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FEEL UNIVERSE あたりは一面の、漆黒の闇。 感じられる生命の鼓動はお互いだけ。 シティ7を離れ、バサラとは今、宇宙を漂っていた。 「……バサラの言ってた『いい所』って……ここのこと……?」 眉を寄せたままは呟く。 普段であればバッチリ聞こえていたであろうそれは、真空空間のおかげでバサラまでは届いていないらしく、彼は首を傾げていた。 と、宇宙服を着たバサラの腕がの肩にかかる。 そのままぐっと引き寄せられて、いつの間にかはバサラの腕の中に抱きかかえられていた。 「何か言ったか?」 あ。 聞こえる。 抱きしめたのは、ヘルメットをくっつけることによって接触回線で声が聞こえるようにするため。 とはいえ、しっかり腰に回された手を見るに、それだけが目的ではないのだろう。 は再度同じことを告げた。 「いい所って、ここのことなの?」 「あぁ」 さも当然のように一言で答えて、バサラは笑った。 しかしには、あまりいい場所のようには思えなかった。 ふわふわしていて、どことなく落ち着かないし、何より、宇宙服のごわごわとした着心地ばかりが気になって、恋人と抱き合っているという実感が全くないのだ。 もっとも、バサラはそんなこと気にせずにの腰をしっかりと抱きかかえているのだが。 「ねえ、バサラ」 「ん?」 ヘルメットの振動を伝って聞こえる、普段よりくぐもった声。 「なんか……落ち着かないんだけど」 「そうか?お前は宇宙を感じないのか?」 「そんなの、分かるわけ……」 言葉の途中で、バサラが唐突に腕を緩めた。 軽くの体を押してやると、抵抗する間もなく慣性の法則に従い二人の身体は次第に離れてゆく。 片方だけ繋がった手と、背中に固定されたワイヤーのみが二人の生命線。 突然のバサラの行動に叫んでみても、真空の空間に遮られて、何も伝わりはしない。 もちろん、の側からも、バサラが何を言っているのか分からない。 が、彼は絶対笑っている。はそう確信していた。 しばらくしてバサラが手を引くと、二人はまた近づいて、再びお互いを抱きとめる。 「もう……何すんのよ!?」 「どうだった?宇宙は」 戻ってきてここぞとばかりに先ほどの不満を口に出す。 「どうって…………ちょっと、怖かった」 「凄ぇもんがなかったか?」 「凄いって、何が?」 「ったく……分かんねえ奴だな」 「分かんないのはバサラの方だよ」 ぐっと抱きしめる腕に力を込める。 やはり宇宙服のおかげで、いつもなら聞こえるはずの鼓動も何も聞こえなかったが、それでも構わず胸のあたりに顔をすり寄せる。 「一人でこんなとこ漂うより、こうしてた方がいいって、私は思うな」 「…………」 返事が無い。 いささか不安になり、顔を上げてみる。 バサラはを見つめたまま、呆けたような表情になっていた。 「…………え、俺?」 しばらくしてようやく聞こえてきたバサラの声は、やはりというかなんというか、さっきと同じ、間の抜けた響きがした。 「そうだよ?人間の身体って、小宇宙って言うほど凄いものらしいし。本物の宇宙は私にはスケールが大きすぎるし、このくらいでいいかな」 「…………」 ぽそりとバサラが呟く。 再び彼を見てにこりと微笑もうとした矢先に、思わぬ圧迫感にそれも叶わなくなる。 バサラが、思い切りの身体を抱きしめていた。 「バサラ?」 「……」 「ねえ、聞こえてる?」 「聞いてるし分かってる、ちょっとおとなしくしてろ」 「??」 わけが分からなかったが、は彼のなすがまま腕の中にいた。 バサラは背中に取り付けられた器具を噴射させバルキリーのコクピットを目指した。 シートに座ると、抱えていたを放して姫抱きに膝の上に座らせる。 「……もう帰るの?」 「ああ」 「なんでまた……」 が疑問を口にしている間にも、バサラはギター型の操縦桿をセットする。 おかげでさっきよりもバサラの顔が近くなる。 が、それすらも気にせず、バサラは続けた。 「宇宙より俺の方がいいってことだろ?」 「そ、そんなこと言ってないって……」 「いいや、言ったぜ」 「言ってないよー!」 胸の中でささやかな抗議を続けるに、バサラはいつものごとくニヤリと笑うのみだった。 バルキリーはもと来たシティへと戻っていく。 本物の宇宙よりももっと凄い、ヒトの鼓動をに聴かせる。 バサラはそう決めて、バルキリーを加速させた。 |
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小宇宙(しょううちゅう)です。コスモではありませ(略) ヒトの鼓動って何でしょう?……愛?(それは星の鼓動だ) |