|
【前回までのあらすじ】 跡部の独断で、と忍足のおうちデートを邪魔しに忍足家へとやってきた氷帝学園テニス部レギュラー陣。 だが、は強敵だった!どうする跡部?どうなる氷帝軍団!! SWEETHEART MANIAX 5 〜侑士とガンプラ 後編〜 「そんじゃまあ、てきとーにビデオでも見るか」 「それより俺腹減ったぜ」 「じゃあ俺寝る〜」 跡部の当初の計画はもろくも(そして呆気なく)崩れ去り、目的を失ったその他レギュラー陣は暇を持て余し始める。 リビングに所狭しと全員が集まって、試合中の格好良さなど微塵も感じさせない暑苦しさだ。 が、所詮は育ち盛りの男子中学生(一名除く)。特に気にせずに、早速そのうちの一人は暇潰しの道具を見つけた。 「おっ、DVDとかいっぱいあるじゃん。なあなあ侑士、見てもいいか?」 「ええけど……そのプレイヤー大事なもんやから、壊さんといてや?」 「今時DVDプレイヤー使えない中学生なんていねえよ!」 電気屋の息子舐めんな、と相方と二、三言葉を交わして、岳人はスイッチを入れた。 途端に、『ピコン』と電子音が小さく響いて一瞬沈黙する。 「……な、なんだこりゃ?」 彼が眉をひそめたのも無理はない。 電源がつき、メニュー画面が出てくる。そのディスプレイの左上にはこう書かれていた。 『ダィスク無』 誤植? にしても何と間抜けな響きだろう。 言葉を失った岳人と入れ替わるようにそこに入り込んできたのはだった。 「す、すごい!侑士これ富士エアー!?」 「そうやで」 「ふ、不二?」 「FUJIAIRE。俺の宝物や」 当然のように言って、忍足は鑑賞用のダィスク……いや、ディスクを物色する。 このプレイヤーを使っての鑑賞会は、やはりというか何というか、大爆笑のうちに幕を閉じた。 「あー、なんか話の内容が全然頭に入ってこねえ……」 「それは仕方ないでしょう、全部アニメと特撮でしたしね」 「正直言って、最初の『ダィスクをオーポン』で全てが吹っ飛びました……」 「こんないいもの持ってるなら、私に教えてくれたっていいのに……」 「くっ……なかなか面白ぇもん持ってるじゃねーか、忍足よお……!」 ちなみに、約一名には大ウケだったとか。 そうこうしているうちに、すっかり昼食時になっていた。 もちろん、育ち盛りの中学生が昼抜きなんて出来るはずが無いわけで。 出前でも取ろうかとする面々に、はさらりと言った。 「あの……私、作ろうか」 「……大丈夫なのかそれ」 最初に反応したのは岳人だ。 なんせ彼は、忍足が彼女にプロポーズまがいのことをした時のの返答を聞いていたからだ。 料理が下手って、どの程度のもんだろうか。 まさか産業廃棄物レベルのものは出やしまい、とは思うのだが、それでも中学生レベルの下手さならば、程度もたかが知れている。 「多分大丈夫だと思うよ。練習してるし」 「唐揚げ作る時、鶏肉に何まぶす?」 「……?唐揚げ粉?」 「…………ま、まあ大丈夫、かな……?」 その後、俺のための手料理だとか俺が手伝ってやるだとか、何だか色々と騒ぎがあったのだが、そのへんは割愛する。 で、結局昼食はが作ることとなった。 今だ。 が料理している間、忍足は古いビデオデッキ(ベータとか何とか言っていた)の調子を見ていた。 他の連中は、忍足との中を積極的に邪魔することは、多分しない。 となれば、が一人きりになった今こそがチャンス。 跡部はこっそりと、の立つ台所へと向かった。 借りたエプロンが少し大きい。 そんなことを思いながら、はぎこちない手つきで野菜を刻んでいた。 まな板の上に不規則なリズムで音が響く。 そしてその後ろ。 野菜を切るのに夢中なは、背後に跡部がいるのに気付いていなかった。 ここはお約束、とばかりに、跡部はを背中から抱きしめ……ようとした。 「!!」 「、俺のた……」 「さ、触らないでっ!!」 ヒュッと風を切り、が背後を向く。 手には包丁。 「ヒッ!?」 思わず跡部は青ざめた。 ──バカな!俺様は刃物を向けられるほど嫌われているとでも言うのか!? しかし。 「……ふぅ。何だ、跡部君か」 「何だとは何だ、こっちは死に掛けたぞ!」 