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タイトル「思想戦」としてのテロ
記事No21
投稿日: 2004/12/19(Sun) 23:12
投稿者北の狼(山椒庵)
題:香田君惨殺:自己責任について
氏名:北の狼 /日:2004/11/04(Thu) 02:15 No.1138

香田君の殺害について、巷間で「自己責任論」をよく目にします。
イラクへ旅行するのは自由だが、その自由には誘拐され殺害されるかもしれないという危険性がつきまとい、そのことは甘受しなければいけない、といった言説です。
さらには、香田君がその危険性を察知できていなかったとしてもーーー実際には周囲の人たちがしきりに注意・警告していましたので、この仮定は成り立ち難いですがーーー、その「無知」はやはり香田君の責任に帰されるべきである、と続きます。

上はある意味その通りで、ここでは、そのこと自体についてとやかく言うつもりはありません。
ただ注意しなければいけないのは、この「自己責任論」がどういう”文脈”で用いられているのか、ということです。

1)日本政府(小泉首相)の言明に対する擁護として
 日本政府(小泉首相)が「自衛隊は撤退しない」と言明したことによって香田君は殺害されはしたがーーーただし、香田君は48時間の期限以前に、つまり誘拐直後に既に殺害されていたという情報もありますーーー、責任の所在は本来的に香田君自身に帰されるべきあり、日本政府の責任問題には発展しない。

2)日本政府(小泉内閣)の方針に対する批判として
 危険地帯にあえて踏み込んだのだから、香田君が殺害されたのは、ある意味当然ともいえる。しかし、そもそも自衛隊をイラクに派遣していることこそが間違いのもとなのであって、自衛隊を撤退しない限り同様の事件は起こりうる。自衛隊を撤退させるべきである。

私は、上の二つの所論のどちらにも与しません。
なぜなら、上のいずれも、「香田君殺害の”絶対的”責任は、殺人犯たるザルカウィ一派にある」という視点が欠落しているからです。

「香田君がイラクに旅行したから殺害されたのだ」という言説(自己責任論)は、「自衛隊がイラクに派遣されているから事件が起こるのだ」という言説同様、事象の”意味”を考察しない単純な因果論にすぎません。
以下に『おちょくり塾』の私の投稿から引用しますので、参考までに。


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原理的思考とは  氏名:北の狼  日:2004/10/31(Sun) 23:07 No.1107

(前略)

>自衛隊の派遣がなければ事件は起こらなかった。

この種類の単純な言説(因果論)は、俗耳に受けやすいものです。
歴史認識論争においては、例えば「日本が中国にいなければ、『通州事件』も『南京事件』も生じなかった」といった左翼や中国側の言説があります。この種の言説をはく者は、「原理的思考」ができていないのです。「原理的思考」は、「原理主義」とは似て非なるものですので、誤解なきように。
今回の例で、「自衛隊の派遣」と「テロ」の関係を考えてみましょう。

「原理的思考」の第一歩は、”意味”を考えることです。

私は「自衛隊の派遣」を支持していますが、その理由を羅列しますと・・・・イラク人民のため、一国平和主義の打破、アメリカとの同盟関係重視、北朝鮮(拉致)問題でのアメリカの協力、軍事大国中国に対抗、領土問題(竹島、尖閣諸島)関連、既成事実を積み上げ憲法改正のテコとする、といったところです。つまり、国益重視ですね。これが私なりに「自衛隊の派遣」を支持する”本質”です。
対して、「テロ」は、国益に適わないどころか(皆が認めるように)平和を脅かす絶対悪なわけですが、今回のテロ(香田君殺害)は、「自衛隊派遣」という行為に伴って生じた”現象”です。

”本質”は行為の目的、”現象”はその行為に伴って生じる副作用といってもいいものですが、それに置き換えて考えてみましょう。

・手術に例えれば、病気の治療が目的、(手術に伴う)合併症が副作用です。
・資本主義社会に例えれば、自由の獲得が目的、貧富の格差が副作用です。
・自動車に例えれば、利便性や娯楽性が目的、事故や環境汚染が副作用です。
・自衛隊の派遣は、国益(普通の国になること)が目的、テロに巻き込まれることが副作用です。

確かに、行為(手術、資本主義、自動車、自衛隊の派遣)を放棄すれば、副作用(手術の合併症、貧富の格差、事故や環境汚染、テロ)をなくすことができますが、同時に目的(病気の治療、自由の獲得、利便性や娯楽性、国益)も放棄されることになってしまいす。
しかし、人はそれで納得できるのでしょうか? 

人が納得できるのは、より少ない副作用でもって目的を達成できる、別の行為が示される場合に限られます。
しかし、「自衛隊の派遣がなければ事件は起こらなかった」という言説には、目的(国益)を達成するための、よりよき別の行為がまったく示されていません。ですから、この言説は空虚に響くだけなのです。
「事件」という副作用を重大視して「自衛隊の派遣」中止を求めるのであれば、「自衛隊の派遣」という行為の目的(本質)を捉えて、その目的を達成するためのよりよき別の行為を示す・・・・これが責任ある言説というものですが、岡田民主党代表の言説にはそういう視点が全く欠落しているのです。


【目的(本質)を考慮することなく、副作用(現象)のみを取り上げて、行為を否定しにかかる。】

こういう思考法は、(事象や行為の意味をこそ考察する)「原理的思考」ができない連中が陥るものであり、その典型が(政治・思想・宗教・民族対立を基にした)イデオロギー的思考というものです。

「自衛隊の派遣」によって実現される国益を重視すると同時に、「テロ」を撲滅するべきと考えるならば、とるべき態度は以下のいずれかです。

1)「自衛隊の派遣」を堅持して、テロには断固たる態度で臨む。
2)テロには断固たる態度で臨みながら、「自衛隊の派遣」を中止するとともに、それに代わって国益を実現できるものを示す。

