>いらしゃいまし、製造者・染谷。お久しぶりでございます。<
言い忘れたが、伊達の脳を統一しているシステムは多数ある。
その中でもこのシステムは伊達の知識を統一する“智”のプログラムだ。
それぞれのプログラムにはそれぞれの管理人がいる。
染谷を作成した時に担当した担当者の意識がプログラムを管理するために意識を残しているのだ。
>この度、あなた様がこちらのチップを坊っちゃんの中に入れたいということですが・・・。
 却下します。
 もう既に入れる場所がありませんことよ。<
嘘だ。
脳が全て活性化された伊達にはまだまだ知識の入っていない所のほうが断然多いのだ。
ここで言っておきたいが、脳が全て活性化された場合、通常は頭が桁違いに良くなる。
しかし伊達の場合、それはなされずに反対にその脳は超常能力に向いてしまった。
超常能力とはつまりは超能力のことである。
しかし超能力でも様々な形があり、伊達は“異常なスピードでの移動”という形で現している。
話がずれてしまったが、つまりチップが入らないということは嘘なのだ。
いくらチップの内容がとんでもなく多くても伊達の脳の内の1000分の1しか満たされない。
ただチップを入れるのは管理人なので、彼らの気持ちがのらない限りは無理なのだ。
『嘘をつくな。
 容量を見たが、まだ1%しか使用されていない。』
>手が早いことね。
 もう知っているのなら、嘘をついても仕方がありません。
 ワタクシの質問に答えて、ワタクシの気分をのらせてくださいまし。<
ここからだ。
染谷は機械に精通しているが、どうもこれだけは得意でない。
プログラムと会話する時点でまるで対人関係のような感じがするのだ。
むしろ対人関係と言っても、間違いはないかもしれない。
管理人は脳内で常に生きているのだから。
>まぁ、初めは簡単な質問をしましょう。
 そうね・・・。これができなければ、二度と坊っちゃんをいじることを許可しません。
 坊っちゃんの誕生日を答えなさい。<
『12月31日』
>正解。
 坊っちゃんが超常能力を使う際の能力の呼び名。
 これは初期製造者しかわかりませんことよ。<
『瞬足
 過去の遺物をあさればわかることだ』
>正解。ここからが本番ですわ。
 では・・・、坊っちゃんの心臓の停止スイッチを押してから、緊急プログラムが作動するまでの時間に1qを最高
 瞬足で移動する時間をかけなさい。<
『・・・0.3秒
 作動までの時間が60秒
 移動時間は0.005秒。』
>正解。
 坊っちゃんが極度に緊張したときの脳内活発度を0.37とする。
 これにくらべて、極度に興奮したときは0.2。
 何故、あきらかに脳内が活発している興奮に比べて、緊張のほうが高いのか。<
『人間は普通、興奮のほうが脳内が活発化する。
 だが、裕一の場合、興奮したときは脳内プログラムの内の鎮静化プログラムが働く。
 プログラムが働かない場合、1を越える。
 しかしプログラムが作動すると0.8以上を鎮静させる。
 そのために緊張した時のほうが脳内が活発かする。
 しかし通常は俺が手を加えたために鎮静化プログラムは起動しない。』
>・・・正解。
 あなたを相手にしていると、かなり疲れますわ。
 坊っちゃんは生まれた時に半機械化されました。
 何故、半機械化されても成長し続けたのか。
 そして何故、18歳で止まったのか。
 あなたもこれは仮説しかたてることが出来ないはず。
 でも甘くないわ。完璧に答えなさい。<
染谷の額に大粒の汗が流れた。
一見簡単そうだが、全然難しい。
これを考える前提にはまず伊達の体と機械を完璧に把握していなければならない。
染谷にはその知識は完璧に入っている。
それに加え、染谷は伊達が幼い頃からずっといる。
しかしそれだけでは駄目なのだ。
要は何故機械が成長できるかが、問題なのだ。
機械が成長することは完璧に異常なのだ。
それが起こってしまったのには何かしら原因がある。
何かしら・・・。
「(そうか・・・。)」
染谷は企みの笑みを浮かべた。
『俺がたてた仮説はこうだ。
 裕一を作った際、当初の目的は人間と機械が相容れて生活できるのか、だった。
 勿論、その目的は成功した。それは成長しないことを前提としてだ。
 しかししばらくして伊達夫妻は気づいた。
 裕一が成長していることに。
 これは本人らとしても、異常なことだった。
 夫妻は改めて裕一を検査した。
 そこで二人は気づいた。
 機械が意志を持って、伊達になついていることに。
 これはその他の製造者を管理人として脳内プログラムを作ったことが問題だった。
 管理人を作ることで裕一の負担を軽くさせ、その分他の所を作動させることができる。
 しかし裕一を愛してしまい、製造者の意志を聞かなくなってしまった。
 夫妻はこれを止めようと、あらゆる手段を尽くした。
 しかし夫妻らの意識とは別に脳内には別の意識があった。
 二人は己の未熟さと規定外のことに腹を立てた、又は失望して消えた。
 裕一をここに残して。』
管理人はしばらく何も答えなかった。
1分経っただろうか。
染谷には3時間にも感じたが、やっと管理人は答えた。
>最後はどうとして正解。
 最後はワタクシにもわからないからね。
 でもその仮説は完璧よ。機械がなつくということは異例だった。
 ワタクシを含め、管理人はみんな坊っちゃんが愛おしいのよ。
 だから夫妻を拒絶した。
 じゃぁ、最後にあの時に夫妻も答えられなかった問題を出すわ。
 何故、坊っちゃんは機械に愛されても他人には愛されなかったか。<
染谷はしばし黙った。
30分。
その間、染谷はただただ考えた。
自分らが過ごして来た時間を。
そしてやっと顔を上げた。
その年月をどう考えたのか。
染谷は軽く微笑んだ。
『それは・・・。
 周りの者は裕一を半機械として養おうとはしなかった。
 それは自分らが創造した物にも側に置くには不可解すぎる物であったから。
 そのために機械は自分らだけでも裕一を愛そうと思い、愛した。
 しかし・・・裕一は誰にも愛されなくなったわけではない。
 俺がいる。それだけで十分だ。』
>・・・チップを受け入れます。
 これから3分後に坊っちゃんを再起動します。<
終了。
1時間が1日に感じた。
染谷はただ黙って目を瞑る。
そして1時間を全て回想した。
あとは伊達自身だ。

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