Dream Drug


溺れるような恋がしたい。


ううん、確かに私は恋に溺れている。

例えば学校に行ったって、そうだ。


「跡部ってさ、実はいい人っぽくない?」
「あ、なんかそんな感じする!普通にいい部長だったりしそうー」
「しっかりしてるし、A型だしね」
学校の友達と、ある人物のことで話題が盛り上がる。
跡部景吾。氷帝学園三年、テニス部部長。俺様。テニスの鬼。完璧超人。
彼を言い表す言葉はいくらでもある。

ただ不思議なのは、私と他の子達では、彼のイメージというか、受け取り方が全く違うということ。
私は私の意見を抜きにしていい人トークに花を咲かせる友達に向かって言う。
「でも景吾俺様だし、やっぱり怖い面もあるって」
友達は私の言葉になるほど、一理あると頷いた。

でも、やっぱり何だか、違う。
「あーあー、中学生には見えないって感じ?」
「中学生でもこれだけエロいってことだよ!景吾に迫られたりしたら抵抗できないから!」
「あんたは最近のエロ少女漫画の読みすぎだってー」
「っていうか景吾って呼び方からしてちょっと痛いよねー」
友達はからかうように笑った。
いいじゃない、景吾って呼んだって。
私は呼んでもいいんだから。呼んでもいい人間なんだから。

「もう、みんな知らなーい」
それでも私は、そんな発言には目を瞑ってあげることにしている。
言っていたらきりがないものね。景吾だってきっと、そんなの放っておけって言うに決まっている。


そんな話をしながら、その日の学校は終わった。
授業の内容なんか頭に入ってこない。私の頭も心も、景吾でいっぱいで他のものの入る余地なんてない。


「……で、何も反論せずに帰ってきたわけか」
広い部屋に、高価そうなアンティーク。
全部この人の趣味だ。自分好みのものに囲まれた空間で、その人が放った言葉に、私はただ頷く。

「だって、何だか特別な気がして」
「特別?」
豪華な天蓋つきのベッドに二人して腰を下ろしている。私がそう言うと、彼は私の肩口にまで顔を近づけて聞き返した。
「みんな知らない景吾の一面を、私だけが知ってるってことでしょ」
そう言って答えると、私は彼──跡部景吾に寄り添うように身体を傾けた。すぐにそれを支えるように、景吾の長い腕が背中に回る。
「お前だけが知っている俺、か……」
やがて景吾は呟くように言うと、何かを思いついた顔で肩に置いた手に力を込めた。

まただ。
この人は私といると、本当に普段以上に自分勝手で傍若無人で、そして私を惹きつける。

肩の手が少しずつずらされ、やがて制服の襟に到達した。
「確かに魅力的な言葉ではあるが……それは本当に、お前が望んでいる俺なのか?」
「望むも何も、私は景吾の全てが好き。かっこいい景吾も、優しい景吾も、俺様な景吾もエロセクハラ魔人な景吾も」
「そりゃ褒めてんのか?」
「もちろんだよ!私が景吾の悪口言うわけないじゃない?」
景吾は引きつった顔すらも芸術的だ。そして私は彼のそんな表情もとても好き。
ある程度わざとやっているこの言い合いの後、景吾は決まって私に手を出してくる。
それを拒んだことは無い。

ううん、拒みたくたって拒めない。景吾だからこそ、私は全てを託せるのだ。
襟にかかった手が、首筋を伝って鎖骨を滑る。
「それじゃ、望み通りにしてやるぜ……?……」
「ん……」
同時に耳に息がかかり、私は軽く身震いする。
触れられた所からじわりと熱くなってくるのが分かる。こうなるともう、私に逃れる術はない。
いや、逃れようという思考さえも奪われてしまうのだ。この男には、そんな力がある。

いつの間にか私はベッドの上に組み敷かれ、両腕を景吾の手によってシーツに縫い付けられていた。
ほどかれたタイをもう片方の手でするりと抜き取られる。衣擦れの音が響いて、それだけでもう背中が跳ね上がった。
「どうした?今日はやけに敏感じゃねえか」
「そ、そんなこと……っ」
いきなり首筋を吸われて、息がつまった。

いつもより感度が良い理由なんて、そんなの自分でも分からない。
ただ、今は、黙って身を委ねていたい、そんな気分だ。

肌の上を景吾の指が通り過ぎるたび、私の中の何か大事な一部分がどこかへ飛んでいってしまいそうな錯覚を覚える。
だんだん目の前が真っ白になっていく。

気を失うのは、嫌。
景吾の姿が見られなくなる、景吾の声も聞こえなくなる。
それでも抗えない何かに流されるようにして、私はそのまま意識を手放した。


「気がついたかい?」
ゆっくりと目を開けると、薄暗いなかにぼうっと人の顔が現れる。身体を揺らして私の覚醒を促すそれは、景吾のいつもの乱暴なしぐさでなく、母に優しく揺り起こされるもののそれだ。
最初はどうしてこんな所に母さんなんかがいるのだろう、と思った。さっきまで景吾と一緒にいたのに。視界がはっきりしてきたので、身体を起こして母親に一言文句を言ってやろうと視線をきつくする。

しかし、私を揺り起こし、声をかけてきたのは母ではなかった。
そこにいたのは全く知らない男の人。
私は焦った。
「あなた誰?そうだ、景吾…景吾は!?」
「景吾?僕は……」
こんな人知らない。
よく見ると、今いるこの場所は私の部屋でも景吾のうちでもない。