そして、以下はまさに最低の態度ということになります。

3)口先でテロを非難するだけで、(テロに屈して)「自衛隊の派遣」の中止を要求し、それに代わって国益を実現できるものも示しえない。

共産党、社民党、そして岡田民主党代表らがとっている態度が「3)」であり、政治家としてまさに最低といっていいでしょう。

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因果論を唱えるのであれば、ザルカウィ一派をこそ(香田君殺害の)原因のメインに据えなければ本質を見逃します。
香田君殺害事件の”絶対悪”(絶対的原因)は、あくまでザルカウィ一派にこそあるのです。対して、「イラクへの旅行」や「自衛隊の派遣」は、どうひいき目にみても”相対悪”(相対的原因)にすぎません。
そして、”絶対悪”(絶対的原因)をなくす努力をしないことには、”相対悪”(相対的原因)をいくら批判しても、問題の根源的な解決には至りません。例えば、ザルカウィ一派がその勢力を保持し続ける限り、邦人がイラクに旅行しなくても世界各地で危険にさらされ続けるでしょうし、また、自衛隊を撤退しても日本がアメリカ支持を表明し続ける限りザルカウィ一派による日本非難(脅し)が止むことはないでしょう。

そして、”絶対悪”(絶対的原因)たるザルカウィ一派に対する我々庶民の心構えは以下のようなものです(『おちょくり塾』から再掲)。


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テロの論理  氏名:北の狼  日:2004/10/28(Thu) 12:48 No.1074

共産党や社民党などが、今回の誘拐事件についてコメントし、一方でテロ行為を非難し、他方で「イラクからの自衛隊撤退」を要求していますが、彼らは自分たちが何を言っているのか分かっているのでしょうか?

「聖戦アルカイダ組織」(ザルカウィ一派)の狙いは、通常のテロ組織と同じく、「政治目的」の達成に他なりません。その「政治目的」とは、外国軍隊のイラクからの撤退です。


人質を誘拐・殺害する。
 ↓
残虐な映像をネットで流す。
 ↓
人々の心に”恐怖(テラー)”をうえつける。
 ↓
世論を、テロ組織の狙いどおりに誘導する。
 ↓
政治目的(外国軍隊のイラクからの撤退)を達成する。


これは、「テロの論理」のイロハです。
一連のテロの動きを追ってみますと、テロ組織(特にザルカウィ一派)はこの論理に忠実にかつ冷酷に行動していることがみてとれます。

我々庶民がテロ組織に対抗する(殆ど唯一かつ)有効な方法は、以下の段階で論理の連鎖を断ち切ることです。

人々の心に”恐怖(テラー)”をうえつける。
 ↓
世論を、テロ組織の狙いどおりに誘導する。

テロを非難するのであれば、このことをこそ実行しなければなりません。
ところが、あろうことか、(テロの尻馬にのって)「イラクからの自衛隊撤退」を要求している共産党や社民党というのは、この連鎖をより強固なものにしようとしているわけです。つまり、彼らは、テロ組織の狙いどおりに行動しているのであり、テロの間接的協力者と言っても過言ではないのです。こういった愚かな連中がいる限り、テロ組織は誘拐・殺害を止めません。

テロ組織というのは、あくまで政治的な組織なのであって、政治的効果が期待できないような行動はとりません。このことを銘記すべきです。

共産党や社民党のごとく、テロの尻馬にのって自分たちの政治的要求を満たそうというのは、火事場泥棒に等しき所業ではないでしょうか。
テロは絶対悪ですが、「イラクへの自衛隊派遣」はどうひいき目にみても、せいぜいが相対悪です。
まずは、絶対悪を根絶することに全力をあげるべきなのです。

==================


「自己責任論」が香田君の行為に対する批判の論拠として使用されることは間違っているとは思いませんがーーーただし、香田君は既にその「責任」をとるカタチで殺害されたのですから、私はこれ以上言いつのるべきではないとも思いますーーー、「自己責任論」によってザルカウィ一派の行為の極悪性を相対化しようという態度は誤りですし、また、「自己責任論」をいくら唱えても、テロ撲滅に向けた努力の必要性が軽減されるわけでもありません。

香田君殺害の”絶対悪”(絶対的原因)はザルカウィ一派であり、絶対に許してはならない・・・・・我々がこのことを軽視して追求の手を緩め、結果としてザルカウィ一派をつけ上がらせ、さらなる悲劇(凶行)を招くことになったとしたら、今度は、それは我々の「自己責任」ということになるでしょう。


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題:「思想戦」としてのテロ
氏名:北の狼 /日:2004/11/04(Thu) 21:52 No.1139

私は先の投稿で、「テロの論理」を以下のように説明しました。


===============
人質を誘拐・殺害する。
 ↓
残虐な映像をネットで流す。
 ↓
人々の心に”恐怖(テラー)”をうえつける。
 ↓
世論を、テロ組織の狙いどおりに誘導する。
 ↓
政治目的(外国軍隊のイラクからの撤退)を達成する。
===============


この「テロの論理」は、「思想戦」の範疇内で解釈することが可能です。
そこで「思想戦」ですが、概略は以下のようなものになります(『プロパガンダ戦「南京事件」』、松尾一郎著)。


===============
今まで「戦(いくさ)」と申しますと、それは武力と武力との戦、即ちいわゆる武力戦はほとんど全部であったといっても過言ではありません。
ところが近代になりましてからは、平時戦時の明確な区別が次第になくなって参りまして、戦は平時から経済、外交、思想などのあらゆる方向において行われている様な状態であります。
そこで私は思想戦というものの重大さを広く皆様に認識して頂きたいのであります。

思想戦という言葉はお解り難いと思いますが、思想戦は平時と言わず、戦時事変と言わず、常に絶えず行われている「武器なき戦い」であります。
これを戦時事変で申しますならば、思想戦は相手方にわが正義の存する所を伝え、我が威力を識(し)らせてその戦意を失わせ遂には我に帰一させ、また第三者の認識を是正しその態度を有利に展開させて戦争目的を達成するために用いられる手段であります。
即ち戦場に在っては戦線の崩壊を促進させ、敵国内に対しては戦争遂行の意思を挫折させ、第三国に働きかけては戦争を有利に終結へ導く為に用いられるのであります。

さて思想戦は世界大戦の時に盛んに行われました。
世界大戦は武力戦から経済戦へ、経済戦から思想戦へと移った、しかも思想戦が大いなる威力を発揮して武力戦さえ圧したといわれる位であります。
今回の支那事変におきましても、思想戦は盛んに行われているのであります。
それでは平時における思想戦とは何かと申しますと、それは我が方の正しいと信じる考えを彼に伝えて彼の迷蒙を解き、彼をして我に帰一し同一の理想実現に向かわしめる為の手段であります。
平時の思想戦に敗れた国家は、武力戦を待たずして敵に屈服せねばなりません。

(中略)

