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合計180円分の恋 「柊さーん、こっちです」 「おう」 私の姿を探してきょろきょろしていた柊さん発見。 声をかけて片手を振ると、向こうも同じように振り返してくれた。 小走りにこちらに駆け寄りながら、少しだけ『遅れてすまない』って顔を見るのが結構好きだ。 「で……何だよ、話って?」 その問いにはすぐには答えず、私はもたれていた自動販売機から体を離すと、後ろ手に持っていた缶の紅茶を柊さんに投げて渡した。 「……?」 キャッチしたままのポーズで首を傾げる柊さんに、笑いかけて言う。 「とりあえず……お祝い?」 「はぁ?」 含むような私の物言いが理解できなかったらしい。 「お祝いです。これからもしかしたら、柊さんはもっと有名になるかもしれませんし」 「いや……別に有名にならなくても」 「だから「かもしれない」の話ですって」 そんなことを話しながら、私は自動販売機の方を振り向き、もう一つ同じ缶紅茶を購入。 「だから、お祝いなんです。ファンが増えるかもしれないし」 「いや、だからいらねーって……」 「でも、私の120円分の気持ちくらいは受け取ってもいいんじゃないですか」 取り出した紅茶で、いまだ柊さんの手の中にある紅茶を指す。 少し考えてから、柊さんはプルトップを開けた。 「まあ、じゃあ、これはお前の奢りってことでもらっとくわ」 「はい」 にこりと笑いかけたのを見ないようにして、柊さんは紅茶を飲んだ。 「……美味い」 「アンゼロットさんとこの紅茶とどっちが美味しいですか?」 「は?なんでそこにいきなりあいつが出て来るんだよ」 「んー、それはですねえ……」 私も同じく缶を開けて、少し飲みながら柊さんに寄り添った。 彼は慌ててそこを退こうとしたけど、「紅茶こぼれますよ」と言ったら快くそこに留まってくれた。 そして今は、何やら意味ありげな私の言葉に耳を傾けてくれている。 たっぷり間を取って、私は続けた。 「お祝いであると同時に……牽制?」 「…………?」 やっぱり柊さんはわけが分からないという顔をしていた。 「ほら、だからファンが増えるかもしれないじゃないですか。つまりそれって私のライバルが増えるってことですよ」 「……それで?」 「ただでさえ柊さんはギャルゲーの主人公並にモテモテなのに、この上新しいライバルなんて作りたくないわけですよ」 澱みなく言いながら、ぐいっと紅茶を飲む。 一息ついてから、柊さんを真正面からじっと見つめてみる。 「そういうわけで、120円分の牽制です」 「…………」 柊さんは何も言葉を返せないようだった。 ちょうどいいので、言いたいことは全部言ってしまおう。 私は空き缶から口を離して続けた。 「まあ、缶紅茶じゃアンゼロットさんの本格紅茶には敵わないけど、そこは気持ちでカバーってことで……」 「……かやろう」 「え?」 いきなり聞こえた呟きに、言葉が止まる。 見れば柊さんはいつの間にか紅茶を飲み終わり、空き缶を回収ボックスに投げ入れると、私のすぐそばまで来ていた。 「牽制なんか……する必要ねーって」 そう言った柊さんの表情は、何だか恥ずかしげに目が伏せられていて。 「なんでですか?」 そう聞いてみると、ますます焦った顔になってしまった。 もっとつっこんでみる。 「ライバル増えるんですよ!?」 拳をぐっと握り締めて力説。 「だったら今のうちから……」 「……だから、その、ライバルって奴?」 「はい、ライバルです。ただでさえなんでモテるのか分からないのにモテモテなんですから、柊さん」 「あのなー」 深く溜息を吐く柊さん。 やはり『何でモテるのか分からない』と言ってしまったことがショックだったのだろうか。 ところがどうやらそうではなかったみたいで。 「お前がライバルを想定するのは勝手だが」 「はい」 頷きつつ、柊さんの顔を覗き見る。照れながらも何か腹をくくったように見えた。 「その『ライバル』とやらを、俺が気にかけなかったらいいんだろうが、要するに」 「……それって、要するに?」 「だーっ!だからっ!!」 要領を得ない問答に、ついに柊さんは爆発して、いつも通りの態度に戻る。 「だから?」 私がそう問うと、しばしの沈黙の後、柊さんは小さく告げた。 「……だから、俺がお前だけ見てりゃ、そんな牽制する必要はねえってわけだろ?」 「え……」 「まあそういうわけだから、安心して……」 「……あんな美少女まみれの生活している柊さんに、そんなことが可能なはずが……」 「ちったぁ信じろっ!?」 いつもの柊ツッコミ炸裂。 だけどその手は裏平手もチョップもグーパンもかますことはなく、私の肩の上に置かれる。 「つっても」 「?」 「最初っから見てるんだけどよ」 「何をですか」 「だぁからっ!」 二度目のツッコミが入りかけたところで、私は飲みかけの缶紅茶を柊さんの額に当てて、その動きを止める。 「柊さんて、結構ツンデレの気がありますよね」 「……はぁ?」 「ところで、私もうお腹がたぷんたぷんなので、これもあげます」 「…………」 半分ほど中身の残っている缶を柊さんに差し出した。 まだ何か言いたそうだったけど、それを言わせまいと缶を押し付けて、もう一度口を開く。 「もう60円分の牽制です。これで柊さんが素直に「私だけを見てる」って言えますように」 柊さんは何も言わずに、缶の中身を飲み干した。 |
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アニメ化記念ということで、柊夢(?)です。 といっても、もとは日記に載せようと思っていたので名前変換が無いのですが。 しかもなんだか内容がメタ的ですね(笑)まあそれはそれでナイトウィザードらしくていいかと! |