雷が落ちた。
伊達はそう思った。
全身に電気がずばっと走り、痛いと思うか思わないかの所で突然記憶が途切れた。
伊達の体は電源が切れたかのように急に前に倒れた。
力が抜けた体は重くなり、バウンドさえもしなかった。
ぴくりとも動かない体はただ畳の上に横たわっている。
言ってしまえば、伊達は逃げたのだ。
知らず知らずのうちに自分の体内の電源を逆流させ、ショートさせた。
あまりにも自分には重すぎる任務とこの空気に。
それに耐えられなくなって、逃げた。
電源の切れた今の伊達にはもう関係のないことだが。
染谷は黙って、伊達の体を背中に背負った。
力が抜けているせいか、かなり重く感じる。
「・・・チップを。」
帝が頷く。
チップは既に染谷の手の中にあった。
それを無くさぬように小袋にそれをしまった。
染谷はこれからそれを伊達の脳内に埋め込まなければならない。
作業にはさほど時間は必要ないが、その分数倍の集中力が必要となる。
伊達よりは軽いが、それでも重たい負担に染谷でさえも額から脂汗がにじみ出る。
染谷は会釈もせずにさっさと畳の間から去った。
二人は通った所だけ、少し汗ばんだ空気が残っていた。
「1年後にまたこの場所で会いましょう。
 その時には術を・・・よろしくおねがいします。」
帝は既に去った二人に深々と頭を下げた。
本当に彼らが国の希望だから。


染谷は洋館を出るなり、こっそりと皇族の馬を拝借した。
伊達を乗せ、自分は伊達を後ろから支える形で乗った。
馬を猛スピードで走らせるために、時たま伊達の体が宙に浮く。
向かうのは東京・日本橋。
旧染谷・伊達宅。の隣りにあるこぢんまりとしたトタンで作られた倉庫。
そここそが真の染谷の仕事場。
『超精密機械調節室』
部屋に名前などついていないが、言い表すとこんな感じだ。
その名の通り、超精密機械を扱う部屋だ。
特に伊達のような(伊達しかいないが)生身の肉体と隣り合わせの機械は菌が少しでも入ればアウトだ。
そのためこの部屋に入るためにはしっかり消毒してから入らなければならない。
それが面倒臭くて、染谷は1年もその部屋をほったらかしにしていた。
しかしとうとう再度部屋に入る時が来た。
伊達が生まれた場所へ。

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