『期待の新人! エンジェルリップ』

『何とあの! “Fire Bomber”熱気バサラプロデュース!!』

『独占取材だ! 表紙に飾れ! とにかく──』


だ──!!』


…………

なんだか、凄いことになってきた…ような、気がする。


第三話 デビュー


「あぁ〜どうしよう、緊張してきちゃったよ〜……」

楽屋前。私はそう独りごちた。
手が震えているのが自分でも分かる。

これが私のデビューコンサートで、バサラが見ていなければ、どこか遠いところへ行ってしまいたいくらいだ。
そう、これはデビューなのに…なんでこんなに注目されてるんだろう、私……

ひとえに、『熱気バサラプロデュース』との一言が、シティ7の芸能界を動かした結果だ。
そんなことを思いながら、今日何度目かも数え切れないくらいの溜息を吐こうとした時。


「あ、いたいた! お〜い、さーん!」
「へ?」
呼ばれて振り向くと、そこにはよーく見知った女の子と、真面目そうな軍人さんの姿があった。
女の子……ミレーヌに軽く会釈をすると、次は軍人の方と目が合う。

「ミレーヌ……えと、そちらの方は?」
「あ、自分はー統合軍ダイヤモンドフォース、ガムリン木崎大尉であります!」
ぎくしゃくとした動きで敬礼すると、また元に戻る。
ガムリンさん、と名乗った人は、私も名前くらいは知っていた。
ダイヤモンドフォースといえば、このマクロス7ではエリート中のエリートとして知られているからだ。
そうか、この人がガムリン木崎かぁ……見かけによらず面白い人だな……
でも、そんな人がなんでこんな所にいるんだろう?

「で…ミレーヌとは、どういったご関係の?」
「えっ……!」
私がそう訊ねると、ガムリンさんはさらに挙動不審になった。心なしか、顔まで赤い。
やがて彼はしどろもどろに語り始めたが、その態度だけで彼がミレーヌを想っていることは一目瞭然だった。

まあ、ミレーヌには内緒にしておいてあげよう。

「かっ関係……あ、いや、実はミレーヌさんとは、その、こ、婚……」
「ガムリンさんはママの元教え子で、お友達なの!」
「お、お、オトモダチっ……!?………………ふぅぅ……」
あっけらかんと答えるミレーヌ。ガムリンさんはそのたった一言により撃沈されたようだ。
ミレーヌがガムリンさんの気持ちに全く気付いていないというのが痛い。

「そ、それでは、私は席で待っていますので……」
私はそのまま、ミレーヌとその隣で肩をがっくり落としたガムリンさんを見送った。
「どうしたんだろ?ガムリンさん……」
ミレーヌだけが、事態を理解せずに不思議そうに彼を見送っていた。


ともあれ、ライブの始まりだ。



ステージに立つと、それまでの緊張がまるで嘘のように、私は思いの限りを込めて歌うことができた。
スポットライトの明るさが心地良い。
雨のような歓声が心に染み入ってきて、それがまた、歌うための原動力になってくるみたいだ。

私にここまでの力があったなんて。

始まるまでは、あんなに心臓がバクバクいってたのに、今ではそれすらも歌になる。
ああ、私の歌で、この人たちが喜んでくれている……まぎれもなく、私の力で。
自惚れても……いいのかな。

「みんな、今日は私のデビューコンサートに来てくれて、本当にありがとう!それじゃ私のデビュー曲、聴いてください!」
危なげなくMCも終え、いよいよ本日のメイン……私の、本当の想い。
私の唇から紡がれる、本当の私の歌が流れ出す。
この歌は、バサラのために歌う。歌手を目指す前から決めていたことだ。
息を吸う────会場が沸き上がる。
イントロが終わる。


変化が現れたのは、それからすぐのことだった。


このコンサートには、軍から貸与されたサウンドウェーブ発生装置が設置されていた。
バサラたちがサウンドフォースで使用したものだ。
私の発する歌エネルギーが一定以上になると、それは効果を発揮し始める、らしいが……これがどんなことになるのか、その時の私は全く分からなかったのだ。

突如ステージから、七色の光が溢れ出した。
そしてそれを浴びた観客達からは、今までの歓声とはまた違った種類の叫び声を上げているように思えた。
私自身はライブに集中しているはずなのに、何故かそれが鮮明に聞こえる。

最前列なんか、目にも入ってくるから、余計にはっきりと……
見ればそこには、アリーナのチケットを譲ったミレーヌと、一緒に来たガムリンさんがいて。

 「み、ミレーヌさん、私はっ、その……!」

 「ガムリンさん。あたし…あたし……」

何故か二人の世界が出来上がっている。
この二人だけじゃない。
カップルと思しき人たちはそのまま二人で。
そうでない人たちは隣の人たちを巻き込んで……あるいは、ステージに向かって来ている。
暴動を抑えるべき警備員も、頬を真っ赤に染めてそれどころじゃなくなっている。

『ラブハート』……このピンク色の光はそう呼ばれているらしい、と話には聞いたことはあるけれど。
こんなことが起こるなんて、聞いたことないよ。

みんな、私の歌を聴いておかしくなってしまった?
会場は既にピンクの空間と化している。
サウンドウェーブの効果は、視覚効果だけではなかったのだ。
バサラの言っていた「聴いた人間がキスしたくなる歌」って、このことだったのか……