「ゴメン、今取り込み中だから邪魔しないでくれるかな……?」 見ると、は額にじっとりと脂汗をかいていた。 包丁捌きがまだまだおぼつかないため、全神経を集中させていたのだろう。 一つ深呼吸をすると、再びまな板に向き直る。 命の危険を感じ、跡部はじりじりと後退して行った。 と、その背中に何かが当たる。 「なんや跡部、手伝いか?」 少し上から、声がかけられる。 それの正体は、デッキの調整を終えたらしい忍足だった。 既にひよこプリントのエプロンを装備済みである。 「あっ、侑士手伝って〜」 「はいはい、しょうのないお姫さんや」 何だこの敗北感は。 すぐさま並んで作業を始める二人を尻目に、跡部はがくりと膝をつく。 冷静になって考えてみると、は忍足の彼女なのだからして、待遇が違うのはある意味当然と言えば当然なのだ。 が、今の跡部にそれを理解しろというのは無理な話だ。 キッチンの入り口で立ち尽くす跡部は置いておく。 は、忍足と並んで次々と野菜を切っていく。 忍足の方は、その横で出汁を取っている。 そう広い台所ではないため、二人の距離は隙間も無いほど近かった。 「まだまだやなぁ」 「う〜……ピンセットやデザインカッターなら楽勝なのに……」 「それもおかしい話やで……」 横からの様子を覗き込んでいた忍足。 やれやれと肩をすくめると、も切り終わった野菜をざるに入れて洗いながらそちらを向く。 「……」 「…………」 何だか照れくさくなり、ちらちらとお互いを見つめてみた。 やがてお湯が沸騰し始めた頃、そういえば、と忍足が切り出した。 「な、へこんどったホンマの理由……聞いてええか?」 「うん、実はね……」 切った材料を忍足の方に渡すと、も少し手を休めた。 後ろに少し体重を預け、首を傾げて頭と頭をくっつける。 その体勢ではぽつりと一言もらした。 「イデオン発動編、あれはキツかった……」 「…………そらヘコむわな…………」 妙に納得がいった。 忍足はしばらく、が自分にもたれかかっているのを支えていた。 キッチンから出てきた達を待っていたのは、腕を組んで仁王立ちする我らが跡部景吾。 跡部はの後ろに立つ忍足には目もくれず、の眼前に回りこんでその腕を捕らえた。 一瞬、が眉をゆがめた途端に周囲が騒ぎ出すが、そんなものは意に介せず、跡部は言う。 「おい、!」 「?」 「結局お前は、俺のこと、どう思ってんだよ?」 唐突な質問に、しばし躊躇する。 の次の言葉を、みんなは興味津々に待った。 彼女の口から、流暢な発音が響く。 「どうって……『きれいなジャイアン』」 その一言が全てを表していた。 跡部はに男として見られていないどころか、すっかりネタだと思われているということを。 本当は使い方が違うのだが、実に言い得て妙だった。 全員一斉に、吹き出しそうになるのをこらえる。 「ジャイアンってのが何かは知らねえが、綺麗なのは当然だな」 約一名を除いて。 「それじゃあ、私そろそろ帰るね」 それからまたひとしきり忍足オタク訪問が終わり、そろそろ夜も更けようかという頃。 非常ににこやかには告げる。どうやら発動編のトラウマも癒えてきたらしい。 「ああ、この後なんか用事でもあるん?」 「うーん……特に用事ってわけでもないけど、サーフェイサーで止まってるプラモあるの、思い出しちゃったから」 「そうかー、ならしゃあないな」 一人納得して、忍足はを送り出した。 手を振って別れの挨拶を告げる。 「できたら見せてなー」 「いいよー」 手を振りながらの姿が遠ざかる。 その後、集まっていたレギュラー陣も、皆それぞれの帰途についていった。 かくして大変な一日が終わり、レギュラー達は「あの二人の邪魔はしないようにしよう」と改めて強く思うのだった。 「く……くくく……ファッハハハハ!面白れえじゃねーの!あんな変わった女は初めてだ、ますます落とし甲斐が出てきたってもんだぜ!」 約一人を、除いて。 |
|
ネタ仕込みまくりました。全て分かった方はぜひお友達になりましょう(笑) それから、跡部ファンの方はスミマセンでした。 それにしてもヒロインは飛ばしすぎだ…すっかりオリキャラになってしまったよorz |