これから思想戦は一層大切になって参ります。
思想戦における宣伝の威力は益々発揮されなければなりません。
しかも国民の一人一人は日々の思想戦の戦士であります。
それはどういうことかと申しますと、国民の各自が夫々の仕事の中で、正義日本の真意を、躍進日本の真の姿を海外に知らせることも出来ますし、日本精神の発揚に貢献することも出来るのです。
それは平素の心構え、ちょっとした工夫で出来るはずであります。
私は今後挙国一致して長期戦に対処するために、武力戦の戦場に立たぬ国民各自も思想戦の戦士としてご活躍願いたいと存じるものであります。

・・・・・・『思想戦について』(横溝光輝によるラジオ放送より)
================


横溝氏のいう思想戦は、技術的には宣伝戦と殆ど同義なのですが、宣伝によって人を”納得”させて政治目的を達成するものです。対してテロは、人の心に”恐怖(テラー)を植えつけて政治目的を達成します。
つまり、宣伝とテロでは、”納得”と”恐怖”という違いはありますが、人の心に干渉して政治目的を達成するという共通点があり、この点で同じく思想戦の範疇に属するといえるわけです。

ですから、香田君の殺害に接して「自衛隊は撤退すべし」との主張が蔓延した場合、日本は思想戦に敗れつつあり、武力戦を待たずしてテロ組織に屈服しつつあるともいえるわけです。
もっとも、左翼のごときは、日本政府を屈服させること自体を本来の目的として、敢えてテロ組織の代弁者に成り果てているといった観がありますが。実は、日本の左翼が現在でも唯一優位を保っているのが、思想戦におけるこの技術(宣伝)なんですね。

このような思想戦に敗れないためにも、日本国民一人一人が「思想戦の戦士」であるとの自覚のもと、「平素の心構え」から鍛えていく必要があります。
そのために、以下のように実践することの重要性を私は再度説くものです。


=================
我々庶民がテロ組織に対抗する(殆ど唯一かつ)有効な方法は、以下の段階で論理の連鎖を断ち切ることです。

人々の心に”恐怖(テラー)”をうえつける。
 ↓
世論を、テロ組織の狙いどおりに誘導する。

テロを非難するのであれば、このことをこそ実行しなければなりません。
=================


ところが、過去の例に照らし合わせて、日本人はこの思想戦がすこぶる苦手のようなんですね。その弱さが、殆ど日本の文化的レベルにおける特徴なのではないか、とさえ思えてくるほどです。
外国(とりわけ中国や韓国)にとって、これほど組しやすい国もないでしょう。

松尾一郎氏は前掲書の最後を「日本政府が、このような国際宣伝(情報・思想)戦に対し、現在もなお有効な対策を打ち出せない以上、今後も悲しい敗北をつづけるのは間違いない」としめくくっていますが、私もまったく同感です。
しかし、日本政府が頼りにならない以上、良識ある国民一人一人が「思想戦の戦士」であるとの自覚のもと戦いを挑むしか、この状況を打開する手立てはないでしょうね。現状を顧みるに、非常に困難な道であるとは思いますが。


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題:ヴェストファーレン体制
氏名:北の狼 /日:2004/11/07(Sun) 22:34 No.1141

本日(11月7日)の『読売新聞:地球を読む』に、キッシンジャー元米国務長官が「ブッシュ政権の責務」と題して寄稿しています。
現在、世界の安全保障を脅かすものとして「テロ」と「核拡散」をあげて、米国がこれらの問題に真剣に取り組むことを、米国新大統領(ブッシュ)の責務として論じています。そこで、「テロ」について、以下のように評価しています。

”前線も地理的な定義もない戦争を遂行しなければならない。しかも同時に、世界貿易センターと米国防総省から上がる煙とともに消滅した伝統的な世界秩序に代わる、新たな世界秩序の基本原則を構築しなければならない。これはかつて一度もなかったことである。・・・・・・
しかしながら、ソ連の挑戦が具体的かつ地理的に定義し得るものだったのに対し、今日の主要な脅威は抽象的で、かつ所在が一定しない。・・・・
一つはテロである。つい最近までは国内警察力の対象とみなされていたのに対し、いまや国際的な政策が求められている。”

上でキッシンジャーが述べている「伝統的な世界秩序」とは、「ヴェストファーレン(ウエゥトファリア)体制」のことです。

* ヴェストファーレン体制  出典: フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia)』
 ヴェストファー%8

タイトルRe: 「思想戦」としてのテロ
記事No23
投稿日: 2004/12/19(Sun) 23:18
投稿者北の狼(山椒庵)
題:ヴェストファーレン体制:今後
氏名:北の狼 /日:2004/11/09(Tue) 22:17 No.1148

三十年戦争後の1648年、ヴェストファーレン条約によってもたらされた、「ヴェストファーレン体制」すなわち「勢力均衡(バランス・オブ・パワー)体制」ですが、この体制がアメリカとイスラム過激派との対立・抗争によって動揺していると「No.1141」で述べておきました。
この動揺の原因は、対立する双方の陣営からもたらされたものです。一方で、イスラム過激派(アルカイダ等)からは、「文明対立」型のテロという新たな形態の戦いによって、他方で、アメリカからは、別の国家(アフガニスタン)にテロ組織(アルカイダ)の巣窟があるという理由で先制攻撃を行い、さらにはイラクまでをも攻撃し政権を打倒してしまったことによって。
その辺を捉えてキッシンジャーは以下のように述べているわけです(再掲)。

”世界貿易センターと米国防総省から上がる煙とともに消滅した伝統的な世界秩序に代わる、新たな世界秩序の基本原則を構築しなければならない。これはかつて一度もなかったことである。”

ただし、私は同時に、このキッシンジャーの捉え方に対して疑問を呈しておきました。以下のように。

”理由がある先制攻撃を「自衛戦争」の一種と解釈することも可能です。また、アフガニスタンが国家としてきちんと機能していれば、「9.11」のようなテロは起こりえなかったともいえるのです。”

つまり、私の考え方は、ヴェストファーレン体制は確かに動揺してはいるが、その世界秩序は「消滅した」わけではなく、また消滅させるべきでもない、というものです。

この問題(ヴェストファーレン体制存続の是非)は、キッシンジャーの言うとおり「9.11テロ」直後から浮上してきたものですが、その根底には「リンケージ」論が、またその背景には「ネオコン」流の思想があると、イラク攻撃直前にしきりに囁かれていたものです。
その辺のことを、かつて私は投稿して説明したことがありますので、それから一部抜粋して再掲しておきます。


