染谷は薄暗くなった日本橋の中でも特に薄暗い住宅街の一角に馬をとめた。
ここなら他よりも治安も悪いので、警察も滅多に入ってこない。
馬がいたくらいじゃ、誰も驚かないだろう。
再び伊達を背負って、染谷は少し歩いたところにある倉庫に歩いていった。
既に日が陰りかけているせいか、辺りはガス灯の灯りが柔らかく照らしている。
ガス灯は電灯とは違い、非常に照らす能力が弱い。
なので、足下は光もほとんど届かずに暗いままだった。
倉庫の前まで来ると、染谷は右手をそれの壁に押しつけた。
反応はない。
しかししばらくして突然、壁から手の大きさの長方形のプレートが浮き上がってきた。
プレートは染谷の手を黄緑の光でかたどった。
しばしの沈黙の後、プレートは喋った。
『第2製造者と承認します。』
プレートは再び沈むと、今度は染谷の目の前の壁が大きく開いた。
そのまま染谷は中へと入っていった。
この場合、第1制作者とは伊達の両親ということだ。
染谷はたまたまこの場所を見つけ、無理矢理プログラムを改造して入ってしまったのだ。
プログラムの改造とはつまり、自分を第2製造者として承認させること。
機械などの電子機器に卓越していた染谷には少しいじるだけで楽に終わらせられた。
そもそも機械文明が突飛している日本帝国において、このような指紋認証システムはあたりまえのこと。
ただこのプレートは指紋の他に、肌の質感、手全体の皺の本数、色なども見る。
普通のよりも5倍は複雑になっているシステムを改造できるのは、余程機械に精通してなければできないだろう。
倉庫の中に入ると勝手に電気がついた。
そこには埃も被らずにただ製造者の帰りを待つ機材が並んでいる。
これから作業を始めると思いきや、まだ染谷らは部屋には入っていない。
部屋にはいるにはまだやらなければならないことがある。
おわかりの通り、それは消毒だ。
消毒なくして、部屋には入ることが許されない。
染谷はすっかり汗を吸った衣服を脱ぎ捨てた。
そして体全体に消毒霧を浴びる。
無造作にのばしている髪の毛を後ろで結び、口にはマスクをつける。
最後には別の白い衣服と白衣を着て、完成だ。
これでもう部屋に入ることが出来る。
染谷は伊達にもしっかり消毒霧をかけ、伊達を連れて部屋に入った。
部屋には数々の機材と真ん中に伊達の身長ぴったりに作られた台が置かれている。
伊達をうつぶせに台の上に乗せる。
すると台と伊達自身からすぐにコードがのびた。
コードは迷わずに周りの機材に直結していく。
染谷は伊達の顎の下に小さい枕を置いた。
こうすれば上から伊達の頭がちゃんと見えるからだ。
少々生々しい話になるが、染谷はメスを使って伊達の頭を開いた。
メスだからと言って切るわけではなく、メスが頭に入ったことで伊達の体が反応して頭が勝手に開くのだ。
更に生々しい話になるが、半機械である伊達の体には半機械の脳と半機械の心臓などが入っている。
その姿は説明も出来ないほどに気持ち悪い。
ので、ここからはチップを入れる表面上の話だけをしたいと思う。
染谷はチップを小袋から取り出すと、それを脳からのびたコードの上に乗せた。
コードは勝手に戻ってゆく。
一見、チップを入れるのはこれだけだと思う。
違う。
これからが本当の改造なのだ。
チップは既に伊達の脳内に入っている。
しかし今までに無いチップが頭の中に入れば、勿論体が拒絶する。
体は様々な質問を染谷に浴びせて、チップを追い出そうとする。
染谷の仕事はチップが規定の場所におさまるように、その質問に答えるのだ。
染谷はパソコンの前に座り、脳内から出されているデーターを見た。
今はまだ拒絶はない。
もし拒絶が始まれば、途端に通常のデーターではなく、質問が湧いてでる。
染谷は額から流れてきた汗を拭い、画面をじっと見つめた。

..........brain condition...ok
..........heart condition...ok
 ..........mind condition...ok
 ...
...
...
mode change///
This body rejects the chip.
Please repulse the rejection.
Please answer these question in Japanese.
...
...5
...4
...3
...2
...1
...0
「(・・・来た。)」

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