嘘だ、嫌だよ、そんなのは。
男が再び肩に手を伸ばす。私に触れないで。私をこんな所に『連れ戻さないで』。
「嫌ぁっ!ここは嫌!」

何かがはじけたように、私は彼の手を振りきり、首を激しく振った。


だってこんなのは、私のいるべき所じゃない。


「いや……景吾…景吾の所に戻して……!」

私は半泣きになりながらも、景吾のいる私の世界へ帰ろうとした。
でもどうやったらいいのか分からない。ただ、目の前にある機械をどうにかすれば帰れるということだけは分かっているのに、具体的にどうしたらいいのか分からない。
景吾、景吾。たすけて。
私、あなたに会いたいの。もう一度会って、またあの夢のようなひと時を過ごしたいだけなのに。

必死になっている私には、さっき自分を起こした男のことなど、目に入っていなかった。
「……やむをえんか」
そんな小さな声が聞こえると、いきなり大きな腕に胴体をつかまれ、カプセルから引きずり出された。
ぶちぶち……と嫌な音がして、私と景吾とを繋いでいた絆が引きちぎられる。
「きゃぁああああっ!助けてっ!景吾!景吾ぉっ!!」
ここを出てしまったら、引き離されてしまったら、ますます景吾から遠くなってしまう。私は力を振り絞って抵抗したが、なぜか思ったように体が動かずあっけなく腕の中にとらわれる。
「……すまない」
なにか謝罪の言葉を聞いたのも束の間、鳩尾に鈍い衝撃を感じて全身から力が抜けていった。

「けい、ご…………」
鈍い音がして、だんだん意識が薄れていく。
でも、これでまた景吾に会えるんだよね。それなら、全然平気だから。
だから、私のこと弱い女だなんて思わないで。絶対そっちに帰るから、その時はまた笑って私を受け入れて。


…………あれ。

意識が落ち続ける感覚があるのに、今回はいつまで経っても、景吾のもとへたどり着けない。
どうして。
今までは、深く眠りに落ちるような感覚とともに、景吾が迎えに来てくれたのに。

どうして……


きっと催眠のしかたが弱いんだ。
そう思い、心を落ち着けてもう一度、景吾を思い出してみる。
念じるだけでうまくいくかどうか分からないけど、景吾ならきっと、私を見つけてくれる。

でも、かわりに聞こえてきたのは。


「ねー、今週のテニプリどうだった?私まだ読んでないのー」
「凄かったよー!あのね、跡部がねえ……」

ああ、いつもの級友達との他愛のない会話。
こんなのはどうだっていいの。早く放課後になって、景吾のところへ帰りたい。
……帰る?
「あれ、もう帰るの?部活にでも入ればいいのに」
「だってそんなことしてる暇が惜しいんだもん」
「あ、もしかしてあれ?ドリーム小説体感システム!」

…………何の、こと。

そもそもテニプリって、そんな言葉あったっけ。
ああ、そうだ。景吾の出ている漫画だ。

漫……画…………

それじゃあ今まで私がいたのは……
どういうことなの、教えて、景吾……け、い、ご…………?

何かが私の肩口に触れる。それに反応するようにそちらを向くと、やっと目が正常に戻り、人の顔が見えた。
そのよく見知った顔は、不思議そうに私を見下ろすと、覆いかぶさったまま呟いた。

……どうした?あんまり良すぎて気でも飛んでたか?」
「……けい、ご…………」
自分の身体を見てみると、さっき中途半端に脱がされたままだ。
ああ、戻ってきた。自然と頬が緩むのを感じた。

それを見てのことか、景吾は怪訝そうに眉をしかめるとぽつりと漏らす。
「なあ、お前……今までどこに行ってたんだ?」
「え?」
「えじゃねえよ。ほんの数分だが、いきなり目の前から消えちまった時はさすがに驚いたぜ」

景吾の口からそんな言葉が出るなんて。
ということは、いきなり変な所に飛ばされたのは私が見た白昼夢というわけじゃないのかな。
でももう大丈夫。

「ちょっとね……異世界の侵略者にさらわれそうになっちゃった」
「……テメェ、正気か?」
おどけたように言うと、案の定景吾は綺麗な目を細めて視線を強くする。
まさか本当のことを言っても信じてもらえるわけじゃないし、上手く誤魔化していいところだと思う。だからそれ以上は何も言わなかった。
きっと呆れているだろうけれど。もしかしたら今日の続きは無しになってしまうかもしれないけれど。
それはそれで、そんな日もまたいい。

そう思っていると。
「…………馬鹿。心配……したんだからな」
「景吾……」
反則だ。
そんなこと、抱きしめながら言うものじゃない。
思いがけない優しさに胸が熱くなる。いつもはこっちが嫌になるくらい強引で俺様で鬼畜でエロくて…………でももう、いいや。
そんな景吾も、今の優しい景吾も、どちらも私の一番好きな人だ。細かいことを言うのはよそう。

「……で、当然心配かけた分のお返しはしてくれるんだろうなぁ、ああ?」
「えっ、ちょ、景吾……さん?」
「景吾『様』だろ?」

もう私、この人の甘い言葉には騙されない。
何度も誓った言葉だけど、今回は絶対だ。

シーツの海に溺れそうになりながら、心の中でそんなことを呟く。
そうやって、でも結局また騙されたり絆されたりしながら、きっとこの夢は一生続く。


私の、意のままに。




イタい子書くの楽しいー!
少コミ系跡部書くのも楽しいー……くはないか、あんまり(笑)
あ、KANAMEは跡部は普通の子だと思いますから、一応。

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