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・「リンケージ」論

「リンケージ」とは、そもそもは、1990年の湾岸危機の際にイラク側が持ち出した論法のことである。クウェートを侵略し国連から撤退要求を突き付けられたイラクは、以下のように応じた。

”もしイラクのクウェート占領が違法であるならば、イスラエルのパレスチナでの占領の継続も違法である。イラクに撤退を求めるのであれば、イスラエルにも占領地からの撤退を求めるべきである。”

つまり、中東の西(イスラエル・パレスチナ問題)と東(ペルシャ湾岸問題)をリンクさせ、欧米はダブスタだと批判したのである。これは、サダム・フセインの「リンケージ」論として知られるようになった。湾岸戦争の際、イラクはイスラエルをスカッドミサイルで攻撃したが、この「リンケージ」論と無関係ではなく、フセインは、イスラエル・パレスチナ問題を持ち出して反イスラレルひいては反アメリカによるアラブ諸国の結集、そこまでいかずともアメリカに協力的なアラブ諸国の態度を牽制しようとしたのであった。
しかし、フセインの「リンケージ」論は、政治的には殆ど効果がなかった。この「リンケージ」論を公然と支持したため、PLOなどは、中東産油国から資金援助が停止され、さらに湾岸地域のパレスチナ人労働者が追放され「解放税」も激減し、深刻な財政難に陥ったほどである。

実は、ブッシュ大統領(父親)は、湾岸危機でアラブ諸国に協力を求める際に、見返りとして中東和平(イスラエル・パレスチナ問題)への取り組みを約束していた。中東和平の実現を保障できる国があるとしたら、当時も今もアメリカをおいて他にはない。その話しにアラブ諸国はのったということだ。
イスラレルにしても、またアメリカ在住のユダヤ人にしても、当時は問題の解決を渇望する気分が高まっていた。もちろん、アメリカも、石油の安定供給という必要性から、中東の混乱と不安定は望んでいなかった。これは、サダム・フセイン流の「リンケージ」論に対してブッシュ流の「リンケージ」論といってよく、前者は実現しなかったが、後者は「中東和平国際会議」(1991年、マドリード)として実を結び、これが1993年の「オスロ合意」の布石となったのだ。

今回のイラク攻撃においても、「リンケージ」論によってアメリカの行動を説明するむきがある。
例えば、今年3月にマレーシアの外相が「アメリカをあおり、イラク攻撃をさせようとしているのはイスラエルであり、アメリカのユダヤロビーだ」と非難している。同時期にアメリカの民主党議員からも「ユダヤ人があおったためにアメリカ政府は後退出来ないところまで、イラクとの緊張状態をつくってしまった」という発言が出ている。これらも、「ユダヤロビー」と「イラク攻撃」をリンクさせて、つまり中東の西(イスラエル・パレスチナ問題)と東(ペルシャ湾岸問題)をリンクさせて論じており、一種の「リンケージ」論といってよいであろう。


・「ネオコン」

このユダヤロビーで、最近よく話題になっているのが「新アメリカの世紀プロジェクト」(PNAC)である。
これは、著名コラムニストで保守系雑誌「ウィークリー・スタンダード」の主幹のウィリアム・クリストス氏が5年前に創設した外交・安保問題の研究所で、中心的思想は「軍事力を積極的に行使し、自由や人権、民主主義、資本主義といった米国的価値観を世界に普及させる新保守主義」(ドネリー副事務局長)で、「パックス・アメリカーナ」を公然と唱える、「新保守主義」すなわち「ネオコンサーバティブ(略称ネオコン)」の一派である。イラク・フセイン体制打倒を強く求めてきたのはこの研究所のメンバーであり、国防費増大をも主張している。
副事務局長のインタビュー(「世界に米の原理を」)には以下のようにある。

「力(パワー)を積極的に行使するよう政府に働きかけ、米国の原理原則を世界に広めることが目標だ。反民主主義的な敵は『米国の覇権主義』と批判するが、強大な米国の力を認めざるを得ない。
具体的には、政権内の多くの友人と接触するほか、ワシントンの重要人物2500人にニュースレターを出している。
ブッシュ大統領は、米国の過去を恥じるベトナム戦争時代のクリントン前大統領と異なり、米国の指導力を発揮するだろう。だが、(国家間の)力のバランスだけを信奉する現実主義者が政権内にいるので心配だ。
イラクのフセイン政権打倒が望ましいという点では、政権内の認識はほぼ一致している。問題はどう倒すかだ。地上軍を当初から大胆に投入し、反政府勢力の蜂起を促すべきだ。・・・・
最近、欧州諸国の対米協力を取り付けることがますます難しくなってきた。この点、日本の対テロ戦での協力は前向きだ。欧州も日本のように成熟してほしい。」

このインタビューにある(ブッシュ政権内の)「(国家間の)力のバランスだけを信奉する現実主義者」とは、パウエル国務長官のことに他ならない。
この研究所のメンバーとして、チェイニー副大統領、ラムズフェルド国防長官、ウォルフォビッツ国防副長官、ライス国家安全保障問題担当大統領補佐官、リチャード・パール国防政策委員会委員長、ロドマン国防次官補、リビー副大統領首席補佐官、カリルザード・アフガン担当大統領補佐官、アブラムズ国家安全保障会議部長、ドブリアンスキー国務次官などのブッシュ政権幹部がずらっと並んでいる他、ジェブ・ブッシュ・フロリダ州知事(大統領の実弟)、クエール元副大統領、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官、フランシス・フクヤマ、ジェームズ・ウールジー元CIA長官、ローゼーン・ハーバード大教授、コーヘーン・ジョンズホプキンズ大教授などが名を連ねているという。
私は先の投稿で紹介したが、「9・11テロ」直後の9月19、20の両日に同時テロへの対応を計19時間にわたって協議して、一刻も早くイラクを攻撃対象とすべきだとの考えで一致し、イラクが同時テロに関与した証拠を把握して攻撃に踏み切るよう国防総省に進言した国防総省の諮問機関「防衛政策評議会」と殆ど同様のメンバーである。

