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MY FAVORITE 「ばーすでーらいぶ?」 「そうよ」 「バサラの?」 「もちろん」 私の疑問に、秋子さんはにこりと笑って答えた。 「8月15日よ?他に誰のバースデーライブやるって言うのよ?」 「そ、そうですけど」 面食らった私に、得意げに言ってくる。 そりゃ、まあ。 人気バンドであるFire Bomberのボーカリスト、熱気バサラともなれば、相当のファンがついている。 その彼の誕生日ともなれば、きっと物凄い量のプレゼントが届くだろうし、ライブでもやろうものなら大盛況は間違い無しだ。 ただ……そうなると、せっかくの誕生日なのに、バサラは『みんなのもの』のままなわけで…… 「どうしたのちゃん?もしかして誕生日知らなかったとか……」 「そんなはずはないですよ!私だって元々はファンだったんだし」 ぶんぶんと首を振ってみせる。 私の個人的な理由で、このイベントを中止にしてもらうことなど出来ない。 Fire Bomberの熱気バサラは『みんなのもの』なのだ。 私が独占できるものではない。 まして、発表もしていない、非公認の恋人では(余計なスキャンダルを避けるために、私たちのことはナイショにしてあるのだ)。 この分だと……私の分のプレゼント、必要無さそうなんですケド……でも用意してないとまた拗ねるんだろうなぁ…… どうしよう、ホント。 せっかくだから、歌とはあんまり関係ないものをあげようかとも思ったけれど、それはやっぱりバサラじゃないような気がした。 それじゃあ……バサラの好きなアーティストの歌でも歌ってみようか。 それとも本人のコンサートのチケットか。 そこまで考えて、私はふと我に返った。 周りは既にバースデーライブの準備に余念がない。私はバンドのメンバーではないためか、そのまま放って置かれている。秋子さんももういない。 それよりも、だ。 バサラの好きなアーティストってさ………… 「さぁな」 バサラは冷たく言い放った。 直接本人に聞こう、とバサラの元へ行ったはいいのだけれど、どうやらご機嫌斜めのようだ。 やる気が全く感じられない。 私の記憶が正しければ、バサラの好きなアーティストは、バサラ自身のはずだった。 だから、バサラへの誕生日プレゼントに歌を贈るというのは、ちょっとどうかなーと思ってしまったのだ。 だって本人の目の前でその人の歌なんて歌えないって。素人のど自慢じゃないんだし。 それはともかく、私はバサラの元へと赴き、誕生日のこと、バースデーライブのことを切り出した。 珍しくバサラは乗り気ではないようだった。 最近は順調だと思ってたのに、また何かやらかしたのか、この人? 「当たり前だろ。何で自分の誕生日に自分で歌わなきゃなんねえんだよ」 「バサラ、歌うの嫌なの?」 「歌うのが嫌なわけじゃねえよ。ただ、何かってぇとイベントにしちまうのが気にくわねえ」 それっきりバサラは黙り込み、窓にもたれかかってギターをぽろぽろと弾きだした。 ただし、全く何のメロディーにもなってないけど。 この人は、無条件に自分の歌が好きってわけじゃない。 今回みたいに、誰かから歌わせられるのは大嫌いっていう人種だ。 私は小さく溜息を吐いた。 「それじゃ、このプレゼント案もダメになっちゃった……」 歌なら何でもいいってわけじゃないのなら、余計に歌をプレゼントになんかできない。 まして、今バサラはバースデーライブのことでご立腹みたいだし。 もう……ホント苦労する、この人といると。 「プレゼント?」 その声にはっとする。 いつの間にかバサラは演奏をやめて、こっちを見ていた。 「え、うん。私からの誕生日プレゼント……何がいいかと思ってバサラに聞きに来たの」 「そうだったのか……」 「最初に言ったじゃない」 「悪い、ライブのこと聞いて、ちょっとイライラしてた」 そういったバサラの表情は、何故だかさっきよりも落ち着いているように見えた。 それどころか、何だかわくわくしているような……? 「で?お前は何をくれるんだ?」 「えっと……歌、歌おうかなーと……ハッピーバースデーって」 妙に照れる。 こと歌に関しては、私なんかよりバサラの方が一枚も二枚も上手だ。 それに、全然お金のかからないプレゼントなんて、安易かもしれない。 だがバサラはニヤリと笑って、 「いいんじゃねえの?楽しみにしてるぜ」 「えっ?」 「よし、それなら俺も派手に暴れるとするか!」 「え……えぇ?暴れるって、ライブで?」 「当たり前だろ?言っとくが本気で行くからな。覚悟しとけよ!」 「……何を……?」 付いて行けなくなった私を置いて、バサラは再びギターをかき鳴らす。 なんだかよく分からないけど、とにかくやる気は出たようだ。 これって、私の……お手柄? バサラの好きなアーティスト。 それは、ただの熱気バサラじゃない。 本気で歌えた時の熱気バサラ。 今度のライブは、最高の出来になりそうだ。 |
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今回は連載の番外編です。多分時期的には三話と四話の間くらい? でも名前も呼んでないしキスもしてないわ…orz |