そして、変化が起こっていたのは、一般観客だけではなかった。


ーっ!!」
「えっ!?」
声のした方を振り向く。
ステージから流れ出るまばゆい光は、やがて客席ある一点に収束していった。
その方向に座っていたのは────熱気バサラ。

「ば、ばばバサラっ!?」

私は軽いパニックに陥った。
だって、バサラが。

バサラが客席を飛び越えて、ステージに上がってくる。

サウンドウェーブは既にバサラのみを直撃していた。
ピンク色の靄がかかったようになっているその姿のまま、彼はステージ中央、私の立つところまでやって来た。
そして。


「……────っ!」

目が見開かれる。
こともあろうに、この男はコンサート中の私に、キスしてきたのだ。
歌っている途中に口を塞がれて、息が非常に苦しかった。けれどそんなことを気にさせないくらいのアクシデント。
「…………」
唇が離れた後も、私はしばし歌うことを忘れてしまっていた。
客席からは、意外なものを見せ付けられた野次と、バサラファンの女の子達の(おそらく嫉妬の入り混じった)悲鳴、そして、多分私のファンの、野太い怒号……
「悪いな、邪魔して。じゃあな!」
「ちょっ……」

意外にもあっさりとバサラは私のそばを離れた。
彼もプロだ。ゲストが居座っては、ステージを駄目にすると分かっているのだろう。

会場を見渡すと、一瞬でも私が歌うのを止めたおかげか、先程までの暴動が起こりそうな雰囲気は収まっている。
「え…えー……特別ゲストで、私のプロデューサーの、熱気バサラさんでしたぁっ!!」
ほとんどやけくそになって、曲の途中だというのにも構わず紹介を入れる。
にっこりと笑って手を振ると、それで納得したのかどうかは分からないけど次第に例の熱狂は少しずつ沈静化して行った。


こうして大波乱を含みながらも、なんとかデビューコンサートを終え────



そして後日。

Fire Bomberの練習スタジオで、私はギャラクシーネットワークチャートのランキング第一位に表示されている自分の名前を、なにか夢でも見ているような気持ちでぼーっと眺めていた。
なんでも、例のアクシデントのせいで、新人歌手『』は話題沸騰、人気もうなぎのぼり……なんだそうだ。
そのとばっちりで、銀スポには『熱気バサラと新人歌手熱愛発覚!?デビューコンサートで濃厚キス』とか書かれてるけど……
シティ7の人たちって、どこか変だと思う。
ただでさえ『熱気バサラプロデュース』ということで、注目されていたというのに。これからはすっぴんで外に出るな、と秋子さんにきつく言われてしまった。

「まだ信じられない……」
これでバサラと同じ事務所で、歌手として活動できるんだ。
まだ実感わかないけど、嬉しいんだよ。その嬉しさが、表情に出ない。
「当然の結果だぜ。あの歌を聴いてハートに来ねぇ奴なんかいねえ」
「そんな…バサラのおかげだよ。ありがと」
「……へへっ」
自信たっぷりなバサラの笑顔を見て、やっと落ち着いてきた。

私はこれのために歌ってきたのだ。
そう思うと、今までの不安や苦労なんか吹っ飛んでいく。
ああ、私はやったんだなぁって気になってくるから凄い。

「……バサラ」
「何だ?」
チャートを後ろのテーブルに置いて、私はバサラに近づいた。
バサラは怪訝な顔を見せたが、そんなの気にしない。

「もったいぶってねぇで早く言えよ」
「というわけで、ライブも大盛況でチャートも見事一位になったので、ご褒美をください」
「はぁ?」
「だから、新人が頑張ったので、プロデューサー兼恋人の熱気バサラさんは、何か私に奢ってもいいと思います」
「お前、見返りが欲しくて歌ってたのか?俺にはそうは見えなかったがなぁ」
わざとらしくかしこまった口調でそう告げると、案の定バサラはいい返事はなし。おまけに半眼での睨み付き。
しかも鋭い。そうですよ、私が歌いたいから歌ったんですよ。バサラへの想いをね?

バサラはしばらく頭を掻いていたけど、やる気の無さそうな目で私を見て、
「じゃあ……」
と低く言いながら近づいてくる。
コレはアレが来る。そう直感し、先に釘を打つ私。
「言っとくけど、キスで済まそうとはしないでね?それ以外でお願い」
「んぁ〜?」

やっぱり。
そのくらい想定していなければ、バサラの彼女などつとまらない。
バサラはなんともつまらなさそうに肩を落とす。
しかし、その先の言葉はさすがに……予想できなかった。

バサラはいとも簡単に言い放った。
「なら、キスなしでその先」
「な、ななっ!?」
一気に頬が熱くなる。
慌てて視線をそらし、またそぉーっとバサラの顔をちょっとだけ見てみると、いつものとぼけた顔。
しかし、その表情には『これ以上まからない』とはっきりと書かれていた。


「……そんなならキスもつけて……」
「しょうがねえな」
どっと脱力した私を支えたその腕で、バサラはそのまま私をかついで連れて行く。
心なしか、楽しそうだ。

ええと、別にその『ご褒美』を頂くのにはやぶさかでないんですけど。


……もうちょっとこう、ムードですとか。
空気を読んでくれたりすると、嬉しかったりするんですが。


まあ、この人に言うだけ無駄……なんだろうなぁ。




…………は!裏突入っ!?(しません)
えっと、キセイジジツ(笑)はあるかもしれませんが描写はしない、とゆーことで!(逃げっ)

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