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上でドネリーは、「(国家間の)力のバランスだけを信奉する現実主義」すなわち「ヴェストファーレン体制」・「勢力均衡(バランス・オブ・パワー)体制」を批判していますが、この主張はキッシンジャーの主張と重なってきますね。欧州各国がアメリカのイラク攻撃を牽制した理由のひとつはこの点にあった、ということはひとつ銘記しておくべきでしょう。

また、ドネリーは「日本の対テロ戦での協力は前向きだ」と評価していますが、日本としても、中東の西(イスラエル・パレスチナ問題)と東(ペルシャ湾岸問題)をリンクさせる「リンケージ」論や、「ネオコン」に代表される「脱・ヴェストファーレン体制」思想に今後どう対峙するのか、そろそろ熟考の時期にきていると思います。
とりあえず今は、私は、新ブッシュ政権がパウエルやアーミテージといった「ヴェストファーレン体制」保持論者をどう処遇するのか、注目しています。



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題:アイリス・チャン氏が自殺したそうです
氏名:北の狼 /日:2004/11/11(Thu) 23:47 No.1149

世紀の「偽書」である『ザ・レイプ・オブ・ナンキン』の著者アイリス・チャン氏が自殺したそうですね。


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 【ロサンゼルス10日共同】 旧日本軍による南京大虐殺事件を検証し、米国でベストセラーとなったノンフィクション「ザ・レイプ・オブ・ナンキン」の著者、アイリス・チャンさん(36)が、米カリフォルニア州中部サンタクララ郡で死去したことが10日、確認された。自殺とみられる。AP通信などが伝えた。
 チャンさんは9日朝、郡内の自宅に近い路上に止めてあった車の中で死亡しているのを通行人が発見、警察に通報した。検視などの結果、チャンさんは頭部への銃弾1発で死亡しており、車内の状況などから、捜査当局は自殺とみている。
 AP通信によると、チャンさんは第二次世界大戦中フィリピンで旧日本軍と戦った米兵についての取材を続けていたが、最近はうつ病で入院するなど健康上の悩みを抱えていたという。

http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=MRO&PG=STORY&NGID=home&NWID=2004111101001112
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アイリス氏に対しては、最近このようなことが報道されていますが、このことが影響していたのかもしれません。


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アイリス・チャン著書 米誌が叩く

 90%のでっち上げ写真でベストセラーとなった『ザ・レイプ・オブ・ナンキン』の著者で在米中国人のアイリス・チャンが新刊『アメリカにおける中国人』を著した。
 中国人移民の迫害された歴史を物語風に綴り、アメリカの白人に「いじめっ子」の印象を図ったものだが、米週刊誌「TIME」最新号は、カラー写真を駆使、大きなスペースを割いて書評を掲載、「アイリスの文章は歴史的証拠の裏付けを欠く」と酷評した。「TIME」はチャンの中国史における歴史記述は「愛国ナショナリズム」を獅子吼する大陸中国のそれと同じで「チベット、ウイグル、モンゴルは5千年前から中国の領土」とするなど「浅薄な中華思想、ロマン主義に陥っている」とした上で「過去の歴史を矯正し、改訂するというけれど、その目的は本書にこそ必要だ」と扱き下ろした。

(『国民新聞』 平成15年9月25日)

http://www5f.biglobe.ne.jp/~kokumin-shinbun/H15/1509/1509056chan.html
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彼女に対しては同情することも哀悼の意を捧げることもしませんし、(中国人ではあるまいし)死者を鞭打つこともしたくはありません。
ただ、彼女個人より、『ザ・レイプ・オブ・ナンキン』にこそ”亡くなって”欲しかったです。

また、アイリス氏の活動(『ザ・レイプ・オブ・ナンキン』の執筆や『ラーベの日記』の発掘)の背後には中共のバックアップがあったことは確実です。


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アイリス・チャン 背後に中共政府

 月刊誌「文藝春秋」9月号に掲載された国際政治学者、浜田和幸氏の論文によると、米国で20万部のベストセラーとなっているアイリス・チャン著『ザ・レイプ・オブ・ナンキン』の刊行に、中共政府と米国諜報機関の一部の反日勢力が結託して関与している疑いが強い。

 浜田氏はクリントン大統領訪中のころ、ワシントン・パトマック河畔の中華料理店で開かれたアイリス・チャンの支援団体が主催するディナーパーティーに参加したが、内容は日本糾弾集会で、人通りの多い店先に日本軍による残虐行為とする写真を展示、添えられたアピール文には「日本軍による残虐行為の犠牲者は南京での30万人に留まらない。アジア全体で見ると、日本の非人道的殺戮行為の犠牲者は3000万人に達する。このような極悪非道を重ねながら、日本政府は公式の謝罪を拒み、被害者に対する補償も全く行っていない」とある。

 さらにドイツ・ナチスのユダヤ人迫害に対する補償、米国政府の捕虜収容所への日系人強制連行などと比較、「日本政府はアジアにおける残虐行為の責任を認めるどころか、そのような事実を隠蔽することに血眼になっている」と主張。 「日本軍の残虐行為を後世に伝えるためのホロコースト歴史館」を建設するとして、展示と共に募金も行っていた。

こうした大東亜戦争中の日本軍によるありもしない残虐行為を糾弾し、日本政府に正式の謝罪賠償を要求する集会は、クリントン大統領の訪中に照準を合わせて、ニューヨークやロサンゼルスなど全米各地で開催されたという。

 同パーティーのホスト団体は、在米華僑商工会、 ワシントン中国人商工会、中国系アメリカ人作家協会、 中国人スポーツ愛好会、中日戦争の歴史を正しく記録する会 等で、400人入る会場は満員状態だったという。
 ステージには「日本による南京虐殺を決して忘れないための集会」と書かれた横断幕が掲げられた。

 アイリス・チャンに関わる「南京大虐殺の犠牲者を追悼する連帯」や「アジアにおける第二次世界大戦の歴史を保存するための世界同盟」は中共政府が裏で糸を引く団体で、チャンが取材で中共、台湾を訪れた時の旅費を提供した「太平洋文化財団」は中共と米国諜報機関が関与している団体、論文執筆中の活動費を負担した「ジョン・アンド・キャサリン・マッカーサー財団」は親中共・ソ連で有名な左翼団体。
 同書の出版社は中共市場への参入を狙うルパート・マードックの傘下の会社であるなど、同書を巡る政治的意図が暴露されている。

