隣に来られるとどうにも居心地が悪い。


だがはそうではなかった、と今になっても思う。


。"緋色の弾丸"。あの馴れ馴れしい少女。
それこそが彼女の能力だったのか、それとも……


その問いに答えてくれるものはいなかった。




FLAME BULLET END

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