My Pace Fighters


大空魔竜の通路に、軽やかな靴の音が響いていた。

(いい天気〜!そろそろお昼だし、フライドチキン食べたいなぁ〜……)

おそらく音の主がそんなことを考えているからなのだろう。
爽やかな午前の空気をいっぱいに受け、心地よいリズムを刻んでいた靴音は、トレーニングルームの前で止まる。
靴音の主の姿は、どこからどう見ても普通の少女である。それが一体、こんな所に何の用事なのか────
少女は扉脇のスイッチを押すと、プシュッという音がして目の前が開かれる。
中を覗き込もうとして……ふと、少女はくるりと身を翻させた。


先程まで少女がいた扉の真ん前。
そこへ、宙がぶっ飛ばされてきた。



「……だ、大丈夫、ですか?」
「それはこっちのセリフだぜ……よく避けられたな」
「確かにな。その身のこなし、ただ者じゃないぞ?」

背をそらしたポーズのまま、司馬宙に声をかける。
そしてむくりと起き上がった宙の目の前に、つかつかと歩み寄る姿。
「痛てて……おい鉄也、俺に対しては何もなしか?」
「その程度で根を上げてもらっちゃ困る。さあ、続けるぞ」
やってきた人影──剣鉄也は一言だけ告げると、またすぐにトレーニングルームに戻ろうとする。
それを止めたのは、少女の声だった。

「あ、あの」
「……ん?どうした、
扉の向こうに消えようとしていた鉄也が振り返る。
が、は宙の方を向き、
「ええと、美和さんが、宙さんに用があるそうなので探しに来たんですけど……」
「ミッチーが?そうか、悪いな」
「いえっ。格納庫の方にいたので、多分機体のことか何かかと」
「それじゃ行ってくるか……鉄也、そういうわけなんで少し休憩にさせてもらうぜ」
「…………ああ」

ひらひらと手を振って格納庫の方に歩いていく宙を、鉄也は複雑な表情で見送った。
ちらりと彼の顔を伺ってみると、心なしかいつもより険しい顔をしている(大抵険しい顔なのだが)、とは思った。
「……」
「…………」
そのまま鉄也は直立不動の体勢になり、ぴくりとも動かない。
「……ええっと」
どうにも間がもたなくなって、はおずおずと切り出した。


「なんだか特訓の邪魔しちゃったみたいで……すみませんでした」
「特訓の、邪魔……?……そ、そうか、そういうことだったのか」

言われて鉄也ははっとする。
の言葉を一区切りずつ、確認するように呟いて、一人納得した表情を見せた。
下げていた拳を握り締め、顔の前に持ってくる。
一体彼の中で何がどうなっているのか、にはさっぱり分からない。

「……え?」
「だからこう、気分がもやもやとしていたんだな……くそ、宙の奴!帰って来たら昨日の倍はしごいてやる!」
「えーっと……鉄也さん?」


この時の鉄也は、自分でも気がついていなかったのだ。

原因は特訓の中断ではなく、が用があったのが自分ではなく宙だったから、ということに。
そして、鉄也が分からないものを、が気付けるはずもなく。

「……」
「…………」

ちらりと視線が絡んだのち、沈黙が二人を包んだ。


「そ、そういえば」

沈黙に耐え切れず、が口を開く。
鉄也は腕を組んだ格好のまま、視線を横に向けることでそれに応える。
それが彼の返事だと悟り、はたどたどしく続けた。

「さっき、私の身のこなしが普通じゃないって言ってましたけど……」
「ああ、あれは確かに素人のものではなかったな。大方、過去に戦闘訓練を受けていたとか、そんなとこだろう」
「そう、ですか……そのへん、全然記憶にないですが」
「そういうものは、頭を悩ますよりも実際に身体を動かしてみる方がいい」
「そうですよね!白兵戦も、出来るにこしたことはありませんし……あの、鉄也さん!」
「ん?」
「ちょっと、訓練付けてくれませんか?」

「フッ、構わんが……」

鉄也は組んでいた腕を解き、に向き直った。
口の端を持ち上げて言う。

「俺は少々荒っぽいぜ」


こうして、少し打ち合うこととなった二人だったが、の技に鉄也は内心、舌を巻いた。
彼女の動きは、確かに一通りの訓練がなされているものだったからだ。
しかも記憶が無いためか、それらを全てほぼ無意識にやっている。

子供の時から戦闘訓練を受けていた鉄也にこそ届かないものの、の技術は一般兵士のそれをはるかに上回っていた。


「……よし、ここまでだ」
「はぁ、はぁ……はいっ!」
両腕をクロスさせて、の突き出した拳を受け止めると、鉄也はそう言って構えを解いた。

「ありがとうございました」
少々上がりかけていた息を整え、も同じように腕を下ろして、ぺこりと頭を下げる。
再び上げた顔は、とても体術をやっているようには見えない普通の少女そのものだ。
自身、先程までの自分の動きに対していまだ実感がわかない様子で、何やら不思議そうに自分の手を見つめてみたり、ぼーっとした表情になってみたりしている。
自分が『戦える』ことが、余程意外だったらしい。

しばらく考えるそぶりを見せて、はふと思いついたことを言ってみる。

「もしかして私、格闘家とかだったんでしょうか?」
「それだったら多少ならずとも名が知れているはずだ」
が、鉄也はたったの一言でそれを否定した。
事実、の名は鉄也も、それに格闘界にいた一矢達も知らなかったのだ。


「そ、そうか……それにただの格闘家がパイロットとかには、普通ならないですよね」
何かを納得したように「うんうん」と小さく頷くと、やっとはいつも通りの明るい笑顔に戻った。
「その辺は、あんまり気にしないことにします。戦えないよりは、戦える方がいいですし。それより鉄也さ……」


そこまで言って、ははっと固まった。
一瞬遅れて、彼女のお腹から「くぅう〜」という間の抜けた音が聞こえてくる。

さらにその一瞬後。
は神妙な面持ちで鉄也に訊いた。

「……鉄也さん」
「…………なんだ?」
「ご飯を食べませんか」
「そう……だな……」

どっと力が抜けていく。
先ほどの緊張した空気が一気に弛緩していくのが鉄也には感じられた。

おりしも今は昼食時。特訓にかまけて、そのことをすっかりと忘れていたが、思い出すと確かに、鉄也の腹も空腹を訴え始める。
「行くか」
「はいっ!」



その後食堂では、仲良く昼食をとる二人の姿が見えたとか。


一方その頃、格納庫からトレーニングルームへと帰ってきた宙は、一人待ちぼうけを喰らってしまうことになるのだが、それはまた、別の話。




朱凛様、リクエストありがとうございました。
スーパールートの宙さんってば他のメンバーにしごかれて主人公してましたよね〜。
いいよなぁと思いつつ書いていったら、こんなものが出来上がりました。甘くなくてスミマセン…

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