 また、同書を批判した斉藤邦彦駐米大使は、CNNからチャンと対談をしてはどうか、と持ちかけられた際、「受けて立つ」と考えていたが、大使館の幹部会(「シニア・スタッフ・ミーティング」と呼ばれ、各省庁から派遣されている公使、参事官クラスのトップだけで構成)で外務、法務、大蔵、通産、農水、科学技術、防衛など十省庁の責任者が集まり、意見調整が行われた。
 やる気満々で会合に臨んだ同大使に対し、一人を除く全員がテレビ出演に反対の意見を述べたという。理由は「史実の解釈に関する議論は泥沼化する恐れが強い」、「中国政府の反撥を招く」、「表現の自由を弾圧する行為と誤解されかねない」、「中国系市民団体の斉藤大使の罷免を要求するデモが大使館に押し掛けているのに、世界中に放映されるような番組に出れば、世界中の日本大使館が中国人デモに襲われる」など、弱腰で事勿れ主義に堕し、余りの反対意見の強さに結局、テレビ出演の申し出を断り、大使の考えを文書でテレビ局に伝えることにしたという。

 クリントン訪中時には、中共側は「南京屠殺記念館」への立ち寄りを執拗に打診している。

 中共は、1982年の「軍民統合政策」に基づき、人民解放軍関連企業を1万社以上発足させ、対外ビジネスに参入。
 米国でも、米中共通の敵として日本を悪者にし、チベット問題や人権弾圧など中共の悪いイメージを払拭し、米国の政治に取り入ろうとロビー活動に熱心に取り組んでいるが、浜田氏の論文で、アイリス・チャンの一連の日本糾弾運動もその一つであることが露呈した。

 わが国政府は、何の反論もせず傍観している場合ではない。

(『国民新聞』 平成10年9月25日)

http://www5f.biglobe.ne.jp/~kokumin-shinbun/H10/1009/100917propaganda.html
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題:チャイニーズ・アメリカンと反日プロパガンダ
氏名:北の狼 /日:2004/11/11(Thu) 23:51 No.1150

クリントン政権時代にアメリカで反日行動に向けて暗躍していた「チャイニーズ・アメリカン」について、過去(平成14年6月)に私が投稿したものを再掲しておきます。


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偶然でしょうが、『正論』(「反日」で結束するチャイニーズ・アメリカン;細谷茂樹)と『諸君』(アイリス・チャンらの妄動にご用心;古川勝久)の7月号で、ともに、チャイニーズ・アメリカンを中心とした活動についてのレポートが掲載されています。アメリカ、特にカリフォルニアを拠点として、所謂「戦後補償」問題で活動している人物や組織、そしてその背後についてのレポートですが、「南京事件」、「慰安婦」、「(捕虜の)強制労働」などの問題が日本国内の問題・議論という枠組みを越えて、完全に国際問題化(とは言っても、主として日米ですが)していることが理解できます。

結局、これらの問題はアメリカを舞台とした宣伝戦・プロパガンダ戦といっていいと思います。つまり、これは大東亜戦争の繰り返しないしは継続ですね。大東亜戦争における日本の敗因の一つに「宣伝戦・プロパガンダ戦の軽視」があったことは間違いないところですが、その問題がまだ解決していないということです。

1937年以降(それ以前からもですが)、「宣伝戦」においては、日本は完全に中国の後塵をはいしてました。宣伝の対象には、1)自国民に対するもの、2)敵国人に対するもの、3)第三国々民に対するもの、がありますが、中国が特に力を入れ日本を完全に凌駕していたのが「3)」です(特にアメリカ向け)。

日中戦争開始直後、宣伝戦では日本は中国に大きく水をあけられていましたが、そのことは日本側もある程度承知しており、親日的な外国人から指摘・忠告される始末でした。
有名なところで、近衛文麿首相(当時)の実弟である近衛秀麿子の(アメリカからの)帰朝報告を紹介しましょう。

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米国では敗けだ
小癪極まる支那側の宣伝戦術
兄貴に緊急報告

・・・・子は『アメリカに関する限りは宣傳戦では日本は完全に支那に敗北だ』と前提して示唆に豊んだ左のごとき視察談を行つた
『先刻も兄貴に話したのだが日本に對するアメリカの輿論はこちらで考へてゐるより遥かに惡い、連日の新聞紙上を賑はしてゐるのは上海南京發の特電(これも支那側の見た)で東京電報など一つもない、時たま載るのは外務省または陸軍省談といふ記事でそれも人目につかぬ片隅に小さく追ひ込まれてゐるといふ有様だ、滞米二ケ月、たつた一つ嬉しかつた記事は九月『ライフ』誌にあつた我が南京爆撃隊の一機が雄圖空しく仆れ、操縦士は愛機を出圃に突込んだまゝ鉢巻して割腹してゐる冩眞と記事ーーさすがにこれには日本武士らしい最期と書いてあつたーーこの記事だけだつた
何にもまして驚いたのは支那側の宣傳、ことに映画を通じての宣傳の巧みなことでそれが文學的ですらあることだ、たとへば常設館ののチャイナ・プロだ、まずM・G・Mの『大地』(支那人の土地愛を主題とした傑作映画)をやり支那人は敬虔勤勉、正直だといふ印象を輿へ、次にB・K・Oの『マーチ・オブ・タイム』これは南京政府がいかに文化施設に努力してゐるかといふ記録映画だ、そして最期にやるのが支那側のーー支那側のだよ あのカセイ・ホテルや南京路の爆弾投下の實冩映画、支那人の死軆のごろごろしてゐるのを見せるのだ、曰く『戦争の惨劇!』『日本の侵略』と來るのだ、そして日本映画といへば千住あたりの貧民窟や道路の上にねころぶルンペンの姿だ、これを文化映画『東京の街』として上映されるんだから全くウンザリしてしまふ、大局に見てアメリカが反日的なのは結局大衆が急角度に左翼化してゐるといふ點に帰しその意味で今回の事変は共産防衛の戦であるといふので一部では支持してゐるものもあるが、とにかく日本の宣傳下手には驚くばかりだ
・・・・・
(『大阪朝日新聞』昭和十二年十月十六日、一部の漢字を現代書きに訂正)
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上に補足しますと、「カセイ・ホテルや南京路の爆弾投下」とは、上海事変勃発当初、中国軍機が難民の密集地帯に爆弾を投下して多くの中国人を死にいたらしめたというものです。日時は八月十五日、場所はフランス祖界の新世界のカセイおよびパレスホテルのすぐ傍、爆撃機はマルチン重爆撃機、投下した爆弾は二発でイタリア製(当時中国軍は使用していたが、日本軍は使用していなかった)、死者百数十名、負傷者数百名。 外国人も死亡しており(アメリカ人三名、イギリス人四名等)、各国は正式に中国側に抗議しています。
ほぼ同時期(八月二十二日)、今度は国際祖界のシンシアーデパートとウィン・オンデパート付近にも中国軍機による爆撃が行われ、これまた中国側は日本軍機によるものと盛んに宣伝していました。しかし、外国関係者・報道機関の調査により中国軍機によるものと確認されたものです。当時、中国軍機は日本の民間人・難民めがけてしきりに爆撃を行っていたのですが、中国人難民と日本人難民を誤認して爆弾を投下したものか、それとも難民以外の目標を狙ったのが逸れたものかは不明のようです。

