「カハッ!?」
腹部をえぐるような痛みが裕一の意識を覚ました。
片腹が無くなってしまったのではないかと思うくらいに痛みは深く、しばしの間、裕一は悶え、呻いた。
「何をしておる。」
不意に頭上から女の声が降りかかる。
自分しかいないと思ってた。
当然、裕一は肝が飛び出るかと思った。
その思いを後に引きずりつつ、裕一は起きあがり、目の前に凛と立つ美女を見やった。
墨のように黒く艶やかな髪に透ける程に白い肌。
その肌には目を背けたくなるほどに眩しく、色っぽいカクテルドレスが纏われている。
女は自分が「五行封印」であると言った。
おそらく投入されたデータの大本であろう。
体の周りを何色もの光がくるくる飛んでいるが、たぶんそれが五行の力なのだろう。
知識は入れていても、今イチ実感がわかない。
それは五行の力が非常に不可思議な力なのだからかもしれない。
「・・・五芒星を述べよ。」
「表五行、裏三行、天二理、冥二道。」
疑問に思うかもしれないが、これが正しい。
五芒星である水-土-金-木-木は星の基礎。
その上に裏三行と呼ばれる手に触れることは出来ない雷-風ー力(重力のこと)。
それが組合わさった八芒星の上に成り立つ陰-陽。
それとは別に存在する元(元素)-無。
それを全てひっくるめて五芒星と言うのだ。
それぞれに成り立つ根拠や理論なんぞというものは無い。
全ては星の勝手気ままな意志で存在するのだ。
たまに起こる天災などは星の意志。
抑制するなんてことは出来ない。
「よく出来た弟子だ。
 わらわは出来た弟子のほうが好きだ。
では早速、こつを言おうぞ。
星に愛されろ。それだけだ。」
・・・。
ポカンという擬音が合いすぎていて困る。
それだけ言われて、はいそうですか、と出来る方が全くおかしい。
星に愛されろ?
そんなのは言われれば、意味はわかる。
しかし要はどうやってそれをするかだ。
「こつを掴めばすぐにお主ならできるだろう。
流れに身を任せろ。」
女は裕一を横たえさせ、手で目を閉じさせた。
裕一は不意にこれが母親なのかと思い、安堵感に満たされるまま眠りについた。

何か・・・見える。
真っ暗闇の中に何か河のようなものが流れている。
しかしそれは決して一定ではなく、しきりに不特定な流れをしている。
近くまで寄ると、それがただの河でないことがわかる。
「星の血・・・かな。」
すぐに思いつくのが裕一の発想のいいところだ。
妙に鋭い。
これは星の血。
星の中を流れる生のエネルギー。
触れようと手を伸ばす。
指先が少し触れた瞬間。
一斉に様々な星の会話が流れ込んできた。
「うわっ・・・!」
全て聞くには量が多すぎる。
聞き流すには五月蠅すぎる。
宇宙並に容量が大きい裕一の脳内メモリーは今にもパンクしようとしていた。
「えっ、困るよ、そんなこと言われても!
俺はそんなことしようとは思ってない・・・。
やめろっ・・・来るな・・・。
お願いだから、来ないで・・・!
嫌だ、嫌だ・・・!」
星の意志は裕一の意志に関係なく入り込んでくる。
満杯のコップに蛇口で水を入れられ続ける。
まるでそんな感じだろう。
少しずつ裕一は精神を浸食され始めた。
星の意志に喰われる。
自分の意志を守ろうと裕一は必死で逃げた。
しかし絡みついた意志はもう解けない。
しだいに意識が透明になるのがわかった。
「ぁああ・・・ぐっ・・・。」
もうすぐで消える。
裕一は自分がもうすぐ死ぬと納得した。
その途端、先程まで嫌と言うほど流れ込んできた意識が急に消えた。
力が急に消えたので、裕一は前に広がる河にずっこけた。
しかし意識はただ裕一の体の中を流れ、通り過ぎていった。
これが流れに身を任せるということ。
裕一は意識に向かって、語りかけた。
「ありがとう。
 俺は相応しいんですか。
 星に流されていいんですか。
 そう・・・わかりました。」
裕一は目を開けた。
腹をえぐるような痛みを感じた頃から、さほど時間は経っていないように思う。
ただ女から見下されるという情報はさほど変わっていなかった。
今頃気づいたが、女の方が裕一よりも背が高い。
裕一は地味に凹んだ。
「良いではないか。
 背が低くとも、力は使える。
 わらわはお主のために祝おう。」
女は裕一を立たせると、額に紋様を描いた。
「お主は星に愛された。
 そして星となった。
 星になるということは、今まで誰もしてこなかった。
 しかし星はお主に自分となれ、と言った。
 それは星の意志だ。
 それを誇れ。
 自分が星であることを。
 そしてお主は星を動かせる。
 五芒星を大成した。
 さぁ、帰れ。
 お主の住む第7世界へ。
 お主の居場所はここではない。
 ここは中心の世界、ゼロ。
 お主は星自身。
 星の一部。
 この瞬間からお主は調停者。
 星はお主に名を与えたもうた。
 『調停者』。
 そして『銀の使い手』よ。」
裕一の額から女の指先が離れる。
起きると、そこはいつもの場所だった。

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