まあ、このままでは、日本は宣伝戦・プロパガンダ戦において「第二の敗戦」を向かえるのではないかという危惧を抱くのは私だけではないでしょう。

現在のところ、アメリカはブッシュ政権ですので、”常識的”な対応が期待できるとは思いますが。
例えば昨年九月、アメリカ議会の上下両院は「元米兵捕虜が強制労働関連の損害賠償を求めて日本企業を起訴した場合、司法省や国務省は元米兵捕虜が不利になるような申し立てをするために予算を支出してはならない」という内容の歳出法案追加修正条項を可決していますが、日本外務省が「日本が同盟国としてアメリカのテロ戦争に協力しているのに、その真最中にこのような修正条項を可決するというのはあまりにも配慮に欠けるのではないか」と反発し、これを受けたホワイトハウスの働きかけでこの条項は両院協議会で削除されています。日本のアメリカに対する「テロ撲滅支援策」が、「拉致問題」のみならずこういった方面でも影響を及ぼしているわけです。
現在のアメリカの”知日派”の代表といいますか最後の砦は国務省ですが、そこの副長官はリチャード・アーミテージ氏。そのアーミテージ氏との会談を(前外相)田中真紀子氏は直前になってキャンセルしてしまったのですが・・・。

アメリカにとっての懸念は、「日米同盟」の崩壊もそうでしょうが、アフリカ系アメリカ人グループによる先祖の奴隷強制労働をめぐる集団訴訟のほうが大きいでしょう。
これは、「日系アメリカ人は第二次世界大戦中の強制収容に対して補償を得ることができたのに、なぜアフリカ系アメリカ人にかつての奴隷労働に対して正当な補償を得られないのか?」という論理をもとにしています。
さらにヘタをすると、ネィティブ・アメリカン(インディアン)に問題が波及するかもしれません。

古川勝久氏も指摘していますが、これらの問題に共通しているのは、「イメージ」という問題ですね。議論の内容、法律、事実などといった判断材料よりも、(場合によっては薄甘いともいえる)「倫理感」にいかに訴えるかということが基本戦略にされています。その典型が、アイリス・チャンでしょう。


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『正論』7月号の「『反日』で結束するチャイニーズ・アメリカン」で細谷茂樹氏が以下のように分析しています。

まず、細谷氏はチャイニーズ・アメリカンを以下の三グループに分類します。


1)一般的な移民グループ(単純労働者)

一八四八年のカリフォルニア州のゴールド・ラッシュ以来、現在にいたるまで絶えることなくアメリカに移民してきた(中国生まれの)中国人。裸一貫、学歴や資本もなく、ましてや英語も殆ど覚束ないのが特徴です。戦前までは、「中国生まれ」のチャイニーズ・アメリカン(「一般的な移民グループ」)の出身地は殆どが広東省でしたが、現在は中国各地に分散する傾向があります。彼らは、サンフランシスコやニューヨークのような大都市のチャイナタウンを中心として居住し、コミュニティ(相互扶助組織)を形成してお互いに生活の面倒をみています。チャイナタウンの産業といえば、中華レストラン、服飾産業、クリーニングがご三家なんだそうです。
こうしたサンフランシスコのチャイナタウンを支配しているのが通称「シックスカンパニー」、正式名称は「駐美中華総会館」と称される結社です(全米の殆どのチャイナタウンに同様の組織があります)。シックスカンパニーは、中国で国共が対立している頃より国民党の盟友として共産党勢力を弾圧し、また、国民党のアメリカにおける反共ロビーイング活動の橋頭堡としての役割を担ってきました。ただし、現在は台湾一辺倒というわけではなく、大陸とも深く結びついているそうです。シックスカンパニーは、昔と比べて力が若干衰えたとはいえ、チャイニーズ・アメリカンの票欲しさにシックスカンパニーを詣でるアメリカ人政治家はひきも切らないそうです。
一九六五年のアメリカ移民法の改正(移民規制緩和)、米中国交正常化、中国の開放政策などの結果、このグループは一層の拡大を続けています。
このグループの者は、仕事や金銭などの現実的利益で動きやすく、利益供与によって反日デモなどに動員されているようです。


2)恵まれた移民グループ(インテリ、ビジネスマン)

1)と同様、中国生まれの移民ですが、アメリカの大学、大学院で学ぶ留学生や卒業後もアメリカで生活することを選んだ元留学生、アメリカを投資先と考える事業家、ビジネスマンが含まれます。1)の移民と比べて、はるかに学歴や経済力にめぐまれています。
戦後、特に台湾や香港が経済的に発展した後に出現しましたが、現在では中国本土の出身者が増加しています。
反日運動の指導者・活動家には、このグループの者が多のですが、彼らが反日運動に向かう理由を細谷茂樹氏の論文からそのまま引用します(『正論』7月号、319ー320頁)。

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さらに反日運動家ナンバーワンのリリアン・シンとその片腕リンチー・ワンの間には顕著な共通点がある。ともに共産党政権から逃れて香港に逃げ込んだ経歴の持ち主なのだ。彼らと同じように共産党から逃れて香港に逃げ込み、同時期にアメリカに渡って来て成功したチャイニーズ・アメリカンのビジネスマンは、自分の旧知のリリアン・シンの運動に対して、過去のことをほじくり返すなと非常に否定的な考え方を持つ。その彼にとって最大のトラウマは共産党に故郷を追われたことだ。リリアン・シンとリンチー・ワンも人生最大の悲劇は共産党に故郷を追われたことにちがいない。その原因は彼らにとっては日本の中国侵略なのだ。本来故郷を追われた直接の原因は共産党にあるのにもかかわらず、その共産党に負けて彼らの土地を守れなかった国民党を批判するのではなく、国民党の弱体の原因を作った日本に不満の捌け口を持ってきている。
そういう彼らの欲求不満の捌け口である日本の侵略行為を糾す反日運動は、日本での「反核」運動と同様、チャイニーズ・アメリカンの誰もが正面から反対できない。なぜなら、チャイニーズ・アメリカンの出身地がどこであれ、いつアメリカに渡ってきたのであれ、本人またはその親族の誰かは日本との戦争の目撃者であった。それ以降の中国現代史の中で、両岸に分かれた中国人が体験しえた歴史はない。日本の侵略行為は全中国民族が共有し得る最後の歴史である。それゆえ、仇敵シックスカンパニーも全中国民族の悲劇の歴史を振りかざすリリアン・シンに協力せざるを得なかった。
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「日本の侵略行為は全中国民族が共有し得る最後の歴史である」という下りには、「統戦」という言葉を連想させるものがあります。
何故、中国が、現在においても「南京虐殺」なるものを強調もし、問題にもするのか?
それを解く鍵となるのが「統戦」なのですが、それについて『新「南京大虐殺」のまぼろし』(鈴木明)から抜粋・引用します(24ー28頁)。

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無論「大虐殺記念館」も訪れた。前の年との比較は出来ないが、外景、内観とも、僕の感じでは、同じようなものだった。しかし、ただ一つだけ、新しく気がついた個所があった。それは入口のところに、いろいろな場所の名前を書いた「統戦委員会」という名の金色のプレートが貼りつけてあり、これらのすべてに「愛国教育(センター)」という文字が記されていたことである。
ここは、たしかに、「虐殺」を展示してある記念館であることは間違いない。「再びこのようなことが起きないように」という願いをこめてこの記念館が作られたことに、疑念をさしはさもうとは思わない。
だから、この記念館が「平和教育中心」であるならば、僕も納得できる。しかし「愛国教育」と「南京大虐殺」は、一体どこで結びつくのであろうか。
・・・・
最初に会った三十代後半の男性は、
「統戦の目的は、第一に台湾の開放です」
と、僕が全く予期していなかった答えをズバリといった。
「日本の辞書には何と書いてあるのか知りませんが、統戦の最終の目的は台湾を統一することです。そのために、日本が必要なら日本を利用し、アメリカが必要ならアメリカを利用します。それらの工作を総合して、統戦工作と思えば間違いないでしょう」
話は少し具体的になったが、それだけでは「南京大虐殺記念館」と「統戦」の関係はよくわからない。
この男性よりもう少し日本語がうまく、日本留学の経験も長く、いくらか年長の人物は、もう少し具体的に「統戦」という言葉の意味を解説してくれた。
「統戦部というのは、中国共産党の中で一番重要な部署の一つです。日本ではそういう官庁がありませんから説明が難しいのですが、統戦部は大きくわけて、二つの部署にわかれています。一つは対内的なもの、一つは対外的なものです。・・・・
統戦とは何か、というご質問ですが、例えば南京の”記念館”を例にとれば、内部的には、国民党、共産党を問わず、共に中国人のすべてがこのような災害を日本から受けた、ということを知らせ、これを知らせることは、”愛国教育”に結び付きます。また、日本人には、かつての日本軍国主義者がこのようなことをした、とPRすることで充分なのです。つまり、これが”統戦”という言葉の持った役割の一部なのです。”南京記念館”は、ことによるとそのシンボルのような存在なのかも知れません」
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「統戦」とは中国と台湾の統一のことであり、そのための工作手法の一つが「愛国教育」というわけです。ただし、「愛国」は「愛”中国民族”」と理解され、そのために中国人民と台湾人民の民族的一体感を醸成しなければならないのですが、その格好の材料が「日中戦争」であり「南京虐殺」であるということです。
つまり、「統戦」の理念は、上で述べたチャイニーズ・アメリカンの「日本の侵略行為は全中国民族が共有し得る最後の歴史である」というメンタリティと根底において軌を一にするのです。
言ってみれば「日本=絶対悪」とするのに中国人も台湾人もないというメンタリティ、これは以下の有名なエピソードからも窺うことができます(『諸君』7月号、「アイリス・チャンらの妄動にご用心」、古川勝久、107頁)。

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同論文では一九八九年、天安門事件直後、クリストフ記者がある中国人民主運動指導者から聞いたコメントを以下の通り紹介する。
「これからわれわれは日本人ビジネスマンを殺す。そうすれば日本企業は怯えて中国へ投資しなくなるだろう。そうなれば中国政府も大きな打撃を被るはずだ。・・・・我々が中国の民主化のためにできる唯一のことは日本人ビジネスマンを殺すことだ。・・・・やつらは所詮、日本人なのだ。日本の悪魔なのだ」
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3)アメリカ生まれのグループ(ABC: American Born Chinese)

1)、2)のグループの子供、孫、その子孫たちからなるアメリカ生まれの者たちで、ゴールド・ラッシュの頃移民してきたチャイニーズ・アメリカンの子孫ともなりますと、今や五代目のアメリカ生まれのチャイニーズ・アメリカンとなっています。
彼らは、言語だけではなく生活習慣や交友関係、ものの考え方までもすっかりアメリカ化しています。一般的に、彼らの父祖の国中国をみる目は概して冷めていますが、しかし、時として突然に「先祖がえり」を起して、アメリカ人としてではなく中国人として生きることを選ぶようになるようです。あのアイリス・チャンは、このグループに属します。
彼らにとって中国という地は理想の中にしか存在しないのですが、現実がどうあれ中国の地を侵略し蹂躙した日本という国は、理想の中国しか眼中にないが故に限りなく邪悪な存在に写るようです。


以上から、細谷氏は以下のように総括しています。

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こうして見ると、対日戦争責任追及運動とは、「恵まれた移民」チャイニーズ・アメリカンの捻じ曲がった欲求不満と「先祖がえりを起したアメリカ生まれ」のチャイニーズ・アメリカンの幻想の合体であることが分かる。
・・・・日系人にも触手を伸ばし、さらにはファインスタイン議員の例に見るようにアメリカのメインストリームの一角にも積極的に侵食していくであろう。
さらに、あちこちでかいま見る中国政府の影。
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